第084語 変わってしまった
約4000字です。
ゆったりと読める時間に読んでいただければ幸いです。
桜と小湖。これは一日経っても二日経っても、無くなることはなかった。それどころか、観光スポットとして申し分ない働きが期待できる。
一日が終わる頃。つまりは日付が変わる瞬間に、まるで小湖のそこから湧き出る噴水のように水が出る。そしてその水はキラキラと青、赤、緑、茶色の四色に輝き、桜をライトアップするかのように照らす。
桜も、月の光を受けて四色に光っているように見えた。舞う桜吹雪も、舞っているのに一向に花びらが減らない。
たぶん、魔法がある世界だからなんだと思う。そしてこれを発動したのが、神様達が作り出した特別な空間で修業したわたし。
それらが合わさって、枯れない桜を生み出してしまったみたい。
夜の方が月明かりに照らされて綺麗だから、わたしは月桜と名付けた。
当然、そんな消えない景色を生み出してしまったわたしは、村の人達から遠巻きに見られている。
幼なじみ達は変わらず接してくれているけど、どこかへ行ってしまったルベルはあれから話せていない。それどころか、姿すら見てない。
今はまだ、村を復興している最中だ。バージョンアップしたわたしの魔法で、オノマトペを発動すると永続的な効果が出るようになった。
南東部は家が建ったし、北東部も北西部もあと数日で今まであった数の家が完成すると思う。
広場に月桜と小湖を作ってしまったから、あれから宴会は開かれていない。でも綺麗な光景だから、各々が集まって桜を愛でている。
そんな中、村人の数にも変化があった。
村長さんと繋がっていると思われる、五十人。それが一日経つごとにごっそりと減っていく。
月桜と小湖を出してから二日。残りの人数は十人ほど。
「ローズライトさん。容疑者の人達がいなくなっています」
「話を聞かないといけないが、疑わしいというだけでは罰せない。話を聞く前に村を出たのなら、追いかける理由はない」
「え……それじゃぁ、あの火災がどうして起きたかもわからないままですか」
「残りの十人は、特に既存の村人と親交のある者達だ。身動きできなくするには、難しいものがある」
「でも、あと十人なんですよね? 今のわたしは魔法も永続的に効果が続きますし、隙を狙って捕まえれば……」
「それは、得策ではない。こうして村の復興が進む今、村長の動きが全く見えないのは怪しい。何か企てているのなら、下手に動かない方が良いかもしれない」
「何か……村長さんは、動きますかね?」
「わからない。だが、いつでも対処できるようにしておこう」
ローズライトさんと今後の方針を決め、ひとまず村の復興に力を入れていく。
数日が経ち月桜と小湖以外は元の村に戻った。
そして、それからさらに数日は何事もなく平和に過ごせたと思う。
また事態が動いたのは、火災で亡くなった廷臣法官の人達を首都へ送り、コナーさん達が戻ってきた頃だった。
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広場で寝てしまっていた後、アンネが倒れた。
二の腕を揉んでしまって気まずくなったが、今は、そんなことは関係ない。アンネがいるだけで、ルベルの心はいつも晴れやかだった。
アンネを失うことだけは、避けたい。
「ルベル! アンネ殿の様子は」
「わからねえ。こんなにつらそうなアンネは、初めて見た」
ルベルは、眉間にシワを寄せて横になっているアンネを見て心配する。
七歳の頃に突如村にやってきたアンネは、不思議な魅力にあふれていた。いつも誰かを気にかけ、広場でやっているアンネの動きを楽しむアレも、本当はやりたくないんじゃないかと思っている。でも、アンネはいつも周りの空気に合わせて行動していた。
そんなアンネを昔から見ていたルベルが、アンネを気遣うのは当たり前。むしろ、一緒にいる時間は誰よりも多かったと自覚している分、気持ちを自覚するのも早かった。
アンネが目を覚ました後ルベル達に告げた内容は、とてもじゃないが信じられなかった。いや、信じたくないという方が適切かもしれない。
アンネには、確かに不思議な魅力を感じていた。しかしそれは恋心から来るような、特殊な気持ちだと思っていたのに。
アンネは、星渡人だという。
首都にある魔法師養成学校で、星渡人のことを学ぶ。
どれだけ偉大か。どれだけの魔力量か。
アンネから星渡人だと告げられたとき、信じたくないという気持ちと同時に、納得感もあった。
前に、村人達と違ってアンネが鍛えないから、魔力量を見たことがある。
アンネの両手を持ち、ルベルの魔力を少し流し、その反射でどれくらいの魔力があるか見るというもの。
あの時、アンネには相当な魔力量だとしか伝えてない。
