第073語 オノマトペの活用法
南西部以外が燃えた村。
夜寝るときは、南西部の住人の住居を貸し出すことになった。その中には、もちろん村長さんの家も入る。
容疑者の人達と村長さんが接触するのは防ぎたかったけど、まだそこの繋がりを確定するには至っていない。あくまでも容疑者であって、村を荒らした犯人とは言えないから。
そんな感じで二日が過ぎ、建材を購入しに行ったルベルとザドルさんが戻ってきた。
いよいよ、これから村の復興を初めて行く。
塩獣狩りで食糧を確保する組、建材で住居を建てていく組と分かれた。
塩獣狩りで村を離れるルベルに、一緒に行く村の人達の様子を見ておいてほしいと頼んだ。村を荒らした容疑者だから気をつけて、とは言えなかった。ルベルの性格上、詰め寄って騒ぎになっちゃうと思うから。
あれから、「ひそひそ」の効果が切れるまでローズライトさんと話し合った。
容疑者の人達を一斉に無効化できる方法を思いつくまでは、村の復興に力を入れようと。
復興作業が始まり、主に住居を建てていく人達の方が人数が多い。
必然的に、容疑者とされる人達も多くいることになる。住居を建てるときに何か細工をされないよう、ローズライトさんが個別に話を聞くという体で監視することになった。
そしてわたしは、そんなローズライトさんの護衛対象として一緒に行動している。
ローズライトさんが、容疑者の一人とされる地属性の魔法師と話していた。その内容は、土台となる基礎を固めるまでの時間やその後の建築にかかる時間。長くかかるが食糧はきちんと手配されるのか、など。
今、一軒目の住居の土台が作られている最中だ。土台は、土を固めているらしい。柱を立てた際地中に沈まないために必要なんだって。
地属性の魔法師が土を操作し、水属性の魔法師が少しずつ水分を与えて固めるものらしい。そして乾かし、また濡らしと繰り返す。
「あの、すみません。家を建てるときって、あの土台が固まらないとダメなんです?」
「そりゃそうだろうよ。土台が固まらねえと上に何も置けねえよ」
村の復興は早い方が良い。そのための基礎となる土台が作られるまでの時間を、ただ待つだけなんてもったいないよね。
わたしはオノマトペ魔法師。村の復興を早めるオノマトペが、絶対何かあるはず。
「かちかち」はどう? あれは物を固くするけど、利用できるかな。
「アンネ殿?」
「ちょっと、実験してみても良いですか」
「おい、土台に触るんじゃねえよ」
「かちかちに固まれ!」
「あ? 固ま……た?」
目の前で起きたことが不思議なように、ローズライトさんと話していた地属性の魔法師も、土台の近くにいた魔法師も首を傾げている。
わたしのオノマトペ魔法の効力は一時間。これでどれぐらいの時間を稼げるんだろう。
土属性の魔法師によれば、濡らして乾かしてという作業を数日繰り返さないといけないらしい。でもわたしの「かちかち」は、その作業工程を大幅に削減。一日もあれば上に家を建てられるような強度になるみたい。
「家を建てる位置に、土台となる土を固めていってください。わたしが「かちかち」でやっていくので!」
「おお、こりゃあ良いな。時間が短縮される」
地属性と水属性の魔法師達が、それぞれ家を建てる位置に土台の土を盛っていく。
「……アンネ殿。道を作らず無作為に家を建てるとなると、生活する上で不便になると思うが」
「あっ、そうですね。みなさん! なるべく住みやすいように土台は並べる感じでお願いします!」
ローズライトさんからの意見を反映させすぐに伝えたわたしの指示に、現場の人達がすぐに従ってくれる。
できたと言われた箇所から、「かちかち」を施していく。
村の中心から、外へ。中心から、外へ。わたしの魔法は一時間しか効力が続かないから、繰り返しかけることになる。
そうして夜になる頃には、今日盛られた土台が一晩おけば問題ないくらいの硬さになるとわかった。
南西部の住人の人達から提供された野菜類と、塩獣狩りで仕留められたお肉が調理されていく。広場での宴会は、毎回準備する。家がない人ばかりだから設置したままでも良いような気がするけど、食事が終わったら片付けるのって、もう癖だよね。
わたしは今日も「とろとろ」や「ジュージュー」で夜の宴会に参戦した。
焼いたお肉とシチューを持って、ローズライトさんの所へ行く。器を渡すと、しっかりと受け取ってくれた。
「……アンネ殿の魔力は底なしか」
「魔女だって話です?」
「いや、そういうつもりはない。ただ単純に、今日の作業量と今の様子からそう思っただけだ」
「底なしかどうかはわからないですけど、わたしは村のみんなみたいに鍛えなくても魔力が切れたことはないですねぇ」
ローズライトさんと話しつつ、夜の宴会場になっている広場を見る。魔力向上のため、向上した魔力から自分を守るため、村の人達は概ね身体を鍛えていた。
シチューにスプーンを入れる。今日も「とろとろ」は良い仕事をしてくれたみたいだ。お肉の煮込み加減が完璧。
シチューの出来映えに満足して完食した。器を返すならとローズライトさんを見たけど、全然食べていないみたいだ。
「ローズライトさん? お腹すいてないですか?」
「あ、いや……」
「ちょっとぬるくなっちゃってますかね。できたて【ほやほや】、温かくなーれ。はい。これでまた美味しい状態にもどりましたよ」
器に魔法をかけた。気をつけたけど、そのときにローズライトさんの手を触っちゃったかな?
ローズライトさんは、わたしをじっと見るように視線を動かさない。あんなに、見つめるのはダメだと言っていたのに。
というか、見ているようで何かを考えているのかな?
「ローズライトさん。どうしましたか?」
「あ、いや……あつっ」
「あー、慌てて食べると火傷しちゃいますよ。というか、ローズライトさんって猫舌です? それなら温め直さない方が良かったですかね」
呼びかけると、ローズライトさんの意識が戻ってきたように見えた。そして目が合っていると気づいたのか、慌ててそらす。
持っていたシチューを食べて、はふはふと口の中に空気を入れている。それから息を吹きかけ冷ましながら、シチューを食べ終えたらしい。
「アンネ殿。器を返したら話がある」
「わかりました。ちょっと待っててくださいね」
ローズライトさんは、真剣な表情をしていた。話すというその内容も、真面目な話かもしれない。
わたしは小走りで器を戻し、ローズライトさんの所へ戻る。そして「ひそひそ」をかけた。




