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見上げるだけの天文部  作者: こおりがし


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第6話 何着ていく? 決戦の金曜日

第6話 何着ていく? 決戦の金曜日

 期末テストという名の嵐が過ぎ去り、金曜日の放課後がやってきた。解放感に満ちた部室(空き教室)はいつもより酸素濃度が高い気がする。


「終わったー!生き返ったー!私の脳みそ、今日から夏休み入りまーす!」


 星野キキが机の上でバンザイをした。テストの結果はまだ返ってきていないが、彼女の中では既に「過去のこと」になっているらしい。


「まだ終業式があるでしょ。・・・で、明日のことなんだけど」


小日向あかりが呆れつつ、話題を切り出す。


 明日は土曜日。天文部にとって初の校外活動、『プラネタリウム鑑賞会』の日だ。場所は池袋。都会のど真ん中である。


「はいはいはい!そこで重大な問題があります!」キキがバッと挙手をした。  彼女の鮮やかな金髪ポニーテールが、ぶんっと揺れる。


「みんな、明日の『装備』は決まってるの?つまり、、、私服!」


 その言葉に、部室の空気が一瞬で張り詰めた。女子高生にとって、休日の私服、それも友達と出かける時のコーディネートはテスト以上に深刻な問題だ。


「え、私服?、、、普通でいいんじゃないの?」


あかりがおずおずと答える。彼女のクローゼットには無難なデニムと、これまた無難なTシャツしか入っていない。


「甘い!激甘だよあかり!明日の戦場は池袋だよ!?埼玉の植民地とはいえ、都会は都会! ナメてたら埋もれるよ!」


キキが机を叩いて力説する。埼玉と池袋、双方に喧嘩を売りそうな発言だが、彼女なりの危機感らしい。


「あおいパイセンは?何着ていくんですか?」


キキの矛先がカメラの手入れをしていた深月あおいに向く。


「、、、別に。いつもの黒パーカー」


あおいは顔も上げずに即答した。


「動きやすいし、汚れ目立たないし、カメラ構えるのに邪魔にならない」


「却下ーッ!カラスか!せっかくの美少女が台無しだよ!」


(いやカラスて、、、)


キキが叫ぶ。


「もっとこう、夏らしいオフショルとかさぁ!鎖骨見せてこ!?」


「、、、露出狂の思考回路は理解できない。却下」


「なんだとー!」


 ギャルとオタクの仁義なき戦いが始まった。あかりは溜息をつき、窓際で微睡まどろんでいる部長に助けを求めた。


「みどり先輩はどうするんですか? やっぱり、おしゃれなワンピースとか?」


夏目みどり先輩は実家が謎に裕福っぽい雰囲気がある。きっと上品な服を持っているに違いない。


「ん~、私?私はねぇ、、、これで行こうかなぁと思って」


先輩はスマホの画面をあかりに見せた。そこに写っていたのは――。


「、、、着物???」


「うん。お婆ちゃんの浴衣をリメイクした甚平じんべいさん。風通し最高だよぉ」


「くつろぎすぎです! 健康ランドじゃないんですよ!?」


あかりのツッコミが響く。ダメだ。この部のファッションセンスは壊滅している。


「もー!全員センスが迷子!ファッションチェックするから、今夜LINEで写真を送ること!わかった!?」


キキが強制命令を下す。


「、、、めんどくさい」


あおいがボソッと呟く。


「でもさ、、、」


みどり先輩が、ふにゃりと笑って言った。


「プラネタリウムって真っ暗だよねぇ? 服なんて見えないんじゃないかなぁ?」


 その言葉に、全員の動きが止まった。確かに。目的は「暗闇」に行くことだ。誰に見せるわけでもない。


「、、、論理的。部長にしてはまともな指摘」


あおいが頷く。


「違うのー! わかってないなぁ!」


キキが頭を抱えた。


「暗くてもいいの!『可愛い服を着て出かける』っていうテンションが大事なの!乙女心なの!わかる!?」


 キキの熱弁にあかりは少し考えた。確かに、毎日制服ばかりの生活だ。たまには違う自分になって街を歩く。それ自体が「イベント」なのかもしれない。


「……わかった。私、帰ったらタンスひっくり返してみる」


あかりが言うと、キキはパァッと顔を輝かせた。


「さすがあかり!愛してる!あ、ついでに私の服も選んで? 実は今月ピンチで新しいの買えなくて、、、」


「結局それか!」


「ん~、じゃあ私もタンスの奥に眠ってる『勝負服』出しちゃおうかなぁ」


みどり先輩が意味深に笑う。甚平以上の衝撃が来る予感がして、あかりは背筋が寒くなった。


「、、、私はパーカーで行く。絶対に変えない」


あおいはかたくなだ。


 こうして、決戦の金曜日。それぞれの思惑とセンスを乗せて、夜が更けていく。果たして明日の集合場所にはどんな4人が現れるのか。あかりは一抹の不安を抱えながら帰路につくのだった。

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