第067語 村から離れた結果
訂正。
わたしは、どんな体勢で馬に乗せられるのか。
馬屋で馬を借りたローズライトさんは悩むことなく、断りを入れてからわたしを馬の首辺りにうつ伏せ気味に横に寝かせる。
ローズライトさんが鞍にまたがって出発しようとしたとき、部下の人達が抗議し始めた。
「女性をそんな体勢で移動させるなんて!」
「そうは言っても、これが一番効率的だ。重心が低く、万が一馬が暴れても落ちにくい」
「アンネさんの身体に負担がかかります!」
「コナー。今は、優先順位を考えろ。今一番に優先すべきは、村への帰還だ。アンネ殿が行くと言った以上、移動が何よりも優先される」
「ですが!」
「コナー。何度も言わせるな。仮にお前が言うようにアンネ殿の負担だけを考えると、私が抱えた方が良いのだろう。だが、それでは村に着くまでに私とて腕に疲労が溜まる。それでは手綱を握れなくなるだろう」
「……えぇと、コナーさん。ローズライトさんが最適だという体勢なら、たぶんわたしにも最適なんだと思います。というか、この体勢のまま動かないことが、一番つらいです」
「っは。それもそうですね」
コナーさんは納得してくれたみたいだ。
わたしの身体は、進行方向に対してほぼ直角になっている。両足は、馬の左側に垂らしてある状態。
「アンネ殿。馬の鬣をしっかり掴んでくれ」
「わかりました」
「では行くぞ! 全員、私に続け!」
ローズライトさんが手綱を握った。でも右手はわたしが落ちないように腰を支えてくれている。
ローズライトさんが出発する。わたしがまともに乗れる状態じゃないから、全速力ではないと思う。でも、ただ走るよりも確実に早い。
ローズライトさんはわたしのことを気にして走ってくれているけど、わたしは周囲の景色を見る余裕はない。とにかく落ちないように、これ以上迷惑をかけないように、鬣を掴むことで必死だった。
行きは歩きで周囲の景色を見れたけど、帰りは馬に乗せられて駆けていく。ローズライトさんが腰を持って支えてくれているけど、周りを見ようとすると上下に揺れる。
わたしは目を閉じて移動をやり過ごした。
駆ける速度が落ち、ゆっくりと止まる。村に着いたのかと思って身体を起こそうとしたけど、まだローズライトさんの手がわたしの腰を支えていた。
何だか、焦げ臭いような気がする……?
何があったのかと見ようと思ったら、ローズライトさんが断りを入れてからわたしの身体を馬から下ろした。そして、近くにあった木に背を預けるような姿勢で座らされる。
「村がっ!!」
南西部以外の場所から、火の手が上がっていた。
「アンネ殿。すぐに消火活動に入る。この場所にいれば問題ないはずだ。動くと危険だから、この場から動かないように」
「は、はい……」
わたしに指示を出すと、ローズライトさん達は全員馬から下りて村へ入った。
わたしの足は、まだ動かない。あとどれくらい経ったら、動くようになるの? 村が、あんなに燃えているのに!
動かない足に苛立って、何度も太ももを殴る。それでもわたしの足は動かなくて、何もできない自分が歯がゆかった。
村は、クホイのように見てすぐにわかる出入り口はない。なんとなくこの辺から、という曖昧な状態。
だから、村の中がよく見えた。
消火活動をするローズライトさん達。火事の様子を見て何もできない村のみんな。ローズライトさんから指示を受けて、ようやく動き出した。
……あれ? ルベルがいない?
こんなとき、村一番の水魔法の使い手であるルベルがいたら、真っ先に消火活動をするはず。
ルベルだけじゃない。この場所から全員が見えるわけじゃないけど、人の数が少ない気がする。
もしかして、みんな火事で……?
築年数がそれなりにある木造の家々は、消火活動が間に合わないくらい燃えている。薄赤い煙が立ち上り、消化まで時間がかかりそうだとわかった。
わたしの足が動けば……いや、ちょっと待って?
確かわたしは、離れていてもオノマトペ魔法の効果を出せたはず。前にスマザさんに試したときは窓際から部屋の中くらい。それより何倍も離れているけど、実際問題、どれくらいの距離まで行けるんだろう。
わたしの視界に収まっていれば、いける?
よし、試してみよう。試してダメなら、また考えればいい。
村という広範囲に水を出す。それは、どうやって?
「パシャン」じゃ、意味ない。「こんこん」も違う。それなら、わたしは何ができる?
「っ、わかった! 【ザーザー】だ!! ザーザー降って、降りまくれ!!」
わたしは両手を村へ向けて、思いついたオノマトペを叫ぶ。「パシャン」みたいに、すぐに結果はわからない。
ダメか、と思ったそのとき。
村の上にだけ黒い雲が集まり始めた。村以外の所は、青空のまま。
村が見える、わたしのすぐ目の前までが範囲の大雨が降り始めた。
ザーッ、ザーッって、一定の周期で強い雨が降る。やった。これで、村の火事を鎮められるはず。
火事って確か、鎮火したと思っても火種が燻っているんだよね。どれくらいの雨を降らせたらその火種も消えるんだろう。一時間ぐらい降らせ続けたら、さすがに消えるかな。
両手を村に向けたまま一時間。途中で疲れてきたから身体を倒し、腕を地面で支えながら雨を降らせ続けた。
「【カラッと】一気に晴れ渡れ!」
もう大丈夫だろうと思って、今度は晴れるように詠唱した。
雨が降るよりも早く、村の上にあった黒い雲がさーっとなくなっていく。そして元通りの晴天に戻った。
これだけ広範囲に、しかも一時間もできるなんてわたし、すごくない?
なんて、自画自賛しちゃうような効果だった。




