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第086語 ルベルの気持ち


 ルベルに攻撃されていた人、わたしの水流に触れて濡れた人などなど。わたしは服が濡れている人がいなくなるように、視界の範囲全てに「ふわふわ」をかける。

 大量の羊毛を抱え込むようにした両腕を、解き放つように大きく広げた。


「ふわふわ、ふんわり、乾燥完了。これで風邪も引かないね!」


 詠唱の後、親指を立ててグッドサインを出す。そのときに決め顔になるのは、オノマトペの魔法を使うときの代償だ。わたしの意思じゃ、ない。


 わたしのことを星渡人だと知らない残りの幼なじみ三人に、現状を伝えた。

 星渡人とは何かをローズライトさんから聞いて、ようやく可哀想な子みたいな視線じゃなくなる。


「えっと、ルベルのことなんだけども!」

「ルー君はねぇ……」

「ルベルはねえ……」

「ルベルは、まぁ……」


 ディリィもカペリもポアルも、三人とも同じ反応をしている。

 わたしは七歳の頃から一緒にいるけど、三人はそれよりも前からルベルと一緒にいた。わたしにはわからないことも知っているのかもしれない。


「ねぇ、三人はルベルが離れちゃった理由って知ってる??」

「知っているっていうかー」

「たぶん、そうだと思う」

「というか、アンネ。あなただけじゃないかしら。気づいていないのは」

「えっ!?」


 幼なじみの三人が言い、わたしは驚く。とっさに視線を向けてしまったローズライトさんも、ルベルが離れた理由を知っているかのように頷く。


 三人だけでなく、ローズライトさんまで!? え、本当に、何で??


「アーちゃんは、そのままで良いんじゃないかなー」

「でも、そうすると解決できないね」

「アンネ。あなた、ルベルのことはどう思っているのかしら」

「え……どうって、どう??」

「ルベルのことをお」

「ポーちゃん、ストップー!!」


 ポアルが何か言おうとしたとき、ディリィがポアルの口を塞いだ。身体を鍛えているポアルが動いたから、口を塞がれたポアルはついでに羽交い締めにされている。


「……ディリィ。そのままだとポアルの息が危ないよ」

「そ、そうだね!」


 ディリィが、さっとポアルから離れる。

 ポアルはゲホゲホと咳き込んでディリィを睨むけど、さっき言いかけたことは言わないみたい。

 わたしだけ、何も知らないままということは変わらない。


「……ローズライトさんは、教えてくれますか」

「否。これは男同士の約束。一度した約束は、違えてはいけない」


 前にも言っていたような気がする。

 ローズライトさんの様子からして、ルベルの秘密は魔法師養成学校へ行っていたときからのものなんだと思う。

 そんな前からの秘密なのに、どうしてわたし以外は知っているのかな。

 わたしが悩んでいると、ローズライトさんが悩ましげな顔をしていた。


「……内容は、言えない。ただ、ルベルはもっと自分の言葉を伝えるべきだと思う」

「ルベルは、わたしが星渡人だと伝えたら落ちこんだみたいでした。みんなが知っているルベルの秘密は、そこにかかってますか」

「ルベル本人ではないから、推測でしかない。ただ、ルベルがどうしてそこまで引け目を感じているのかがわからない。ルベルは、魔法師養成学校でも群を抜いていた天才なのに」


 ローズライトさん曰く、ルベルは魔法への応用力が人一倍すごいらしい。

 通常、空へ浮けるのは風を操る風属性のみ。それなのにルベルが宙に浮いていたのは、大気中の水分を自分の足下で凝固させそれを足場としているから。


 原理を聞いてなんとなく理解できるものの、それを実際にできるかというと、それは難しい。魔法師のセンスにかかっている。

 世の中の理を理解し、日々変わる湿度を感じ、自分の足下でピンポイントに水分を凝固させる。

 言葉では説明できても、それを実行できない人の方が多い。


 ローズライトさんは、ルベルの能力を高く評価している。ローズライトさんだって卓越した魔法の使い方をするのに。

 そんなローズライトさんも疑問に思う、ルベルの行動。その原理を、わたしだけ知らない。

 もどかしい。どうしてわたしだけ知らないんだ。行動原理を紐解けたら、ルベルを救えるかもしれないのに。


 みんながみんな口をつぐむのは、それが他人の口からわたしに伝わってはいけない内容だからだ。

 ルベル本人の口から言わないと、いけないこと。


「……今、できることを考えよう。ルベルの目は虚ろだったけど、まだ打つ手はあると思うんだ。わたしの声に、何回か反応していたし」

「そうだねぇ。ルー君も今、必死にもがいているかもしれない」

「今まで、ルベルにたくさん助けてもらった」

「今度は、わたくし達がルベルを助ける番ね」


 幼なじみ同士で、一致団結する。

 さっそく作戦を練ろうと話し合おうとすると、ローズライトさんが目を見開いていた。


「……アンネ殿達の絆は、深いのだな」

「当然です! ルベルは、わたし達の大切な幼なじみですから!」


 わたしの言葉に、みんなが頷く。

 そんなわたし達を見て、ローズライトさんがふっと笑う。


「ルベルが羨ましいな。どんな状況でも、信じてくれる仲間がいる」

「何言っているんですか。ローズライトさんだって、部下の人達を信用しているじゃないですか」

「部下は部下だ。対等の立場ではない」

「そうですねぇ……立場はどうにもならないですね。それなら、幼なじみ連合に入りませんか?」

「それは無理だろう。私は、幼なじみではない」

「名前は何でも良いんですよ。辺境地同盟とかでも。今こうして顔を合わせて話しているのは、ルベルを助けたいという同じ気持ちを持つ仲間ですから」


 そうですよね? と促すように首を傾げる。

 するとローズライトさんは、力強く頷いてくれた。







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