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第068語 死者を悼む


 一時間大雨を降らせ、その後晴天にした。

 それぐらいになって、ようやくわたしの足も動くようになる。まだ走れないけど、歩けるぐらいにはなったと思う。

 地面に両手をついて腕の力で腰を上げ、立つ。何歩か歩いてみて、大丈夫そうだったから村に向かった。

 ローズライトさんからは動くなと言われていたけど、火事だったからだよね。それが鎮まれば、行っても問題ないはず。


 わたしは、のろのろと歩き始める。その内に足の感覚が完全に戻ったと感じた。

 それでもまだ走ることはできない。急激な筋肉痛みたいな痛みで、足が重い。

 ゆっくり歩いて村へ入り、ローズライトさん達を捜す。


 いつから燃えていたんだろう。火事で南西部以外が焼けてしまった村の中は、惨憺たる状態だった。

 建物の形が残っているのもあるけど、そういうのも黒焦げになってしまっている。土台だけしか残っていない建物も。

 南西部だけ、無事だ。どうして南西部だけ燃えていないんだろう。風向き?


 キョロキョロと燃え尽きた村の中を歩いていると、ローズライトさん達を見つけた。

 火事を鎮火させたと自慢しようとして、すぐに口をつぐむ。

 ローズライトさん達の目の前に、一人の遺体があった。あの火事で焼かれてしまったのかな。真っ黒焦げになっている。顔だけ綺麗なのは、ローズライトさんが魔法でやったのかな。


 ローズライトさんだけでなく、廷臣法官の人達が全員その人の死を悼んでいる。

 ローズライトさんはローブを出し、その人を包んだ。

 もしかして、この人がケビンさん?


 なんて、声をかけたら良いんだろう。

 わたしにとっては話したこともなかった人だけど、ローズライトさん達は違う。同僚が死んじゃったんだ。悲しいよね。

 元気を出して下さいとも、火事に巻きこまれちゃったんですねとも言えない。

 考えたけど、誰かが死んでしまったときの適切な言葉がわからなかった。


 そのまま、どれくらいの時間が経っただろう。ローズライトさん達が動き出した。

 ローズライトさんが、他の被害者を捜すように指示する声が聞こえる。廷臣法官の二人や、廷吏の二人も動き出した。

 まだ表情が暗いローズライトさんが、振り返ってわたしを見つける。


「あ……その……か、火事が、収まったので動いても良いかと、思って……」

「もしかして先程の雨とその後の晴れは、アンネ殿が?」

「は、はい……。やってみたら、できました」

「そうか。天候を操れるなんて素晴らしいスキルだな」

「そ、そうですね」


 ローズライトさんの表情は、まだ暗いまま。でも話す口調は、わたしが知っているローズライトさんのままのような気がする。

 絶対、悲しいはずなのに。あれほど、死を悼んでいたと思うのに。

 ローズライトさんは気丈に振る舞って見せる。その姿が逆に痛々しくて、死んでしまった人がローズライトさんにとって大切な同僚だったのだとわかった。


「……どなたが、亡くなられたんですか」

「ケビンだ。私の副官を務めていた」

「伝令鳥を飛ばしてくれた人ですね。どんな人だったんですか」

「勤勉で、魔法師としても廷臣法官としてもよく働いてくれた」

「ローズライトさんに言われるなんて、すごく真面目な人だったんですね」

「ああ、とても。私の身分を知っても、臆さなかった唯一の廷臣法官だ。ケビンがいたから、私も廷臣法官長として動けた」


 ケビンさんとの思い出が頭をよぎったのかもしれない。ローズライトさんは口を引き結び、まるで泣くことを堪えているかのような顔をする。


「ケビンさんは、おいくつだったんですか」

「二十五だ」

「ローズライトさんは?」

「私は十八だ。それがどうかしたのか」

「七歳も離れているんですね。ケビンさんはローズライトさんの部下だけど、廷臣法官としては先輩で、お兄さんみたいな存在だったんじゃないですか」

「そうだな。兄上とは違うが、確かに面倒見の良い人だった」


 ローズライトさんがさらに口を引き結ぶ。これはきっと、わたしがここにいたら泣けないやつだ。

 わたしはローズライトさんを慰めるように背中をポンと叩き、その場を離れた。


 コナーさんや他の人達を捜し、ローズライトさんの気持ちが落ち着くまで一緒に行動する。

 ローズライトさんが出していた指示のもと動いていたコナーさん達と、残りの被害者を焼けた現場から外へ出す。そこへローズライトさんもやって来て、ケビンさんにしたように魔法で顔を綺麗にしていく。

 その結果。火事の跡から発見されたのは、全部で四人。ケビンさん他、ローズライトさんの部下の人達だった。


 ローズライトさんが何かを呟き、着ていたローブがからりと乾く。コナーさんともう一人の廷臣法官の人にも魔法をかけた。

 ローズライトさんが指示を出す前に、三人が自分のローブをそれぞれの遺体にかける。


「コナー。廷吏の二人と一緒に死者を連れて行ってくれ。クホイに行けば馬車も借りられるはずだ」

「わかりました」


 廷吏の二人が死者を抱え、コナーさんと一緒に村を出て行く。その背中は哀愁が漂っていたし、それを見送るローズライトさんも仲間の死を悼んでいるように見えた。

 村に残ったのは、ローズライトさんともう一人の廷臣法官。髪が茶色だから、土の魔法師かな。


「ザドル。コナーの分も働いてもらうから、そのつもりでいるように」


 残った人は、ザドルさんと言うみたい。ローズライトさんからの言葉に頷いた。


「これから、村人達に聴取を始める」

「あ、ローズライトさん。ちょっと待ってください!」

「どうかしたか、アンネ殿」

「あの……亡くなった方が廷臣法官の皆さんだけだったなら、おかしいんです。村の人口は、三百人くらいいるはずなのに」


 わたしの言葉を受け、ローズライトさんは消火活動に参加していた村のみんなを見るように周囲を窺った。


「他に、何か気づいたことは?」

「ルベル達がいないってこともそうですけど……」


 わたしは「ひそひそ」を使って、違和感を伝える。

 村にいる人に、火属性の魔法師が一人もいないということを。


「それは、確かに変だな。多くの村人が行方不明なのも不審だが、残っている村人の属性が偏っているのもおかしい」

「それに、あれだけ大きな火事だったのに村長さんが来ないことも。絶対何かありますよ!」

「ふむ……。行方不明の村人達を捜索もあるし、一度村長に話を聞いてみるか」


 わたし達が話している間、こちらの様子を窺うようにしていた村の人達も気になる。

 もし、この人達が村長さんの仲間だったら? 村人のように振る舞えと指示をされていたら?

 そんな、恐ろしいことを考えた。







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