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第094語 ルベル


「なあ、アンネ。ちょっと良いか」

「ん? どうしたの?」


 ルベルに呼ばれ、庁舎を出る。それだけでなく、庁舎から離れて枯れた小湖と幹だけの月桜の所まで行った。

 月桜を見上げるルベルの顔が、寂しそうに思うのは気のせいかな。


「……記憶、全部取り戻したんだろ?」

「うん、そう」

「アンネは、この世界に来て良かったか?」

「え、なんで?」

「アンネは、星渡人だ。ここではないどこかに故郷がある」

「そんな……そんな、寂しいことを言わないでよ。わたしは確かにこの村の外から来たけど」

「違う。そうじゃなくて……」


 ルベルは、月桜の根元に頭を抱えて座りこむ。わたしも合わせて、隣に座る。


「……レオンに言えば、もしかしたら元の世界に戻れるかもしれない」

「そうかもしれないねぇ。でも……」


 戻る気はないよ。

 そう続けようとしたのに、ルベルが今にも泣きそうな顔を上げた。


「そう、か……。レオンから、教えてもらったのか」

「教えてもらったっていうか、聞いちゃったというか」

「そうか……。アンネは、一線を超えたんだな」

「え、一線ってなに? 何の話?」


 話が噛み合っているようで、噛み合っていない気がした。今このタイミングを逃すと、後からじゃどうにもできないほどこんがらがっちゃうかも。

 そう思って止めたら、なぜかルベルは驚いたような顔をしている。


「何ってその……レ、レオンと恋人同士になったんだろ?」

「……はぁ?? どうしてそうなったの」

「いや、だってほら……村を出て戻ってきてからやたらと親しげだろ? レオンは見た目も良いし、確か婚約者もいないはずだし」

「……。確かに、ローズライトさんは婚約者がいないって言ってたよ? でも」

「ほら、やっぱりだ。あのレオンが積極的に話しているからそうだと思ったんだ。ははっ。そうか……まあ、そうだよな。あいつは不器用に見えるが、良い奴だ。レオンが婚約者云々の話をするなんて、もう確定だろ。式には呼んでくれよな。やるとしたら首都か? 首都ならクホイまで行けば星渡ですぐだな。ああ、そうだ。星渡といえば」

「ストップ! ストーーーップ!!」


 早口で話して止まらず、且つわたしに背を向けたルベルの背中に向けて、育ての親であるウィーバーさん直伝のクロスチョップを繰り出した。鍛えられた身体を持つルベルを転ばせることはできなかったけど、蹈鞴たたらを踏まることに成功。

 驚いているルベルに、ビシッと指を差す。


「ルベル!! 勝手に暴走しないで、わたしの話を聞いて!!」

「お、おう……」

「まず、わたしは星渡人だけどこの世界での故郷はこの村! わたしがスローライフを送りたいって、ルベルも知ってるでしょ!!」

「そ、そうだな」

「次! ローズライトさんの婚約者云々は単なる世間話ぐらいのこと! ローズライトさんは確かな身分の人なのに、わたしとどうこうなるなんてあり得ないでしょ!」

「いや、そうでもない。星渡人は存在自体が貴重だ。王族に連なることだってあり得る」

「だーっ、もう!! 何で、ローズライトさんもルベルも、星渡人をそんな扱いにするかな!? わたしは、わたし! でしょ!?」

「ま、まあそうだな」


 納得してくれたようで良かった。

 わたしは自分の意思を伝えないことで、前世は失敗した。でも、こうして意見を言えば答えが返ってくる。間違っていれば指摘するし、されることもあると思う。

 でも、何も言わないですれ違うだけよりずっと良い。

 今を、生きているんだから。


 わたしが腕を組んで満足げにしていたら、ルベルが何か考えこんでいた。

 わたしよりも少し背が高いルベルの顔を、下から見上げる。

 どうしたの、と声をかけようとしたら、両肩をがしっと掴まれた。


「アンネ!!」

「っ、は、はい!?」

「アンネ! おれは、アンネが好きだ!! レオンと何もないなら、おれの恋人になってくれないか!!」


 ルベルの勢いに合わせて、わたしも返事をした。

 でも。


「……それは、あれ? その、前に言っていた、子供二人とかってやつ?」

「そ、そうだ!! もっと多くても良い! アンネとの子供なら何人いても絶対、かわ」

「ごめん」


 興奮気味のルベルの両手を肩から外す。

 顔色を見られないように、俯いて一歩離れる。

 前世頭痛だ。目を開けられないほど痛い。

 でも、ここでそんな不調を見せちゃダメだ。


「アンネ……?」

「ごめん、ルベル。わたしは……」

「あ、そ、そうだよな。急な話だったからな。返事は、急がない。アンネがしたい時にしてくれたら」

「そうじゃない! ……そうじゃ、ないの。ごめん、ルベル。わたしは、誰ともそんな関係にはならない」

「誰とも……?」

「そう。誰とも」


 前世のわたしは、お母さんに愛されていないと思っていた。それはもしかしたら、わたしの誤解だったかもしれない。

 でも、と思ってしまうんだ。

 もし子供ができたら、わたしはその子供を愛せるのかって。だってわたしは、愛され方がわからない。どんな行動をすれば、愛されているって子供に実感させられるの?


「……ルベルの気持ち、嬉しかった。ありがとう。でも、ルベルならもっと他に良い人がいるよ。村への情熱も、子供への愛情も、その人と一緒の方が良いと思う」

「アンネ……」

「ごめん、ルベル。幸せになってね」


 ルベルの前から去る。

 このままどこかへ行けたら良かったけど、誰にも行き先を告げないのは良くない。前世みたいに、構ってちゃんにはなりたくないから。

 ひとまず、庁舎へ戻ろうと思った。でも、仮に戻ったとして、わたしはどこへ行きたいんだろう。

 ルベルからの告白を断った以上、今までのような関係ではいられないとよね。でもそうすると、わたしはどこへ行けば良いんだろう。

 悩んでいたら、村に一台の馬車がやってきた。鉄格子がはめられているそれは、護送馬車かな。

 どうしてこのタイミングで、と思いつつ、庁舎へ行ってローズライトさんに伝えた。







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