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第093語 村長

3000超です。

ゆったりと読める時間に読んでいただければ幸いです。


 村長さんは、まるでスマザさんを守るように息子を背中で守る。守られているスマザさんは周囲の状況なんて見ていないように、一心不乱に本を読んだまま。


 ローズライトさんが、一歩前に出る。その瞬間、村長さんは前世が日本人のわたしでもびっくりするほど綺麗な土下座をした。


「どうか、どうか! ポンタンちゃんだけは命を助けていただきたいのです!!」

「村長。まずは何があったのか、詳しく話してもらおう。裁定はその後だ」


 コナーさんに促され立ち上がる村長さん。自分の罪は認めているみたいだけど、スマザさんと離れるのは不安みたい。

 というか、村長さん。少し見ないうちに老け……えぇと、年相応に見えるね。美魔女っぽかったのに。

 というか、美魔女っていくつになっても使っていいものだよね?


 ぼんやりと考えていると、ローズライトさんがスマザさんに風魔法を使う。わたしが、小湖の津波から助けてもらったあの魔法。

 巨体を物ともしない魔法は、覚えられたら便利そう。オノマトペでも応用できるかな。純粋な、風魔法しかダメかな。


 わたし、ローズライトさん、コナーさん。村長さん、スマザさん。ルベルとラタムさん。

 村にいた全員で庁舎の五重塔へ向かう。前の造りの方が部屋数は多かったけど、一階を受付とすると上の階は重罪人を入れておくと良いのかな?

 中心には地震に耐える用のやつもあって、それの周りを螺旋階段で上に行く感じ。木製だけど緩やかなカーブ状になっていて、何となく違和感があるんだけど、しっくりもくる。


「アンネ殿。この建物は、どう使えば良いのだろうか」

「以前のように使っても問題ないと思いますし、今回はひとまず一階部分で話を聞けば良いかと」

「なるほど。了解した」

「そうだ、ローズライトさん。村の人達を呼び戻した方が良いと思うんですが」

「そうだな。コナー。クホイまで行ってきてくれるか」

「了解です」


 コナーさんが庁舎から出て行く。

 そして、未だに読書に集中しているスマザさんを見つつ、村長さんがこれまでのことを話し始めた。


「……スマザ家は、代々この村を守ってきました」


 そんな言葉で始まったスマザさんの話は、驚くべき内容のものだった。

 ここの村を初め、ヴァランタン国内の東西南北の端の村には各属性の守り神がいるのだそう。

 それは不定形で、普段は地下深くに眠っているものらしい。各村の守り神と同じ属性の魔力を注ぐことで、封印していたのだと。


「そんな大事な役割を、どうして放棄したんだ」

「それは……」


 村長さんが、スマザさんを見る。


「……ポンタンちゃんが、住みやすい環境へ引っ越そうと思ったの」

「村長の役目を放棄して?」

「ポンタンちゃんは、四十五歳。今さらお嫁さんなんて望まないわ。ここは狭く、外の世界から閉ざされた村。外へ行けば、ポンタンちゃんが可哀想な子だと見られないと思ったのよ」