実際は、一瞬でルベルの魔力が押し流されてくるような衝撃があった。あの時は単純に、尋常じゃない魔力量だ、としか思っていなかったのに。
アンネが、星渡人。
それを聞いて驚いたのがルベルだけだったことにも、また驚愕した。
ルベルが知らないうちに、二人はそんなことも話すような仲になったのかと。
嫉妬の炎が湧き上がった。自分が先にアンネを好きになったのに、と。
でも、その嫉妬もすぐに萎んでいった。
敵うわけがないのだ。
レオン・ローズライトと名乗っている、廷臣法官長。教えられていないが、本名は違うと感じている。
魔法師にとっては大事な、詠唱。あれは通常、自分の真名を言葉に乗せる。にもかかわらず、廷臣法官長が魔法を放つときはその名前が聞こえない。ルベルは無詠唱のように見えるが、口に出していないだけ。
魔法が発動しているから、廷臣法官長が真名を言っていることは確かだ。しかし、それが聞こえないというとは、本人がその名を聞かれないように注意しているから。
本名を教えてもらえていないという寂しさよりも、そうすることで守られているのだろうと思う。
本名を知ってしまうことで、危険が及ぶかもしれない可能性がある。そんな相手は、国でもごく僅かだろう。
友人としては大切にされているのだと、思うしかなかった。
ルベルが考えているような身分の相手だとしたら、嫉妬の炎を燃やしたところで敵わないのだから。
アンネ達の前から去ったルベルは、一度村から出る。村の外から村を見ると、これからアンネを中心に復興していくのだろうと容易に想像できた。
星渡人だと教えてくれたのは、アンネにとってルベルも大切な幼なじみだと思ってくれているのだろう。
そんなアンネに、ルベルは何をできるのか。
復興していく村を見て思ったのは、アンネが愛する村を壊した犯人を捕まえるということだ。
一番怪しいのは、村長であるザーマ。というより、黒幕と言っても過言ではないはずだ。
そんな考えを持って、ルベルは人の目を盗んでザーマの家に行った。
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ザーマは焦っていた。爪を噛み、復興していく様子を数少なくなってしまった協力者から聞く。
このままでは、計画の全てが台無しになってしまう。魔力炉を無効化し、村がある場所を更地にする。そして、祭司に引き渡す。
それらを叶えて初めて、ザーマは息子とこの地を離れられるのだ。
不義の子と言われても、ザーマにとっては腹を痛めて産んだ子供。息子にとって生きづらいと思われるこの村から、解放してあげたかった。
何か、形勢逆転するような方法はないか。
そんなことを考えているザーマのもとに、起爆剤が自らやってきた。
「何か用かしら」
「……村長。今ならまだ遅くない。廷臣法官長に罪を暴かれる前に、自らの罪を認めろ」
「あら、おかしな話ね。あたくしがどんな罪を犯したって言うのかしら。証拠は?」
「前に、怪しい取引現場を見た」
「見ただけじゃ、それは証拠と言えないわね。簡単にねつ造できるもの」
「ここに、ラタムも監禁しているだろう。その現場を見れば」
「じゃぁ、その現場は? 自由に捜してごらんなさいよ。あたくしの家の中を捜索する権利をあげるから」
ザーマの言葉を受け、ルベルが家の中を捜し始める。
しかし、ザーマには確信があった。ルベルが家中を捜し回っている間、壁に手を置いて自分の魔力を流す。今日はもう少しで夕食の時間となるが、いつものように外へ出れないようにした。
扉の一つ一つ、一階や二階も。
ルベルは、隅々まで今年の生け贄を捜す。しかし、それは見つかるわけもない。この家には、長年時間をかけてザーマの魔力にしか反応しないような仕掛けを施しているのだ。
その仕掛けが解かれるようなことは、決してない。あるとすれば、それは人外の力。
ルベルが、左奥の壁の前へ行った。その奥に、生け贄はいる。しかし、行く方法はルベルにはない。
「なんだ、この甘い、におい、は……」
「あらあら。適度にむしって間引かないといけないわね。ブルベルの甘い香りが、外へ漏れてしまっているわ」
ルベルが、隠し部屋の前で気を失った。
これは好機。この機会を逃す気はない。
ザーマは隠し部屋を開け、甘く重たいブルベルの香りを広げる。
「大気を巡る水のマナよ、水属性魔法師ザーマ・スマザが命じる。ルベルを、ブルベルの香りで包みなさい」
詠唱が終わると、青紫の靄がルベルを包んだ。
そして、二日後。
虚ろな目をしたルベルが、立ち上がった。
「さぁ、ルベル。あなたはどうしたい?」
問いかけると、ルベルはザーマが持っていた首輪を自らの意思で装着した。
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