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83/96

第083語 力の変化

3500字超、です。

ゆったりと読める時間に読んでいただければ幸いです。


「アンネが、星渡人……」

「アンネ殿。ではどうする? 以前伝えたように、国に申請してほしいのだが」


 わたしの言葉を聞いた後、ルベルは明らかに落ちこんでいるように見えた。そしてローズライトさんからわたしに告げた内容を聞いて、信じられないというような目を向ける。

 一方、ローズライトさんは事務的に思えるけど、わたしの意思を確認してくれていた。


「あの……前にも言ったんですけど、わたしはこの村でスローライフがしたいです。だから、しなくても問題ないなら、国に申請はしたくないんですが……」

「そうか……。それもまた、一つの選択かもしれない。だが覚えておいてほしい。アンネ殿が申請すれば、生涯死ぬまでの生活を保障されると」


 わたしとローズライトさんが話している様子を、ルベルはずっと驚いているような顔で見ていた。

 まるで、わたしとローズライトさんとの間で成立している会話の内容に驚いているかのような。わたし達の会話に入れないことを悲しんでいるかのような。そんな気がした。


 ルベルになぜそんな顔をしているのかと聞こうとしたら、ザドルさんが芋スープを持ってきてくれた。

 ジャガイモが柔らかくなるまでしっかりと煮込まれたみたいで、食べたら口の中ですぐに崩れる。しっかりと火が通ったジャガイモは身体の芯まで温めてくれて、数日食べていなかったなんて忘れそうなほどするすると食べられた。


 食事が終わり、ザドルさんに器を渡す。

 ルベルを見ると、芋スープをじっと見つめたまま動いていなかった。


「ルベル? どうかしたの?」

「あ、いや……」


 声をかけると、ルベルは芋スープをもそもそと食べ始めた。

 美味しいスープだ。食べるならちゃんと食べた方が良いと思うけども。

 わたしが星渡人って伝えてから、ルベルはずっと元気がない。というより、落ちこんでいるような気がする。

 ルベルは、今までずっと支えてきてくれた大切な幼なじみ。いつもみたいに、元気でいてくれ方が良い。


 わたしは今、記憶を取り戻した。

 日本は、オノマトペ大国。わたしは、オノマトペを魔法として使える。それなら、今のわたしにはルベルを元気づけられる方法があるはずだ。


 遠い遠い、前世の記憶。お兄ちゃんとの思い出なんてないと思っていたけど、ちゃんとあった。

 長くやっている、国民的アニメ。魔道具みたいな不思議な未来の道具を使って、小さな揉め事から大きな事件までを解決する話。星渡をしているときに見たことがあると思ったのも、そのときに見ていたアニメの影響。

 そのアニメを見て、わたしはお兄ちゃんを連れ出したんだ。


 春。桜が舞う季節。季節によっては蓮の花も楽しめる、大きな池があった。

 桜吹雪も、水面に映る桜も綺麗だったんだ。二人で見て、顔を見合わせて感動していた。


 よし。この世界には桜はないと思うし、あの光景を再現できないかな。

 ちょうど今の季節は春だし、時期も合う。村は復興している最中だけど、例えば観光名所があったらその後も人が来るんじゃないかな。

 いや、スローライフを目指すんだったら、観光地化しない方が良いのかな?

 ……うん、まぁ、前世でも田舎に移住する人はいたしさ。ごっそりと抜けちゃったし、これからまだ抜ける予定だし、人が増えるに越したことはないよね。

 廃村になるのって、住んでいる人がいなくなっちゃうからだと思うし。


 前世でお兄ちゃんと見た、桜と池の景色。あれを再現するためにはどうすれば良いかと考えた。

 考えて、考えて、ついに閃く。


「ルベル!! 今からオノマトペを使うから、見てて! 元気になると思うから!!」


 頭の中で、お兄ちゃんと見た景色を思い浮かべる。

 池があり、桜があり。その桜は、散り際の儚さを桜吹雪で演出していて。


 わたしは、なぜか準備運動をしていた。今までみたいに、さらっとオノマトペの言葉が出てこない。

 これは記憶を取り戻した影響なのかな。思い描いたことを実行しようとしたら、固まった身体のままではいけないみたい。

 わたしの意思ではなく、オノマトペを実行しようとしたら勝手に身体が動く。


 両腕は後ろに反らし、はねを表すかのように。

 胸を張り、笑顔で。

 リズムを取るように足踏みをし、タタンッとスキップの準備を調えた。

 いざっ!


