第074語 星渡人
「アンネ殿は、もしかしたら星渡人かもしれない」
「星渡人?」
「星渡を作った、この世界にはない知識を持ったかつての賢人だ。類い希なる魔法師とされるのは、絶大なる魔力があったからだともされている」
「絶大なる魔力……」
「今も機能している、星渡。あれが今も機能しているのは、星渡人の魔力の高さを示している」
「え……ちょっと待ってください。あれって、その星渡人って人が作ってから誰かが手入れをしているんじゃないんですか」
わたしの問いに、ローズライトさんは首を振る。
星渡って、あれだよね。首都と各地を繋ぐやつ。首都と、東西南北の街と、その間の方角の街四つ。
そんなに多くの場所にある星渡を、昔にいた星渡人が作ったって……。
「その、前にいたっていう星渡人さんは、今も生きているんですか」
「いいや。星渡人はヴァランタン国で伝説として伝えられているぐらい、古い時代の人だと言われている」
「じゃぁ、その人が亡くなっても保たれているってことですか」
「そういうことになる。私も伝承でしか聞いていないから、どこまでが真実なのかはわからない。ただ、星渡門を整備できる人間はいないということは知っている」
「え……でも、それなら尚のことあり得ないですよ。わたし、移動している間の中の光景、どこかで見たような気がしますもん」
「見覚えは、失われている記憶にかかる部分だろうか」
「たぶん」
「それなら、アンネ殿が星渡人の可能性が高まる」
納得できないわたしに、ローズライトさんは強調する。
星渡人とは、この世界にない知識を持つ賢人。つまりは、異国の地から来た人間だということを。
「えっ、いや……だ、だって、それはおかしいです! 昔の星渡人さんが、異国の地から来たって言われているということは、大人もしくはそれなりに成長した段階で来たってことですよね? わたしは、七歳のときにこの村に来ました」
「重要なのは、年齢ではない。この世界にはない、異国の知識を持っているということだ。アンネ殿の、『ごちそうさま』のように」
「え……でも……そんな、ことは……」
「アンネ殿が星渡人だとすると、底なしに見える魔力の高さもその裏付けになる」
「そ、れは……確かに、わたしは魔力が多いと思いますけど……」
わたしには、七歳より前の記憶がない。でも星渡人かもしれないなんて、到底思えない。
わたしはただ、失った記憶があるだけの一般人だ。
「もしアンネ殿が星渡人であれば、国に申請する必要がある」
「申請……それって、国に管理されるってことですか」
「管理というような堅苦しいものではない。星渡人は、国にとって貴重な存在だ。国家予算を充てるべき存在のため、どういう人物か把握しておく必要がある」
「それって、やっぱり管理されるってことじゃないですか」
「星渡人は国の宝だ。宝は、厳重に守られるべきだろう」
宝、と言えば言葉は良いのかもしれない。でも、宝と言えども物は物。星渡人も、物っだって言われたような気がする。
国に管理されるなんて、そんなの全然スローライフができないじゃん。絶対に嫌だ。
「アンネ殿。何が不満だ? 星渡人は死ぬその瞬間まで、生活に困らなくなるのだぞ」
「……わたしは、スローライフがしたいんです。スローライフは、そんな国に管理されるような生活じゃないです」
「そうか、それは確かにそうだ」
ローズライトさんのことだから、頭ごなしに説得してくると思った。でも、わたしがしたいことに一定の理解をしてくれている。
「そもそも、星渡人ってどういう存在なんですか。魔力とか知識とかじゃなくて、どんな生活をしていたんですか」
「言われてみれば確かに、星渡人の偉業が知られているだけでどんな生活をしていたか不明な点が多い。一度、調べてみる必要がありそうだ」
「で、でも、わたしは、別に星渡人じゃないですから! どんな生活をしていても関係ないですけど!」
なぜわたしは、こんなにも強気な態度を取っているんだろう。
自分でも疑問に思ったけど、どうしても自分が星渡人かもしれないだなんて認めたくなかった。
そんな自分でも理解できていない心を、ローズライトさんに見透かされる。
「アンネ殿は、なぜ自分が特別な存在になることを拒絶する?」
「べ、別にそんなんじゃ……」
「全員ではないが、人は称賛されるような人間に憧れるのではないか」
「そんなことないと思います。注目されたくない人だって、いるはずです」
「それは、なぜ?」
「なぜって……目立ちたくないからとか、監視されているみたいで嫌だとか、そんな感じじゃないんですか」
「なるほど。そういう見方もあるのか」
ローズライトさんが、納得してくれたみたい。ひとまずわたしが星渡人かもしれないという話は終了になった。
その後は、どうやって容疑者とされる人達から踏み込んだ話を聞くかということを話す。
「できれば、容疑者達を一箇所に集めたい」
「でも、一人一人を集めていたら気づかれちゃいますよね」
「そう。それが難しい。仮に王都へ行った部下達が戻ったとしても、五十人を相手にするには分が悪い」
「ローズライトさんはこれまで、これだけ大人数の人を相手にしたことはなかったんですか」
「せいぜい、十人程度だ」
三百人はいない村の人口。その内の五十人だけを集める。ものすごい手間だと思う。
手間なく効率的に。それだけを考えたとき、一つの方法を思いついた。でも、それをやるのは気が引ける。
ちらり、とローズライトさんを見た。
「アンネ殿? 何か妙案が?」
「いえ……」
村全体に雨を降らせ、晴れた空を実現した。
それは、わたしが視界に入れた範囲に魔法が有効という証拠だ。
だから、わたしがオノマトペで無力化するようなことをすれば問題は解決すると思う。効果は一時間だから重ねがけするしかないけど、できないことはない。
でも、ローズライトさんの前で改めて力を示したら、特別視されてしまうような気がする。
わたしは、どうしても『特別』にはなりたくないんだ。




