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第095語 選択肢

3000字超です。

ゆったりと読める時間に読んでいただければ幸いです。


 ローズライトさん曰く、護送馬車はかつてのわたしを乗せるために手配されたものだそう。

 村長さんが特別製の牢屋を手配したときの話。なんだかかなり昔のような気がする。

 首都から二週間はかかると言っていた。星渡門は人しか渡れないから、首都を出発した護送馬車は地道に道を進むしかない。


 わたしは邪魔にならないように、南東区域の丘へ行った。


 ローズライトさんは、スマザさんと守っていた村長さんの二人を護送馬車に乗せた。

 他にも、残った部下の人達に、旧村長宅を調べるように指示を出しているのかな。わたしが印刷した絵を渡しているから、調べやすいと思う。建物の形は変わっちゃったけど、場所が変わっているわけではないから。


 わたしの頭の中に、まだ記憶として残っている。地下に、白骨化した人達が眠っていると。

 どうか、亡くなった人達が天に昇れますように。


 明日には、クホイに避難した村の人達も戻ると思う。その中には、亡くなった人達の縁者もいる。

 きっと、悲しみにくれることだろう。でも、行方不明という状態が解除される。悲しんで、死者を悼んで、それで前を向く。

 人は強い。そうして、自分に与えられた時間を歩んでいく。


 南東区域にできた丘に座って、村を見下ろす。ここはさわさわと爽やかな風が吹く場所で、ぼーっとするには最適だった。

 そこへ、ローズライトさんがやって来る。


「アンネ殿。わかりやすい場所にいてくれて良かった」

「どうかしましたか」

「アンネ殿。その……ルベルと、何かあったのか」

「ふふっ。ローズライトさんが言い淀むなんて珍しいですね。すみません。空気が悪かったですよね」

「い、いや……」

「ルベルから、告白されました」

「そ、そうか。ルベルも、ようやく……」


 ローズライトさんとルベルは、ルベルが首都の魔法師養成学校へ行っていたときからの仲だ。その頃から、ルベルから聞いていたんだと思う。

 幼なじみ達も、知っていた。わたしだけ、何も気づかなかった。

 いや、違うかな。気づかないようにしていただけなのかもしれない。


「わたし、断りました。ルベルからの告白」

「そ……それは、なぜだ? ルベルなら申し分ないと思うが」

「ルベルに限らず、わたしは誰とも付き合いません」

「そう、か……。まあ、それもアンネ殿の選択だろう」

「聞かないんですか? どうして付き合わないのかって」

「アンネ殿が、つらそうな顔をしているから。話したくないのなら、無理やり聞く必要はない」

「顔に出ちゃってましたか……笑顔でいるのは、慣れていたつもりだったのに」


 足を抱え込んで座る。その中に顔を埋めるようにしていたら、二人分くらいの距離を置いてローズライトさんが座ったとわかった。


「アンネ殿は、どうしたい?」

「……どう、とは」

「アンネ殿が望むなら、村を出れば良い。星渡人だから、国からの援助も入る。ヴァランタン国内であれば、どこでも行ける」

「でも……国に申請しないと、いけないんですよね?」

「自由に生きたいということであれば……少々強引ではあるが、一つ方法がある」


 わたしが顔を上げると、ローズライトさんは真剣な顔をしていた。


「今、廷臣法官は男所帯だ。今回この村へ来て、アンネ殿の細やかな配慮に感服した。オノマトペの魔法はまだまだ無限に可能性が広がりそうだし、何より、廷臣法官に女性も登用すべきだと考えている。その第一号にならないか。そうすれば、給料という名目で援助ができる」

「お誘いはありがたいですけど……それを一般的に見たら、わたしはローズライトさんに囲われる愛人みたいな感じになりませんか」

「なっ、そ、それ、はっ……」


 ローズライトさんが顔を真っ赤にして立ち上がった。それは怒りか、羞恥か。


「ふふ。すみません。わかっています。王族として、ということですよね。そうだとしても、手続きは必要なんじゃないですか」


 ぷしゅーっと、まるで空気が抜けるように座りこむローズライトさん。この様子だと、さっき顔を赤くしたのは羞恥の方かな? ローズライトさん、その手の話に免疫がなさそうだし。


「……アンネ殿の言う通りだ。融通を利かせるために最も効率的なのは、国へ申請を出すことだ。しかし、星渡人の再来は久方ぶりで、国に申請をすれば大々的に取り上げられることになる。アンネ殿が求める、スローライフは送れなくなるだろう」

「んー、それは困りますねぇ。わたしは、ゆったりと過ごしたいので」

「では、どうする? 村では居づらくないか」

「そうなんですよねぇ……」


 村には居づらい。でも、ここがこの世界での故郷だ。できるなら、村で過ごしたい。

 とはいえ、わたしが思いついたオノマトペの数々は祭司様が持っていた本に全て記載されていくはず。


「そうだ、ローズライトさん。成人の儀のときに祭司様が持っていた本って、誰でも見れますか」

「神殿に仕えるものであれば誰でも見られるが、それがどうかしたのか」

「んー……それなら神殿関係の人には、わたしが星渡人だってばれちゃいますよねぇ。それなら、面倒なことになる前に手続きをしちゃった方が良いのかなぁ」

「そういうことなら、問題はない。基本的に星渡人の行動を妨げてはいけないと法律で決まっている」

「えっ、それなら申請しても問題ないんじゃ?」


 質問すると、ローズライトさんはわたしから目をそらした。いつでも真っ直ぐ前を見るローズライトさんにしては、珍しい仕草だ。


「……法律では、星渡人の自由は保障されている。しかし、その法律を決めるのは王族だ」

「あー……なるほど。基本的には自由で良いけど、王族からの要請は受けてねって感じですか」

「星渡門も、王族からの要請で作られたものだ」

「移動、便利ですよねぇ。あれがないと、二週間馬車移動しないといけないですし」


 ローズライトさんの様子だと、前の星渡人は空間を操る系のスキルだったのかも。そうだとしたら国も引き留めるのに必死だったんじゃないかな。いくらでも、場所を移動できただろうから。


 星渡人として申請すれば、一生食いっぱぐれない。でも、完全な自由ではなくなる。

 わたしが生きる上で、何を重要視するかっていうのが、大事。


「んー……申請するかどうかを決めるのは、一年待ってもらえませんか」

「申請したら、自由は少なくなる。大事なアンネ殿の人生だ。ゆっくり考えてもらえたらそれで良い」

「ありがとうございます」

「神殿の関係者が動かないように、睨みを利かせておく。一年は、アンネ殿に接触させないようにしておこう」

「ありがとうございます。期待していますね?」

「ああ。任された」


 ローズライトさんが丘から去って行く。


「さて、これからどうしようかな」


 たぶん、わたしが星渡人だと国に申請しないといけなくなると思う。これからもっとオノマトペを使うから、オノマトペの項目が増えるだろうから。

 でも、この世界の故郷であるここでやりたいことがある。

 オノマトペ大国、日本からやってきたわたし。日本に帰りたいと思っているわけじゃない。でも、この世界で日本の良いところを広めたいんだ。


「あ、そういえば……村長さんが護送されたら、誰が村の長をやるんだろう? 新しい村長に、わたしの案を伝えてみなくちゃ。それでダメなら、また考えよう」


 新村長が誰であれ、一度ルベルとは話しておこう。気まずいままじゃ、ダメだと思うから。







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