「ぶんぶんぶん。はちがとぶ。おいけのまわりに、桜がさいたよ。ぶんぶんぶん。はちがとぶ」


 スキップをしながら、腕を翅のように動かして広場の外周を回っていく。

 これは童謡だけど、詠唱でもあるから、途切れず声をからさず広場を回り終えるまで歌い続ける。だから、本来の歌詞とは違うと気づいても止められない。

 奇行とも思えるわたしの行動に、ルベルだけでなくローズライトさんも、他の魔法師達も呆然と見ていた。広場の中央にいた人達もみんな、外周の外へ出ている。

 いや、わかるよ。うん。突然こんなことをし始めたら、作業する手を止めて見ちゃうよね。


「ぶんぶんぶん。はちがとぶ。おいけのまわりに、桜がさいたよ。ぶんぶんぶん。はちがとぶ!」


 最後の仕上げで、広場に両手を向けた。

 すぐには結果がでなかったけど、ぐぐっと大地が揺れる。それは地震っていう感じではなくて、例えるなら擬人化した地面がぷるぷるっと身体を震わせた感じ。


 その揺れが収まると同時に、広場と同じくらいの大きさの池と、桜が現れた。

 ただわたしの記憶と違うのは、桜の木は一本で、やたらとキラキラと輝いているところ。そして、桜の木にアニメで見たような蜂の巣ができている。

 それに歌詞的には池だけど、目の前にあるのは小さな湖ぐらいの大きさがあった。


 わたしの身体が勝手に動いてしまった結果、また広場に設営されていた炊き場を壊してしまったことは申し訳ないと思う。

 ただ、桜と小湖を見るみんなの目は、ルベルも含めてキラキラとしている。

 なんでかわからないけど、広場にできちゃった。だけど、前の炊き場がなくなっちゃったみたいに、これもなくなっちゃうと思う。

 というか、それ以前にわたしの魔法が続くのは一時間だけだし、すぐに元の広場にもどるよね。


 これでルベルも元気になるよねと、期待を込めて感想を聞こうとした。

 初めはキラキラとしていたはずのルベルの目は、すぐに陰ってしまう。我ながら力作だと思うんだけど、まだルベルを元気づけるには足りないのかな。


「ルベル……元気、出なかった?」

「あ、ああ……アンネは、すごいな。こんなこともできるのか」

「ルベル……」


 力なく言うと、ルベルはふらりとどこかへ行ってしまった。

 その寂しげな背中を見ていると、ローズライトさんが声をかけてくれる。


「美しい光景だ。これは、アンネ殿の世界の?」

「あ、はい。そうです。日本にはこういう綺麗な場所がたくさんあるんです」

「それは素晴らしい世界だ」

「まぁ、この光景も一時間でなくなっちゃうと思いますし、楽しんでください」

「そうさせてもらおう」


 魔法が続く時間は、一時間。

 それぐらいなら、村長さんと繋がっているかもしれない五十人のことを忘れても良いと思う。




 と、考えたのは三時間前のわたしでした。

 というか、なぜか一時間経っても桜と小湖が消えない。

 ルベルはどこかへ行ってしまったけど、それ以外の人達はみんな、桜と小湖を見ている。一応、この場から動かさないということはできているんだけど、想定と違う。


「……ローズライトさん。わたし、もしかしてやっちゃいましたか」

「アンネ殿が記憶を取り戻したなら、これが本来の力かもしれない」

「……確か、星渡は大昔の星渡人が作ったんですよね?」

「そうだ。首都へ行った時ついでに軽く歴史を調べた。星渡は、かれこれ1100年前に作られたものらしい」

「……1100年」


 ローズライトさんから話を聞きつつ、それはおかしいと思った。

 わたしが前世頭痛を起こしていた、星渡をしているときの周囲の様子。あれは机の引き出しに入って乗るアレを思い出したからだ。

 いくら長く愛されている話だからといって、そんなに昔の話なわけがない。


 ……んー。あれかな。星渡人にとっての一年は、この世界の100年とか。


 それぐらいなら、計算は合うかもしれない。わたしが特別な空間で修業していたのは、七年。それよりも前に神様達に送られたってことなら、四年ぐらいかな。

 それで、わたしが修業していた期間と合わせて11年×100年で1100年。


「……星渡と違ってこの広場なら、長くは保たないですよね?」

「それはわからない。この村のことは、首都でも詳細を掴めなかった」


 ローズライトさんは、首都へ行ってとても効率的に動いたらしい。

 わたしが見た取引の報告。星渡の歴史。この村のこと。

 わたしは丸一日意識がなかったというけど、それはローズライトさんが戻ってから丸一日ということかな。


 ……それにしても。


 我ながら、なかなかシュールな絵面だったと思う。

 桜と小湖を出すためとはいえ、振り付きで歌ってスキップをするという、ね。突然始まったし、そうするように勝手に身体が動いたけど。

 もしかして、継続時間が延びるかわりにこれからずっとあんな感じなんだろうか。

 ……それなら、一時間で良かったんでない? と思ってしまうのは、贅沢な悩みだろうか。







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