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第071語 村の復興のために

約3000字です。

ゆったりと読める時間に読んでいただければ幸いです。



 塩獣の巣穴から戻った集団は、村の惨憺たる状況に言葉を失った。

 無残にも燃えてしまった住居があった場所を見て呆然とする人。その場で膝をついて落ち込む人。燃えていなかった南西部を見て、南西部の住人に文句を言う人。


「これから、各村人に聴取をしていく。それまでの時間を、村の復興をどうやるか考えながら待っていてくれ」


 低いけどよく通るローズライトさんの声は、村の人達の視線を集めた。


「だがよお……こんなんじゃ、復興も何もあったもんじゃねえぞ」

「そうだそうだ! 元の村には戻らない」

「元の村に戻す必要はない。この地で継続して住みたいのならば、そうなるように整えれば良い」


 そう言うとローズライトさんは何かを呟くと、ケビンさんがやっていたような緑の伝令鳥を生み出した。ぴろんと癖毛のような毛を一房立てた伝令鳥に、ローズライトさんが言葉を残す。

 そして、空へ放つ。


「首都へ要請を行った。物資が届くまでは村の最寄り街クホイから建材を購入する。村を出る買い出し係は」

「俺が行く」

「いやオレが」


 ローズライトさんの提案に何人かの地の魔法師が手を上げた。建材だし適任だと思ったけど、ローズライトさんは渋い顔をしている。


「建材を買うのは、ザドルとルベルだ。ザドル、任せたぞ」


 連れ立って来ていた部下の内、残っていたザドルさんとルベルを村の外へ出した。そしてすぐに、村の人たちへの指示も出す。


「まず、先だって塩獣狩りをしてもらうことになる。肉ばかりでは栄養が偏るため、申し訳ないが南西部で住居が燃えなかった者達に助力を請いたい。相応の金額は払うため、貯蓄している食糧を村にわけてもらえないだろうか」


 ローズライトさんの言葉を受け、それぞれが動く。指示が的確で迷いがないため、村の人達も動きやすいと思う。

 火事っていうか、もう災害だよね。大きな災害があったときは、何をすれば良いのかわからないことの方が多い。指示されれば動きやすいし、動いていればひとまず家を失った悲しみを忘れていられる。


 そう思っていたけど、一組の夫婦を発見してその考えを少し改めた。

 北西部に家を構え、クホイで食器を卸していたオガックさんとカトコさん。黒焦げになっていると思われる自宅方向へ、ふらふらと歩き始めた。

 心配になったわたしは、二人を追いかける。ローズライトさんに伝えた方が良いかと思ったけど、今何をすべきかを村の人達に指示しているから忙しそうだ。


 オガックさんとカトコさんご夫婦は、自宅があった場所までの最短距離を行く。途中で黒焦げになった誰かの家の敷地らしき所を通って行くから、見ていて危ない。焼けた後は鋭利なものも飛び出している場所もあるかもしれないから、わたしは駆け寄った。


「オガックさん。カトコさん。火災の現場を歩くのは危ないですよ」


 声をかけても、二人の目線は自宅があった方向に向いている。

 オガックさんの足下に、基礎の土台みたいなものがあった。燃え残った部分が、尖っている。


「危ないっ」

「邪魔をするなっ」

「――っ」


 行動の指示を出すよりも直接動いた方が良いと思って、オガックさんの手を引いた。でも振り払われて、思わず尻餅をつく。

 その際、手の横がざっくりと切れてしまった。痛みで声が出そうになったけど、オガックさんが怪我をする前に腕を掴む。オガックさんの服に、わたしの血がついてしまった。


「オガックさん。自宅に向かうのはわかりますが、周囲の状況をよく見てください。今怪我をしたら、ろくに治療ができないですよ」

「……そうですよ、お父さん。まずは落ち着きましょう」


 カトコさんが、オガックさんに呼びかけてくれた。するとさすがはずっと連れ添っているご夫婦。わたしの声は届かなくても、カトコさんの声は届いたみたい。

 袖から染みるわたしの血に気づいたオガックさんは、長袖の根元から豪快に引きちぎった。


「血が早く止まるようにしてやってくれ」

「はいはい。わかりましたよ」


 心なしか穏やかな口調になったオガックさんからの指示で、カトコさんが引きちぎられた袖をわたしの手に巻きつけてくれる。


「大気を巡る水のマナよ、水属性魔法師カトコが命じる。アンネちゃんの手の傷が塞がるように、力を貸して」


 カトコさんが詠唱をすると、布を巻いてからもじわじわと出続けていた血が止まったような気がした。


「?? 水の魔法って、治療もできるんですね??」

「治療とは違うのよね。ほら、身体には水分があるでしょう? その水分に働きかけて、傷を塞いでもらうのよ。失ってしまった血は再生できないの」

「な、なるほど……?」

「これまで協力できなくてごめんなさいね。この年になると、変わることは怖いのよ」


 カトコさんと話している内に、完全に血が出なくなった。本当に傷が塞がったのか、恐る恐る巻きつけられていた布を取る。

 切ってしまった箇所は赤いからわかるけど、もともと手にあったシワだと言われたらわからないくらいだった。


「時間が経てば、その線も消えるわ」

「あ、ありがとうございます……」


 カトコさんがわたしに魔法をかけている間、オガックさんは火災現場から出て安全な場所で腰に手を当てていた。今後のことを考えているんだろうか。


「カトコ。とりあえず自宅があった場所へ戻るぞ。これから村を復興していくんだ。何か食べるにしても器が必要だろう」

「そうですね。発掘しましょうか」

「わ、わたしも手伝います!!」


 ご夫婦と一緒に、わたしも二人の元自宅へ行く。そして、火災現場の中から少し洗えば使えそうな陶器の食器を発掘する。


 三人で持てるだけ持って移動すると、塩獣狩りに行ったらしい人達も帰ってきていた。塩獣の巣穴に閉じこめられているとき、何回か襲われたんだそう。洞窟の中に放置していたけどまだ食べられそうなやつを持ってきたみたい。


 いつもの、夜の宴会みたいなものが広場に設置されていく。

 地の魔法師が枝や石を使って焼き場を、水の魔法師が飲み水を用意する。風の魔法師は南西地区の人からわけてもらった食糧を各人へ渡していく。洞窟の中にいた火の魔法師が、火を用意する。

 そこへ、オガックさんとカトコさんが器を持って参戦していった。


 そんな「いつもの」光景を見ていたわたしの隣に、ローズライトさんがやって来る。


「この村の人は強いな。私の指示なんてほんの少しだけで、こうして日常を作り出している」

「はい、本当に。このまま、何事もなかったようになれば良いんですけど」


 カトコさんに呼ばれ、わたしも日常の中に入っていく。

「パシャン」で出した水で器を洗い、焼き石の上の肉に「ジュージュー」をかけて良い感じの焼き具合にする。


 こうして、いつものように行動すれば、今までの日常が戻ってくると思った。

 でもそれは、もう無理なんだと思う。こうして集まっている村の人達の中にどれだけいるかわからない、村長さんと繋がっている人達をあぶり出さないといけないから。







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