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第090語 赤黒い化け物①


「あ、あれは……」

「ローズライトさん、あれ、何ですか」


 ローズライトさんが危惧していた通りになってしまったかもしれない。

 きっと、村長さんは後援者の人に手を切られてしまったんだと思う。それで、あの化け物を生み出した。


「……わたしは今、幻を見せられているんでしょうか。右手に、ルベルが取り込まれているような……」

「残念ながら、私にも同じように見える」

「顔と左手にも、人がいるみたいですよ」


 村長宅を壊して出てきた、赤黒い化け物。それはとても大きく、少し動くだけでまだ壊れていなかった南西部の建物を潰していく。

 ずっ、ずっと、まるで巨大なナメクジが這い蹲るように動いているのは、足がないからかな。今はまだ、そんな緩慢な動きだから様子を見ている余裕がある。

 それでも、少しずつこちらへ近づいてきているような気がした。


 頭には村長さん。右手にルベル。そして左手にはラタムさん。三人とも、意識がないように思える。


「ローズライトさん! どうしましょう!?」

「まず、人質たちを解放しよう。コナーは迎撃準備、アンネ殿は攻撃手段を考えてほしい」

「了解」

「わかりました」


 ローズライトさんとコナーさんが詠唱を始める。

 今、この場には魔法師しかいない。こういう不定形っぽい化け物って、剣で斬った方が良いような気がする。

 オノマトペって、攻撃の方法ってあるのかな。


「っ!! ドードー流れる水の壁。右から左へ、上から下へ。わたし達を守り抜け!!」


 考えている最中、赤黒い化け物は右手を触手のように細く伸ばして殴りかかってきた。だから素早く両腕を動かして「ドードー」を発動させる。

 攻撃は防げたけど、化け物の右手と接触した水流の壁は右手に吸い込まれていく。


「うそっ!? そんなことってある!?」


 わたしが驚いている間に、ローズライトさんとコナーさんが詠唱を終わらせた。それぞれ水のドリルのような渦巻く攻撃や投げ槍で化け物へ魔法をぶつける。

 でも、ダメだ。

 わたしの水流の壁が吸い込まれたように、赤黒い化け物は二人の攻撃も吸収してしまった。


 ニヤリと、化け物が笑ったような気がする。


「ローズライトさん!! あいつには、水の攻撃が効かないみたいです!!」

「そのようだな!!」


 ローズライトさんが、剣を抜いて走り出す。そして斬りかかるけど、斬られてもすぐに再生しちゃう。

 赤黒い化け物と思っていたけど、あれは水分の塊のようなもの。水は不定形で、幾重にも姿を変える。そんな相手と、どうやって戦えば良いの。


 ローズライトさんが、何か勝機を掴めないかと何度も斬りかかっている。


「コナーさん! コナーさんは水属性なので、この場では不利です。安全な所へ」

「俺も男です。レディを残しては行けませんよ!」

「コナーさん!!」


 コナーさんも、剣を抜いて走り出した。赤黒い化け物の足下でコナーさんが斬り始めると、逆にローズライトさんは戻ってくる。

 作戦会議をしなければ。何か、対策を。


 そう考えたわたしの目に、信じられない光景が目に入ってきた。


「コナーさん!!」


 わたしの叫び声を聞いて、赤黒い化け物から離れていたローズライトさんも振り返る。

 化け物の足下で剣を振るっていたコナーさんが、ルベル達のように取り込まれてしまった。


「コナー!!」

「ま、待ってください、ローズライトさん!!」


 わたしは、恐ろしい仮説を立てた。その仮説が正しければ、ローズライトさんも危ない。

 ローズライトさんは今にも走り出しそうだったけど、止まってくれた。その代わりに、わたしの方へ駆けてくる。


「アンネ殿! 何か秘策が!?」

「……あの化け物は、水属性の魔法師を取り込むかもしれません」

「何だって!?」


 バッと、ローズライトさんが赤黒い化け物を見る。

 頭には村長さん、右手にはルベル。左手にはラタムさんがいて、右足にはコナーさんが取り込まれてしまった。

 みんな、水属性だ。


「そうか……かつての被害者達も、水属性だったか」

「そうです。あれはたぶん、水の魔力でできているんだと思います」

「さらなる力を得るために、同じ属性の魔法師を取り込むのか。村人達を非難させておいて正解だったな」

「えぇ、本当に。でも、そんなに悠長なことは言ってられないみたいですっ」


 ローズライトさんと話していると、赤黒い化け物は右足を上げた。その瞬間、さっき見たばかりのコナーさんの攻撃みたいな槍が飛んできた。


「あの化け物、魔法を複製できるんでしょうかっ」

「いいや、それはない! 私の攻撃や、アンネ殿の、防御ができて、いないっ」


 コナーさんのような、水の槍。ルベルのような、水の矢。行く手を阻むような水の箱を作り出したのはラタムさんかな。

 赤黒い化け物から放たれる攻撃の数々に、わたし達は防戦一方だ。

 ここにローズライトさんが放ったような強力な攻撃が来たら、たまったもんじゃない。確かに、魔法の複製をしているわけではないのかも。


 あの化け物に取り込まれている全員が意識を失っているように見えるけど、攻撃の方法は恐らく各個人の魔法。


「早くっ、みんなを助け、ないとっ」

「そうは、言ってもっ……この、状況で、はっ」


 あの化け物の驚異的な攻撃手段をまず絶たなければ、何も対策できない。

 わたしはどうにか、ローズライトさんは余裕があるように化け物からの攻撃を避けながら距離を取る。

 僅かに残っていた建物の土台とかもあの化け物が壊していくけど、壊れたものは後で直せる。新しくできるから、今はひとまず倒すことを優先しよう。


 攻撃を避ける過程で、どれくらいがその範囲かわかった。その範囲外の距離を取るようにしていると、ローズライトさんが詠唱を始める。


「大気を巡る水のマナよ、大気を舞う風のマナよ。水と風の魔法師レオンハルト・ヴァランタンが命じる。異空間よりローブを取り出せ」


 なぜ今? それに、ヴァランタンって……!?

 聞きたいことは山ほどあったけど、ローズライトさんは取り出したローブをわたしに差し出してきた。


「え、えっと??」

「水の攻撃により、アンネ殿の身体の線が露わになっている。ローブを着ると良い」

「あ、はい。ありがとうございます……」


 緊迫した今の状況に似付かわしくないから、首を傾げる角度が止まらない。

 それでも、ローズライトさんがわたしに背を向けるようにしてローブを差し出しているから、素早く上から着た。


「えぇと、着ました」

「よし。では、あいつを倒す作戦を考えよう」


 聞きたいことは山ほどある。でも今は、ローズライトさんが言うように赤黒い化け物をなんとかしないといけない。







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