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第081語 死後の世界②

3000字超です。

ゆったりした時間に読んでもらえれば幸いです。


 ソゾン様から問われ、改めて自分ばかりが被害者だと思っていたことを痛感する。

 お母さんの日記に書かれていた。お兄ちゃんがお父さんに連れられて、不倫相手の人の所へ行かされたって。


 当時わたしが産まれたばかりだったから、お兄ちゃんは二歳くらい。物心がつく前だったかもしれないけど、何かを察していたかもしれない。

 母とは違う女の人の所へ行く、父の異質さを。

 その時の記憶は残っていないかもしれない。でもどこかで覚えていて、だからこそお母さんからの期待に応えようと努力していたかもしれないって。


 お兄ちゃんは、自分が頑張ることでお母さんを笑顔にしようとしていたのかもしれない。

 そうだ、わたしは知っている。お兄ちゃんが、決して努力を怠らない人だってことを。


 集中したいからと、離れを造ってもらっていたお兄ちゃん。その離れは、わたしの部屋から見える位置にある。

 なんとなく窓を見たとき、わたしが寝るよりも先に電気が切れていることはなかった。本当は消し忘れただけなんじゃないかって思って、こっそり観察しにいったとき。血走っているような目を怖いと感じた。

 ぐっ、ぐっって何か音が聞こえると思ったら、背負い投げの練習をしていたこともあったっけ。壁に備え付けた縄を引っ張っていて、その壁がいつの間にか鉄製の頑丈なものになっていた。


 ハッと気づく。

 わたしの部屋が独立しているような位置だったのは、わたしもお兄ちゃんみたいに自分の時間に集中できるようにっていう『配慮』だったんじゃない?

 記憶にある限り、本宅の改装はしていなかったと思う。それでもそんな部屋があるのは、将来を見越していたんじゃないかって。

 男女の産み分けなんてできないけど、本宅に部屋は余っていると思うし、産まれるまで挑戦していたかもしれない。

 それで、あの廊下しかわたしの部屋に行けない構造。将来彼氏ができたときに、お父さんがわたしに続く道を塞ぎやすくするためじゃないかって。


 ……昔のドラマにあるような、頑固親父。娘はやらんと怒って、その後に意気投合して、みたいな。

 なんて、理想的な家族だろう。妄想の中のわたしは、お父さんにも愛されていたみたいだ。

 わたしが自殺したから、そんな妄想は叶わない。真相も聞けない。

 ……わたしはもっと、家族とぶつかるべきだった。


 わたしが構われないと拗ねている間、お兄ちゃんは構われまくっていた。言い方を変えれば、常に誰かの視線を受けていたということ。

 そんなの、監視されていると変わらないじゃない。わたしみたいに、拗ねている時間すらなかったと思う。


「どうやら、自分がした過ちについてわかってきたみたいだね。君が犯した、最大の罪はわかる?」

 ――最大の、罪?

「構ってもらうために、自分の死を利用したことだよ」

 ――利用? 別に、そんなんじゃ……。

「利用以外の、何があるっていうんだ。君は計画的に自殺した。どこの誰が死んだのかとすぐにわかるように、身分証も用意して」

 ――そ、それは……。

「君の計画通り、君の死はすぐに家族へ知らされた。君は自分の死を持って、家族からの関心を買ったんだ。どう? 満足した?」

 ――ま、満足なんて……するわけ、ないです。

「良かった。まだ、後悔するという気持ちは持っているんだね。ここまで君の死後の家族の姿を見て何も思わないんだったら、ルーナントには悪いけど消しちゃう所だったよ」


 さらりと、怖いことを言われた。

 ソゾン様は神様だ。今のわたしみたいな、魂の塊じゃなくたって神罰として下せるかもしれない。


「自らを殺す。それは、僕達神にとって最も冒涜された行為だ。神は人を愛し、慈しむ。そこに差はない。本来なら、自らを殺した君には選択肢はないんだ」

 ――本来、なら? では、選択肢は残されていると?

