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第075語 極論魔法

3500字超、でした。

ブックマーク登録をしていただき、時間があるときに読んでいただければ幸いです。


 ザドルさんがルベルとクホイまで行ったとき、定期的に建材を村へ持ってくるように頼んでいたらしい。往復すると二日かかるけど、一日おきに建材が村に運ばれてきていた。


 南西部以外の地域の土台が徐々に完成しつつある。すぐにでも上に建物を建てられそうなのは、南東部。次が北東部。北西部はもともと家の数が多くなくて、求められている分の土台はできている。


「はーい、次いきますよー。【がちっ】と強固な家造り!」


 わたしのオノマトペ魔法は、復興作業に向いているらしい。

 新しく思いついたオノマトペは、詠唱しながら柱や梁に触れるとまるで緻密に計算されたかのようにきっちりとした造りになった。

 壁は木材だったり、土壁だったりと様々。そこは、地属性の魔法師達が作業を継続している。


「アンネはすごいな! こんなことができるなら将来は困らないな」

「まったくだ。各地から引き抜かれるんじゃねえの?」


『がちっ』をかけるたび、現場にいる人達に称賛される。それを笑って流しながら、全ての言葉を聞かないうちから次の建物に魔法をかけにいく。


 村の復興のため、スローライフを送るため。

 働けば働くほど、「アンネはすごい」という言葉が決まり文句になっていく。

 すごいと言われるたび、称賛するような目を向けられるたび、わたしは息苦しくなる。

 本当のわたしは、別にすごくないのに。


 ……本当のわたしって、何?


 ローズライトさんに見透かされてしまってから、ずっと考えている。

 たぶん、わたしが失っている記憶の中に様々な状況を変える答えがあるのだと思う。前はあんなに欲しがったその記憶が、今はまた遠ざけてしまっている。

 思いついたオノマトペもきっと、断片的に思い出してしまっているから使えているんじゃないかって思う。


 オノマトペ魔法を活用していくのなら、絶対に知らないことを減らした方が良い。無知では、何もできないことがある。

 でも、思い出したときのわたしは、果たしてこのまま村で暮らせるのかどうか。

 スローライフに憧れた。空が近くて、村のみんなの仲が良くて。

 でも、今はその前提条件の一つが崩れてしまっている。五十人いる容疑者の人達を突き止めて、改めて村のみんなとの仲を深めていけば良い。


 そう、思うけど。

 容疑者の人達と村の人達は仲が良い。そんな親しい間柄の人達を、わたしは引き裂くことになる。その後、またわたしと仲良くしてもらえるかどうかわからない。


 容疑者の人達を突き止めなければ、村の人達と仲良くできると思う。

 でも、スローライフは送れない。

 わたしは、スローライフを送りたい。権力とか大きな力とか、そんなことを抜いた心の安寧を求めている。


 わたしがスローライフすることを諦めれば、もしかしたら綺麗に収まるのかもしれない。

 でも、と思う。

 わたしがどうしてこんなにスローライフに執着しているのかわからない。でも、わたしはスローライフがしたいんだ。

 心を休めると、決めたから。


 ……心を、休める? わたしに、何があったの??


 考え事をしつつ、わたしができることをしていく。

 その内に日は暮れて、また夜の宴会が始まっていた。隣には、ローズライトさん。ルベルとは、二の腕を揉まれたときから話せていない。

 ザドルさんは、戻ってきてからは特に指示がなければローズライトさんの傍に控えている。


「アンネ殿。食事だ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 ザドルさんが持ってきたシチューを、ローズライトさんから受け取る。スプーンで、お肉を掬う。

