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第085語 最強の盾は最悪の矛

3000字超です。

ゆったりと読める時間に読んでいただければ幸いです。


 村に火災を起こしたとされる村長さんの協力者。残りの十人からどう話を聞くかと考えていた。


 月桜と小湖は今日も幻想的な景色を作り出していて、ごっそりと減った村の人達のほとんどが集まっている。

 塩獣狩りに行った組と、ルベル以外は月桜と小湖の周囲にいる感じ。

 広場で行う宴会はなくなったけど、消えなくなった月桜と小湖を愛でて時間に関係なく集まってくる。


 月桜と小湖を観光スポットとして考え、これから移住を考える人を迎える準備をしなきゃ。

 観光スポットにするなら、宿泊施設も必要だよね? 月桜と小湖に合わせるなら、旅館かなぁ。和風な感じで。村の雰囲気になれてもらったら、移住してもらう感じ? そうなったら、また家を作らないとね。


 移住者は移住者で固まって住める方が良いかな。

 悩んでいると違和感を覚えて、小湖を見た。


「……湖面が、下がってる?」


 僅かに、湖面の高さが変わっているような気がした。ついに水が引いて消えるのか。

 そんな風に思っていたら、突然周囲から悲鳴が聞こえてきた。


「ルベル!?」


 何が起きたのかと小湖から周りに目を向けると、ルベルが宙に浮いていた。

 その目は虚ろで、首には見たことがない青黒い首輪をしている。何というか、趣味じゃないと思う。

 ルベルがそんなファッション的なものを身につけることはない。常に動きやすさを重視して、首回りなんて最も開放的にしたがる。

 そんなルベルが首輪をしていることも、宙に浮いていることも驚きだ。前にも浮いていたけど、あれってどうやって浮いているんだろう。


 ルベルを観察しようと見ていたとき、ふと思う。ルベルは浮いているだけで何もしていないのに、どうして悲鳴が上がったのかと。


 ひとまず、緊急事態ということには変わりない。ローズライトさんと相談をしようと、彼のもとへ行こうとする。


「きゃぁっ」


 誰かが、悲鳴を上げた。いや、自分でもびっくりするけど、さっきの女の子っぽい声はわたし。

 それもそのはず。わたしがローズライトさんの所へ行こうとしたとき、その行く手を阻むように、目の前に水の矢が放たれたから。水の矢は、じわりと地面に染みていく。


 ……ルベルが、わたしを攻撃した?


 今まで、ルベルの優しさに甘えていたのかもしれない。虚ろな目をしても、直接的な攻撃なんてされたことがないから。

 ……腕を取られたのは、また少し違うと思う。


 ルベルは虚ろな目をして、わたしから目をそらした。

 その代わり、なんて思いたくないけど、他の村の人達を攻撃している。


「ルベル!! どうしちゃったの!?」


 声をかけても、ルベルの攻撃は止まない。

 ローズライトさんと相談することは必要。でも、先にルベルの攻撃を防がないといけない。

 わたしは両腕を上げ、外側から内側へ、上から下へと動かす。


「【ドードー】流れる水の壁。右から左へ、上から下へ。村のみんなを守り抜け!」


 詠唱が終わると、ルベルの攻撃を受けていた村のみんな全員に水流の壁ができた。ルベルの水の矢は強力だけど、わたしの水流が文字通り攻撃を流していく。


「さすがだ、アンネ殿」

「ローズライトさん! どうしましょう。ルベルが……」

「何かに操られているようだ。恐らく、あの首輪。あれを外せればと思うが……」


 ルベルが、わたしに……というより、ローズライトさんに向けて水の矢を放つ。でもわたしが詠唱をしていたから、水流がルベルからの攻撃を流してくれた。

 もしかして、さっきもわたしじゃなくて、ローズライトさんの所に行かせないようにしたのかな。


「ルベルはいつも、動きやすい服を好んでいていました。思わず首輪を外したくなるようなオノマトペを、かけてみます!」


 これまでは、一時間しか保たなかったし複数の魔法を同時に使ったことはなかった。

 でも時間はわたしが解かない限り永遠になったから、もしかしたら複数使えるかもしれない。


 肩をすくめ、全身濡れ鼠になったように小刻みに身体を震わせる。表情でも悲壮感が出るように困り顔をして、ため息をこぼすように口は半開きにした。


「【ぐしょぐしょ】なんて冗談でしょ? これじゃぁ、服を着替えなきゃ!」


 最後に両手をルベルに向けた。

 魔法は成功して、ルベルは全身濡れ鼠状態。服が肌に張りついてそうとう気持ち悪いと思う。でもルベルは全く気にしていない。

 それどころか、「ドードー」が村のみんな……つまりは、人を対象としたからか、復興のために建築されていた家々を攻撃していく。


「ルベル!! やめてよ! どうして、村を壊すの!!」


 声をかけると、ルベルは一瞬動きを止めた。もしかしたら声は届くのかもしれない。

 そんな希望を持ったとき、ルベルが攻撃の標的を月桜へ向けた。

 月桜は、復興のシンボルにしようとしていたもの。それまでも壊されたら、ルベルのことを恨んでしまうかもしれない。


 今は、幼なじみということを忘れてルベルと対応しろってことだと思う。

 わたしはルベルを見ながら、目の前に人がいるように想定する。架空の人物の両肩に手を置くようにして、膝と相手の膝裏を合わせるように足を曲げた。


「【カックン】カックン、膝カックン!」


 我ながら短く詠唱できたと思う。

 そのおかげで、月桜の全壊は免れた。でも、ルベルは攻撃方法を変えていたみたい。月桜は水のレーザーみたいな強力な魔法で、幹に大きな穴が開いてしまった。その先にいた村の人への被害は、「ドードー」で防げたみたい。


 桜の木についていた蜂の巣から、青、赤、緑、茶色の蜂が飛び出してくる。我らの家を脅かしたのはどいつだと、怒っているように見えた。

 村の人達には「ドードー」で水流の防壁がある。四色の蜂達は、標的をルベルにしたみたい。


 膝カックンされたルベルは、浮いていた身体のバランスを崩している。そのまま地面に叩きつけられそうになっていた。そんなルベルに、四色の蜂も迫る。

 身体を鍛えているルベルでも、頭を打ったら死んでしまうかもしれない。そう思って助けられるようなオノマトペを考えたけど、何も思いつかなかった。

 わたしは身体を鍛えていないから、筋力はない。それでもルベルを助けるために、考えるよりも先に走り出していた。


「ルベル!!」


 冷静であれば、わたしのような細腕に鍛え上げられたルベルの身体なんて支えられないとわかる。でも、わたしはルベルを助けるために走った。


「――っ!」


 ルベルと、目が合ったような気がした。

 そう思った瞬間、ルベルはくるりと身体を回転させる。

 そしてわたしを近づけさせないためか、小湖に何本も水の矢を放った。ルベルの魔法を受けた小湖は、まるで津波のように押し寄せてきた。


「アンネ殿!」


 ローズライトさんに呼ばれたと思ったら、ふわりと身体が浮いた。そのまま、まるで風に乗っているかのようにローズライトさんの方へ移動していく。

 ローズライトさんの隣にわたしが立つ頃には、ルベルはまた姿を消してしまっていた。

 ルベルを狙っていた四色の蜂もいない。巣に帰ったのかな。


 月桜と小湖以外で、以前の村に戻すまであと少しだった。でも、ルベルの攻撃でまた同じ箇所が壊れてしまっている。

 火災があったときと同じく、南西部以外の建物を壊されてしまっていた。







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