 水属性の村長さんから、地属性のスマザさんが生まれた。それは、辺境の村でどれだけ好奇な目で見られたことだろう。

 そう、思ってから一つの可能性を考えた。


「あの、村長さん。村長さんの旦那さんも水属性だったんですよね?」

「えぇ、そうよ」

「ちなみになんですけど、村長さんか旦那さんのご両親に、地属性の人っていませんか」

「あたくしの父がそうだったけれど……何か? 両親のどちからかからの属性しか生まれないから関係ないじゃない」

「いいえ、それがそうでもないですよ。隔世遺伝って言葉があって、スマザさんはそれなんじゃないかなって」

「かくせいいでん?」


 村長さんだけでなく、スマザさん以外のこの場にいる人達全員の視線が集まる。


「隔世遺伝というのは、両親には出なかった祖父母の特徴が現れるというものなんです」

「なるほど……。初めて聞く言葉だが、そんな遺伝の仕方をするものなのだな」

「まぁ、両親から受け継ぐことの方が多いですから。知られていなくても仕方ないです」


 お母さんからの愛を求めて、いつだったかに調べたことがあった。わたしとお母さんがあまり似ていないのはどういうことだろうって。

 今なら、メイクの仕方だとか年の取り方だとか色々と考えられるけど。子供のときは、そんなことなんて思いつきもしなかったし。


「……それじゃぁ、ポンタンちゃんは本当にあたくしの子なのよね?」

「当たり前です。というか、村長さん自身が一番わかっているんじゃないですか。自分のお腹を痛めて産んだんですから」

「あ……あぁっ……っ」


 村長さんが、泣き崩れてしまった。

 自分が産んだと自覚はあっても、周囲の目がその自信を揺らがせたのだと思う。それこそ、隔世遺伝のことを知らなければ、一番信じてほしい旦那さんにも疑われたかもしれない。


「大変でしたね。信じてくれる人が誰もいないって、つらいと思います。でも、スマ……ポンタンさんは、確実に村長さんの息子さんですよ」


 ポンと肩を叩く。すると村長さんは、さらに声を上げて泣いた。

 少し前までの村長さんであれば、そんな醜態をさらさなかったかもしれない。でも今は、心底安心しているんだと思う。ずっとスマザさんを守るためだけに、周囲に棘を出して警戒していたと思うから。

 スマザさんは大いに泣くと、男性陣を残してわたしだけ庁舎の端の方へ呼んだ。


「……今まで、悪かったわ。暮らしにくかったでしょう?」

「いいえ。わたしには、ルベル達幼なじみがいたので」

「そう。それなら良かったわ。その……不躾なお願いだとは思うのだけど、あたくしの目元の腫れを引かせるようなことはできないかしら。このまま調べを受けるには、みっともない姿だから」

「村長さんは水属性なので、ご自分でできるのでは」

「ここには鏡がないじゃない」

「わかりました。ちょっと待ってくださいね」


 村長さんの様子を見ていたら、忘れていた思い出がまた蘇ってきた。

 あれは、いくつのときだったかな。お母さんがお兄ちゃんの習い事先まで送った後、勝手についてったわたしを車に乗せていた。

 お母さんは運転手さんに車を止めさせて、巾着から丸い手鏡を取り出していたっけ。どうして急にって思って車の外を見たら、お父さんが誰かと歩いていた。


 結局お母さんは車を降りることなく家に戻ったけど……。

 女性として、凛とすべきタイミングっていうのは何となくわかる。恋した相手の前だったり、気合いを入れるためだったり。


 思い出しながら、わたしは村長さんの目元に右手をかざした。


「【ひんやり】目元を冷やしましょう。ゆっくりじっくり腫れよ引け」

「すごいわね。こんなに優しく冷やしてくれるものなのね」

「肌とか髪の水分もいけますけど、どうします? 唇も潤っときます?」

「ふふっ。こんな老婆にそんな気遣いはいらないわ。目元だけで十分」


 わたしからの魔法を受けながら、村長さんが笑った。その笑い声はとても自然で、村を災害に巻きこまずにどうにかできたんじゃないかって思う。

 こんな風に笑える村長さんなら、もっと何か方法があったはずだ。


「これでどうでしょう」

「良いわね。感謝するわ。ありがとう、アンネ」


 顔のシワは取れていないから、今の村長さんは年相応に見える。全然年は違うんだけど、前世のお母さんを思い出した。

 愛されていないって思って距離を取っていたけど、案外普通に話せたかもしれない。緊張しないで、話せていたら。

 ……もしかしたら、前世のわたしはまだ生きていたかもしれない。


 ローズライトさんの元へ、村長さんが戻った。これから、村長さんへの取り調べが始まるんだろう。

 ローズライトさんはこれまでの経験から、村長さんの言葉の真偽を確認しながら聞くのかな。でも、今の村長さんからは全て真実の言葉が出てくると思う。


 わたしもローズライトさん達の所へ戻ろうとしたら、集団からルベルが出てきた。







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