「チーキュウが輪廻転生に手を加えることはできない。だけど、違う世界の神である僕とルーナントが協力すれば、君を元の世界の輪廻に戻すこともできる」

 ――産まれ変わるということですか。

「そういうことになるね。どうする?」


 わたしは、迷惑な構ってちゃんだった。自分を見てほしくて、他人のことなんて考えずに死を選んだ。

 産まれ変わるというのは、もしかしたら日本ではないかもしれない。日本から遠く離れた、海外かもしれない。

 でも、もしかしたら。

 血の運命みたいな感じで、どこかでお母さん達に会っちゃうかもしれない。そのときのわたしは日本人みたいな見た目じゃないかもしれないけど、冷静でいられないかもしれない。

 わたしは、絶対に後悔する。お母さん達に会わせる顔がないって思って、その場から逃走するかもしれない。また、構ってちゃんを発動してしまう可能性もある。


 そんなの、嫌だ。

 もしかしたら転生特典みたいな感じで記憶を消してもらえるかもしれないけど、思い出すかもしれない。

 思い出したときに会っちゃうのも気まずいし、逆に会えないのも気が狂いそう。


 ――あの、もしかして他の選択肢がありますか。

「気づいた? 僕達二柱はね、前にも地球人を異世界に送ったことがあるんだ」

 ――っ! もしかして、星渡人ですか。

「あれ、どうしてその言葉を知っているの? もしかしたら、君の魂は地球と合っていなかったのかもね。だから、幸せを感じられなかったのかもしれない」


 ソゾン様に指摘され、わたしも首を傾げる。

 星渡人。それがどんな存在か知っている。それは、どうして?


「どうする? 僕達が管轄する、モルルモア大陸に転生してみる?」

 ――はい。

「良いね、迷いがない。それじゃあ、早速君を転生させる準備を始めようか」


 ソゾン様が、ルーナント様と手を取り踊り始める。二人が作る腕のアーチが何度もわたしの上を通っていく。

 包みこまれるようにルーナント様の腕に抱かれ、キスをされたような感覚になった。


「さあ、転生開始だ。君が君らしく、今度こそ幸せになれると願っているよ」


 ソゾン様が、とんっとわたしの身体……もとい、魂を押し出してくれたような気がした。


「そうそう。君の魂は今、ものすごく傷ついている状態だ。転生は、君の魂が快復してから始まるよ」

 ――えっ、そんな、困りますっ。

「大丈夫。問題ないよ。君が外で生きていけるようになったら、生きる場所に導かれるから」

 ――それって、どういうことで……。


 ソゾン様からの説明を聞く前に、わたしはどこかの空間へ飛ばされた。




 わたしが飛ばされたのは、よくわからない世界。たぶん、真っ白い世界だと思う。

 その世界で、わたしはただ漂っていた。でもその内に、何かしなければと思うように。

 何か、と意識すると、わたしはこれから魔力という力が満ちる世界に行くという情報が流れてきた。

 というか、魂の塊のような姿って、不便だな。これから転生して新しい世界に行くって話だし、身体がほしい。


 ――っ、生えた。


 今までぼんやりとしていた視界……の、ようなものが、急に鮮明になった。

 視界の中に自分の手足が見え、身体を持ったとわかる。手を握ったり開いたりして、自分の意思で動くことも確認できた。


 それからのわたしは、ひたすら修業していく。

 自分の身体を思う通りに扱えるように。

 魔力という、新しい力に対応できるように、頭に流れてくる情報を信じてトレーニングしていく。


 そうする内に、この情報がソゾン様達がくれたものだと感じられた。

 干渉するのは禁止だと言っていたから、たぶん、ここがどこだかわからないけど口にしてはいけないんだろうな。

 わたしが犯した過ちを正してくれて、第二の人生を選ばせてくれたソゾン様達に迷惑はかけたくない。




 わたしは毎日、頭に流れてきた情報を頼りに身体を鍛えた。それは筋力をつけるということではなくて、わたしの身体を転生先の環境に合わせる作業。


 毎日、毎日。わたしは鍛えていく。いつか転生するときのために。

 そしてある日、神々しく輝く光に包まれた。温かいその光は、これからの未来を照らしてくれているんだと思う。

 その光に身を委ね、目を開けると目の前に村が見えた。


 そうか。この村が、わたしが生きる場所。





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