第082語 幸せとは
七年間、わたしは特別な空間で修業をした。だからわたしは、魔力量に際限が無い。モモルモア大陸を管轄する、二柱の神様の力が満たされていた空間だったから。
半神というのは言い過ぎなような気がするけど、それに近いような気がする。
七歳で村に来たわたしは、この世界に馴染むまでは記憶を取り戻さなかったんだと思う。たぶんこれも、神様達からの祝福。しっかりと生活し、思い出しても問題ないという判断が下されて、全てを思い出した。
「アンネ!? 起きたか!?」
「アンネ殿!?」
ルベルとローズライトさんが、わたしの顔を覗いていた。近くにはザドルさんもいる。心配してくれる人がいるっていうのは、それだけで幸せだ。
そうか、わたしは頭痛の痛みが酷すぎて気を失ったんだっけ。あの頭痛は、前世に絡んだ情報を得ていたからなったんだな。記憶を思い出したけど、あの頭痛はまだあるかもしれない。
あれは、前世頭痛と名付けてみようか。
まだぼんやりとしていた頭で、そんなことを考えた。
わたしを心配するルベルを見て、かなり久しぶりだなと思う。それから、ハッとなる。
「アンネ?」
「アンネ殿?」
ガバッと身体を起こして、二人に驚かれた。
ルベルが起きている。ローズライトさんが戻っている。ということは、広場全体に魔法をかけていた状態を解いてしまったということだ。
料理が食べられなくなってしまっていたからだと思う。広場も綺麗に片付けられていた。
ローズライトさんを見る。
「すみません、わたし……」
「問題ない。アンネ殿のお陰で、情報は伝えられた。それよりも、体調はどうだろうか。アンネ殿は、丸一日寝ていた。頼んでいた時も含めると、何か食べた方が良い」
「そうだぞ、アンネ。広場に設置していたやつがなくなっちまったから、また作り直しているから時間はかかるが、何か食べた方が良い」
「なくなった……? 片付けたんじゃなくて?」
ルベルに言われ、改めて広場を見る。
みんな、忙しそうに動いていた。その中でも特に、地の属性の魔法師が積極的に動いているように見える。
それは炊き場を作るための枝や石を準備しているからだ。片付けたなら、また設営すれば良い。
「ザドルから聞いたんだけどよ。アンネが気を失ってから少しして、広場のやつが消えちまったんだと」
「……どういうこと? はっ、そういえばわたしが捕らわれていた牢屋も、いつの間にかなくなってなかった?」
「言われてみれば確かに。あの牢屋、大きいから片付けるにしてもそれなりの人数が必要なのにな」
消えた牢屋と広場の宴会場。
そして、一つを思い出したことによって、芋づる式に思い出されていく牢屋のこと。この思い出し方は、これまで被害に遭っていた人達のときと似ている気がする。
「……今まで、広場って片付けるものだとばかり思っていたけど」
「そうだな。子供の頃から、毎回きちんと片付けろって言われてきた」
子供の頃からの刷り込み。だから何の疑いもなく、片付けてきた。
でも本当は、広場に何かしらの魔法がかけられていて、それが作用しないために片付けなければいけないのだとしたら?
「……ここの広場には、何があるんだろう」
わたしの疑問は、ルベルにもローズライトさんにも届いた。二人とも、首を傾げている。
村のことを聞けば何でも答えてくれるルベルですら、頭を悩ませているんだ。この広場の秘密を知っていそうなのは、あとは村長さんくらい。
もしかして被害に遭っていた人達は、広場の何かを維持するために利用されたのかもしれない。
水の魔法師ばかりが被害に遭う理由も、もしかしたら広場の秘密に関わるんじゃないかな。
もし、村のみんなの命を奪わなければいけないことだとしたら。
そんなシステムは、即刻破壊すべきだ。
倒れたときに心配してくれる人がいる。
そんな幸せを、壊されるわけにはいかない。
今、ラタムさんが村長さんの家から戻っていない状態だ。ラタムさんも水属性。そして、ルベルも水属性。
次の被害者は、ルベルかもしれない。
ルベルは、わたしが村に馴染みやすいように特に気を使ってくれた大切な幼なじみだ。そのルベルを、失いたくはない。
「! ザドル、広場の設営が完了したみたいだ。アンネ殿のために、何か身体に良いものを取ってきてくれ」
ザドルさんが広場へ向かう。
そして、わたしの前にはルベルとローズライトさんがいる。
心配してくれていた二人には、わたしが星渡人だということを伝えた方が良いんだろうか。二人は、国立の魔法師養成学校で習っている。確か、学校で星渡人のことも学ぶんだったよね。
ザドルさんがいる広場を見る。まだ、こちらへ来るまでには時間がかかりそうだ。
わたしは意を決して、二人に話すことにした。
「あの、ルベルとローズライトさんに聞いてほしいことがあります」
「なんだ?」
「聞こう」
「どうやらわたしは、星渡人だったようです」
わたしがそう告げると、二人の反応は全く違うものだった。




