第069語 愚者の確信
わたし達三人は、火事の被害がなかった南西部にある村長さんの家に向かった。
村長さんの家の周りにある植物達ですら、火事の被害が出ていない。本当に、南西部だけ火事から免れたみたいだ。
普通に考えたら残った地域にいる人が、火事を引き起こしたんじゃないかって思う。でも村長さんは水属性だし、あれだけ燃えたんだ。もし放火だとしたら、火だけでなく風の魔法師もいないとダメなんじゃないかな。
背筋が、ゾクッとした。
まさか、そんなことある? 村の人達がみんな、村長さんの指示に従ったなんて。
いや、さすがに考えすぎだ。どうやってそんな人数の人を動かすっていうの。魔法で従わせるには、数が多すぎる。
でも……。
あまりにも、タイミングが良すぎる。確かに停滞していた村での問題を動かすため、ローズライトさんと村を出た。でも、例え村長さんが動いたとしても規模が大きすぎる。村長さんに協力する人達が、絶対にいるはずだ。
村のみんなを、疑いたくない。でも、そう考えないとおかしな話。
「アンネ殿。中から応答がない。あの規模の火事があった後だ。風向きから考えると可能性は低いが、村長が煙を吸って倒れているかもしれない。救護案件として踏み込む」
「は、はい」
ローズライトさんから言われ、正面玄関から中へ入っていく。でもすぐに、ローズライトさんが足を止めた。
それもそのはず。村長さんの家は特殊で、一階には複数の扉がある。階段がある場所でさえ、扉の奥だ。
「前にスマザさんの世話係をしたことがあるので、中の構造は少しわかります。見たところ一階に村長さんは倒れていないようなので、二階の寝室へ行きましょう」
「あ、ああ。助かる」
スマザさんも無事だったかを確認した方が良いと思ったけど、先に村長さんを確認する。
スマザさんの部屋から近い扉を開け、階段で二階へ上がる。そして右奥の部屋へ向かおうとした。
階段から離れた途端に、その目的とした部屋から村長さんが出てくる。肩掛けで隠しているけど、寝間着のように見えた。
ローズライトさんは、すぐに村長さんに背を向ける。
「っ、すまない。倒れていると思い、中へ入った」
「いいえ。申し訳ありません。ここ数日、体調が悪くて……」
「それなら、村で起きた火事のことは知らないか」
「えぇっ!? まさか、そんな……あたくしの村が?」
「風向きが悪かったのだろう。村の南西部以外は被害が甚大だ」
「それは困りましたね。村人は? みなさん、無事でしたか」
肩掛けで口元も隠しているけど、目元は見えている。ローズライトさんからの質問に応える村長さんが、自信に満ちあふれているように見えるのは気のせいかな。
「村長に窺いたい。私が村を出る前と比べると、人数が大幅に少ないように思う。火事で村人に被害者はいなかった。村人達がどこに行ったのか、心当たりはないか」
「心当たり……あぁ、そうです。もしかしたら、リヴィエリ山にある塩獣の巣穴かもしれませんね」
「塩獣の?」
「村人達が生業にしている、塩獣狩りの洞窟です。もしかしたらそこに避難したのかもしれません」
村長さんの話を聞き、ローズライトさんがわたしに場所を確認する。でもわたしは一度も狩りに参加していないから、首を振った。
「もし洞窟に行くのでしたら、村の男衆に聞けば良いです。狩りに行っていた者がおりますので」
「わかった。協力、感謝する」
ローズライトさんに促され、その場を離れる。
階段を降りる手前で村長さんを見たら、目が合った瞬間鼻で笑われたような気がした。
まさか……!?
体調が悪いというわりに、ローズライトさんと話すときは淀みなくすらすらと。
ローズライトさんの考え方を知っていて、あえて寝間着で登場した。姿を観察されないように。
引き返しても、わたしじゃ何も聞き出せないと思う。ローズライトさんのことすら調べて対応したのだとしたら、よほど考えている。
何もできないと思われたから、あんな風に笑われたんだ。
……悔しい。あんなに、あからさまな態度なのに。わたしは、何もできない。
絶対に村長さんが一枚噛んでいる。いや、黒幕だ。それなのに、わたしは何もできない。
大好きな村のために。スローライフを送りたいと思っていたのに。
わたしは、何もできないじゃないか。せっかく、オノマトペ魔法っていう珍しいスキルを授かれたのに。
失っている記憶の部分で、もしかしたら打開策があるかもしれない。早く思い出したいと思うけど、その方法がわからない。
わたしは悔しく思いながら、ローズライトさん達と村長さんの家を離れた。




