第007語 将来の話
「あれ、ルベル?」
村長宅を出ると、すっかり雨は止んでいた。
玄関から出てすぐわかるところに、ルベルがいる。幼なじみに駆け寄った。
「どうしたの」
「いや……アンネだけが、馬車に乗っていったから。その、何かあったのかなって」
「あぁ。えぇと、わたしのスキルが新しく未発見のものだったから、それをスマザ村長に伝えたかったんだって」
「スマザ……村長って、そんな名前だったんだ」
「ね。初めて知ったよね」
家まで送ってくれるというルベルと一緒に、村長宅を離れる。
「そういえばさ、アンネはこれからどうするんだ?」
「どうするって?」
「成人の儀が終わっただろ? 村の外に出るのか」
「んー……それはないかな」
「アンネは、その……こんな辺境の村で終わって良い人間じゃないと思う。村の外の世界に興味はないのか」
ルベルから聞かれた内容の中で、どうしても看過できない文言があった。
立ち止まって、腰に手を当てルベルの鼻先にビシッと指を向ける。
「ルベル。こんな、なんて言っちゃダメだよ。この村は良いところなんだから」
「そう、か……?」
首を傾げるルベルを見つつ、また歩き始める。
ルベルは、どうしてそこで疑問に思うんだろう。
さすがに全員というわけじゃないけど、大体の顔を知っている。それはもう、大きな家族みたいなもの。
それに視界の中にはいつもリヴィエリ山があって、山から吹き下ろす風は冷たいけど、空気は美味しい。村の中にある井戸だって雪解け水が溶けている。
「空も近いし、景色も良いじゃん。ルベルは何が不満なの?」
「いや……まあ、アンネが外に出ないってなら安心した」
「安心? なんで?」
「い、いやっ、ほら。幼なじみがいなくなるのは寂しいだろっ」
「?」
ルベルの顔が赤い気がするのは気のせいかな?
もう夜だし、松明に照らされただけかもしれない。
「幼なじみと言えばさ、他のみんなは? 外に出るって?」
「いや。他の三人には聞いてない」
「そうなの? まぁ、将来なんてそれぞれだよね。ポアルは、村の外に出そうだけど」
「どうだろうな。ポアルは案外、村から出ないかもしれない」
「それはないんじゃない? ポアル、貴族様に嫁ぎたいって言ってるよ? 村をバカにするわけじゃないけど、村で待っていても貴族様は来ないんじゃない?」
ルベルは何か言いたそうな顔をする。
ポアルとも幼なじみだけど、わたしとは二つ年が離れている。同い年のルベルと合う話もあるかもしれない。
「ルベルのスキルは、水魔法の最強のやつでしょ? もしかしたら宮廷魔法師も行けちゃうんじゃない? 前みたいに、村の外には出ないの?」
「おれも、今のところ村を出る予定はない」
「そうなんだ? でも今のところってことは、もしかしたら村を出る可能性があるってこと? もしそうなら、寂しいな」
「っ、ア、アンネを寂しがらせるようなことは、しない!」
ぐっと前のめりで伝えてくるルベルからは、かなりの熱量を感じる。
「そ、そうなんだ。もう成人して大人だし、いつかは離れちゃうかもしれないけど。そのいつかが来るまでは、みんなで一緒にいられると良いね」
「そ、そうだな……」
「?」
今度は、落ちこんだように肩を落としてる。こんなに気分が上下するなんてルベルらしくない。
疑問に思ったけど、ルベルだって人間。そんなときもあるよねと納得する。
その後はわたしの魔法がどんなものなのかを話しながら、村長宅からは真逆にあるわたしの家まで送ってもらった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
明日からは、更新話数が減ります。
また余裕が出てきたら増やす予定なので、続きが気になると思ってくださる方は、ブックマーク登録をして待っていただけると幸いです。




