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第064語 ▲動く▲

悪者回、二回目。

明確に人が死にます。読後に何か癒されるものを用意し、読んでいただければ幸いです。


 七年間。

 ザーマは、祭司との密会を続けてきた。それはザーマにとって生きる喜びで、祭司からはずっと言われ続けている。

 スマザ家が代々担ってきた役割を放棄するとき、この地を更地にしろと。

 祭司からの言葉だったし、何よりザーマと息子の住む場所を提供すると約束してくれた。その約束だけあれば、ザーマは後のことを気にしない。


 確実に魔力炉の力を絶つため、今年の生け贄は必ず捧げないといけない。もう一人増やして、七年間の集大成を確実なものとしよう。


 ザーマは、七年間で増えた祭司の部下を家に招集した。二階の二室を埋めつくすほどの人数は、実に村人の三分の一弱。

 これだけの協力者がいれば、絶対に失敗しないだろう。


「魔法師を、リヴィエリ山の麓に塩獣が出てくる洞窟に閉じこめて。特に水の魔法師は一人も漏れないように。従わない魔法師は、ルベル意外は殺しても構わないわ。祭司様の希望を叶えるために、ルベルは必要よ。絶対に、ルベルは殺さないで」


 その後も、他の魔法師達にそれぞれどう動くかを伝えていく。指示を分けることで、予測できない危険を減らす。それは同時に、ザーマの身も守ることになる。

 ザーマの指示を受けた村人に扮した者達が、村の中に散っていった。


 然るべき指示は出したから、後は時を待つだけ。

 ザーマは監禁している村人の状態を確認しようと、煉瓦造りの部屋へ行く。

 部屋一杯に描かれている魔方陣の線は、六年かけて青から赤黒く変わってきている。

 今年。二人を生け贄とすれば、確実に全ての線が赤黒く変わるはずだ。


「あー、あああ?」

「意外としぶといわね」


 ザーマの足下にすがるように這いつくばって近づいてきた村人を蹴り、転がす。それでも尚ザーマを求める村人は、完全な廃人だ。

 通常は、監禁してから一ヶ月もしない内に生きる意思を失う。そして最後の最後、死ぬ間際に思い出したように見せる生への渇望が、人が持つ以上の魔力として魔方陣に残るのだ。


 この村人は、一ヶ月以上も耐えている。よほど、生きなければいけない理由があるのだろう。


「……そういえば、妹がいたわね。それを殺したら良いかしら」

「あぁああ! ああ!!」


 廃人になっても尚自分の意思で動けるのか、急にザーマの足に抱きついてきた。まるで、妹を殺させまいとする兄の意思を持っているかのように。


鬱陶うっとうしいわね!」

「ああっ……」


 足に絡みつく村人の腕を、思い切り踏んづけた。それでも尚ザーマの行動を抑制しようとするため、部屋に咲くブルベルの花をむしり取る。そして口の中へ突っ込んだ。

 ブルベルの香りは、嗅ぐだけで酩酊状態にさせる。花を口にすれば、急激な刺激で気絶させられるのだ。


「まったく。鬱陶しいったら」


 生け贄を死なせるのは、あくまでも儀式を行うとき。だから今傷つけた箇所を、手当てしておかなければいけない。

 同じ理由で、儀式が終了するまではギリギリ生きていられるように食事もあたえている。ブルベルの花の香りで酩酊状態にさせれば、意のままに操ることは容易い。それは、時間が経てば経つほど。


 ザーマは文句を言いながら、気絶している村人が怪我した部分に布を当てる。

 そして、指示した内容の進捗状況を見るために家を出た。


 村にはいくつか、生々しい赤い染みができている。しかし、問題はない。魔力炉と繋がっている、魔方陣にさえ他の血が混ざらなければ。


「村長!! これは、一体どういうことですか!!」


 広場の辺りで、何人かの魔法師達が戦っていた。

 ザーマに抗議する人物は、廷臣法官の一人だ。なかなか実力がある男のようで、抗議しつつ、周囲を敵に囲まれながらも善戦している。

 祭司の部下だから使えると思っていたが、協力者の実力はそれほど高くなかったらしい。


 風属性の廷臣法官の他にも、同じく廷臣法官数人が魔法で戦っている。

 さすが、首都から派遣された廷臣法官長の部下。その力は確かなようだ。


「村長!! 説明を!!」


 風属性の廷臣法官が、魔法で攻撃を防ぎながら叫ぶ。

 耳障りな声は、即刻排除すべきだ。


 ゆっくりと近づいていくザーマは、詠唱しながら距離を詰める。そして風属性の廷臣法官の前に来たとき、ザーマの手には水でできた刃物があった。


「村長……? 何を……」


 一瞬の躊躇いもなく、ザーマは水製の凶器を風属性の廷臣法官の心臓に突き刺した。刺さった瞬間、凶器は水となり廷臣法官の服に染みていく。

 刺された方は、流れる血を止める術はなく倒れるのみ。


「何をしているの。早く残りも処理しなさい」


 ザーマの声がかかるや否や、魔法だけで戦っていた協力者達は村に残った廷臣法官達を殺していく。

 広場に残されたのは、複数の死体。このままここに残せば、すぐにばれてしまう。


「これらを、村の南西以外の場所に捨ててきて。一緒に燃やしてしまうわ」


 ザーマの指示を受け、協力者達がすぐに動いた。

 それを見届け、ザーマは南西部以外の仕掛けを確認していく。


 閑散とした村の中。指示した通り、村人達を洞窟に閉じこめることに成功したようだ。

 後は、邪魔な部分を全て燃やし尽くすのみ。


 順調。実に順調だ。

 こうして更地にするのに邪魔な場所を燃やし、魔方陣の効力を壊したらザーマの家すら壊せば良い。

 そうなってからようやく、祭司へこの地を明け渡せるのだ。


 六年間。毎年一人生け贄を捧げた。衰弱させた魔法師の、最後の生きる希望。それを断ち切ったとき、産まれ持った力よりも遥かに多くの魔力が魔方陣に流れる。


 やっと。やっとだ。

 六年の時間をかけ、七年目の今年。ザーマの悲願が達成する。

 そのためには、確実に七年目の生け贄を捧げないといけない。


「……風向きが悪いわね」


 協力者の中にも、風の魔法師はいる。しかし天然の風を操れるような力の持ち主はいない。

 今年の生け贄はまだ捧げていない。それを実行するためには、まだザーマの家に被害は出せない。


 火を放つとザーマの家が燃えるような風向きが、変わるのを待つ。

 放火の指示を出したのは、二晩も経ってからだった。


 ▲▲▲







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