 今日はわたしが参戦していないから、お肉はちょっと固い。というのも、今日は何十軒も『がちっ』を行った。疲れているだろうと、火の役を免除されてしまったのだ。

 求められないことに、ホッとしてしまった。


「アンネ殿。今日一日ずっと考え事をしているようだったが、何か悩んでいるなら聞く」

「あ、いえ……」

「今日は何事もなかったが、注意力散漫だと事故が起きるかもしれない。憂いは晴らしておいた方が良い」


 昨日の様子から、恐らくローズライトさんは注目されることを苦に思わない人なんだと思う。そんなローズライトさんに、わたしの悩みは通じるだろうか。

 きっと、ローズライトさんは親身になって聞いてくれると思う。でも、それだけ。価値観の違いは、何も解決できない。

 話したのだから答えを示せなんて傲慢なことを言うつもりはないけど。解決できないことを相談しても、迷惑をかけてしまうだけ。


 かと言って、それをローズライトさんに言ってしまうと、それもまた迷惑をかける。

 だから、結論としては言わない。


 わたしは考えているように見えると思って、渡されたシチューを無言で食べる。気遣うような気配を感じるけど、ローズライトさんも深入りはしてこない。

 二人で並んで、無言でシチューを食べる。

 器を片しに行ってくれたザドルさんが戻ってきたことを確認すると、ローズライトさんから「ひそひそ」をしてくれないかと言われた。

 頼まれた通り、「ひそひそ」を使う。「ひそひそ」はあくまで、どんな声量で話しても小声になるという効果。近くにいれば、話の内容もわかる。


「今後、村の復興と同時に容疑者を問いつめていかないといけない。五十人を一斉に無力化する方法は思いつけていないが、何もしないわけにはいかない。別方面からどうにかできないかと考えている。アンネ殿は、何か思いついただろうか」


 策はある。でもそれをしたくないと思ってしまっていた。

 だから代わりに、以前村長さんの家で見たことを伝える。


「前に、怪しい取引を見ました」

「取引?」

「はい。村長さんと、肩の所に模様があるローブを着た人とのやり取りなんですけど……」

「肩の所に模様……それは、どういう模様だったか覚えているか」

「三つの山が連なって、その麓に丸っぽい何かがありました」

「三つの山に……まさか、そんなことが?」


 わたしの証言を聞いたローズライトさんは、顎に手を当てて考えこんでいる。その表情は真剣を通り越して剣呑とすら思えた。


「ローズライトさんは、その模様のことを知ってますか?」

「そうではないと思いたいが、頭の中に可能性は浮かんだ。アンネ殿、その時の取引の様子を、もっと詳しく伺っても?」

「あ、はい。えぇと……」


 ローブの人から村長さんへ渡された、大きな袋。それはすぐにローブの人へと返されて、代わりに村長さんが小さな袋を受け取っていたこと。

 その取引現場と思われる所に出くわしたため、命を狙われた可能性があると。


「……これは、すぐにでも報告を上げなければいけない。だがしかし、今私がここを離れるには」


 ちらりと、ローズライトさんがわたしを見た。そうか、わたしを守らないといけないからローズライトさんが動けないということか。

 ローズライトさんは、ものすごく村を出たそう。もしかして、わたしが目撃したことって何かやばいことだった?

 国家存亡の危機、とか。


「わたしが安全なら、ローズライトさんは外へ行けますか」

「アンネ殿が安全な状況とは、アンネ殿の命が脅かされない状況だ。そんなことが可能なのか」

「……一つ、方法があります。ただわたしの魔法は一時間で効果が切れてしまうし、わたしを起こしてくれる人が必要ですけど」

「その方法とは」


 雨を降らしたときや晴れにしたときのことを話した。

 わたしの魔法は、わたしが視界に入れた範囲全体にかけられると。そして使うオノマトペは、「すやすや」。

 一時間きっちり眠らせ、かつそれが切れる前にまた重ねがけをすれば良いと。ずっとやり続けることになるため、わたしが寝そうになったときに起こしてくれる人が必要だと。


「……そうか。三百人近くの人間から五十人を選別しようとするから、複雑になるんだ。選別せず、全てに魔法をかければ良かったのか」

「眠らせることはできても、栄養を取ってもらうことはできません。なので、早めに帰ってきてもらえると助かります」

「わかった。アンネ殿を起こすのはザドルに任せよう。実行はどうする? 今すぐにしてもらっても良いか」

「わかりました。では、わたしの視界から外れてください」


 わたしの言葉を受け、ローズライトさんとザドルさんが後ろへ行く。

 それからすぐに、広場に手を向けた。


「すやすや眠れ!」


 広域に魔法を使う場合、発動まで時間がかかるみたい。

 わたしが放った魔法は、少し間を置いてから広場にいた村の人達を眠らせていく。

 そして、視界の中の全ての人が眠りについた。


「感謝する。なるべく早く戻るが、無理はしないように」

「はい。行ってらっしゃい」


 わたしはローズライトさんを見送り、長期戦を覚悟して地面に座った。膝を曲げ、その上に手を置く。


「ザドルさん。ローズライトさんが戻るまで、よろしくお願いします」

「了解した」


 ローズライトさんの様子から、恐らく首都へ向かったんだと思う。

 クホイまで一日。そこから星渡をすればすぐに首都へ行けるけど、ローズライトさんからの話はどれくらい時間がかかるかな。

 万が一話し合いが終わっても、戻ってくるので一日。最低でも、二日間は魔法をかけ続けないといけない。


 ザドルさんにもそのことを伝え、耐久戦が始まった。


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