第062語 頭痛の原因
ここは、どこだろう……。
わたしが目を覚ましたとき、どこかの部屋のベッドに寝かされていた。天蓋付きのベッドに、絶対に高いとわかる調度品の数々。緑がアクセントになっているその品々は、ここが『月影』ではないと言っている。
でも、あの高級なお宿のような、高級感がある。首都の宿屋なのかな。
身体を起こしてぼーっとしていると、扉がノックされた。
「アンネ殿。入るぞ……っと、起きていたか。体調はどうだ?」
「あ、はい……ひとまず、頭痛は治まってます」
わたしの様子を見に来てくれたのか、ローズライトさんが見慣れた随行メンバーと一緒に部屋の中へ入ってきた。
もし起きていなかったら、看病をしてくれたんだろうか。ローズライトさんの手には水差しとコップがある。
「あの、ここはどこでしょう」
「首都の星渡殿から近い、私の家だ。宿屋に行くよりもこちらを選んだ」
「なるほど……ローズライトさんの……」
話を聞いて納得だ。緑がアクセントになっているのは、恐らくローズライトさんの瞳の色が緑だからだと思う。
自分の瞳の色をアクセントに使うなんて、お洒落だな。
「事後報告になってしまうが、アンネ殿を運ぶ際、身体に触れた。緊急事態だったとはいえ、意識不明時に触り申し訳ない」
「い、いえっ。それは別に気にしてないので……というか、運んでくれたんですね。ありがとうございます」
「重ね重ね、申し訳ない。星渡で体調を崩す者もいると知っていたが、私の周囲にはいないため油断していた」
「あ、たぶんですけど……わたしの頭痛は、星渡のせいではないと思います」
「と、いうと?」
ローズライトさんはベッドの傍へ近づく。そして水差しからコップに水を注ぎ、わたしに渡す。
お礼をしながら受け取った。一口飲んで、喉を潤す。
「その時々によって理由は違うんですけど、ちょっと前から同じような痛みの頭痛があるんです」
「理由は違うのに、同じような痛み? そんなことはあり得ない。理由が違うなら、痛みだって違うはずだ」
「理由は違いますけど、原因はたぶん同じなんです」
「と、いうと?」
「わたしは、七歳より前の記憶がないんです。たぶん、そのときのことが影響していると思っているんですけど……」
わたしの言葉を聞き、ローズライトさんは腕を組んで考えこむ。
「……仮に、アンネ殿の七歳までの記憶が、その頭痛に関わっているとする。そうなるとそれは、思い出すことによってアンネ殿に何か不利益なことが生じるからだと思う」
「わたしも、そう思っています。思い出したくないから、頭痛を引き起こす。そうすることで思い出そうとする意欲を削ぎ、わたしの心を守っているんだと」
「そうだとしても、頭痛が発生する理由はきちんと知っていた方が良い。そうじゃないと、先程のような命に関わる危険性がある」
「そうですよね……」
「ちなみに、その時々の理由とは」
聞かれ、報告する。結婚やそれに付随する未来の話、頼まれたことをするのが幸せだと考えること。
そして、星渡をしている最中の周囲の様子。
「……聞いた限りだと、特に星渡の最中の話は繋がりが見えないな」
「わたしもそう思います。星渡のことは、初めて体験するのに、どこかで見たことがあるような気がするんです。たぶん、それが頭痛の原因に繋がっているんじゃないかと」
「物事には、必ずその理由がある。アンネ殿の頭痛もそうだと思うが……失っている記憶の部分だとなると、対処しづらいな」
「はい……すみません」
「いや、アンネ殿は何も悪くない。しかし、原因の特定ができないとなると、帰りはどうするべきか。星渡を使えばすぐに行けるが、首都から村まで二週間はかかる」
「そんなに……」
今回村を出たのは、仮説だらけの村の問題を変化させるため。そして操られているかもしれないルベルの行動を観察するため。
戻るまでに二週間もかかっては、何かあったときに対応ができない。
「あの、根本的な解決策はないんですが、帰りも星渡を使うことは可能だと思います」
「いや、無理だろう。身体に負担がかかることを何度もできない」
「星渡に限って、ですけど……移動している最中の、周囲の様子を見なければ利用できるんじゃないかって」
「なるほど。他の二つは話だったり考えだったりするが、星渡だけは周囲の様子だったか。確かに、アンネ殿の説は検証するに値する」
「せっかく首都まで来たんですけど、その方法で帰れるかどうか試してみたいです」
「それは良いが、せめて今日一日は休め。意識を失うほどの頭痛だ。身体にダメージも残っているはず」
「これ以上迷惑をかけるわけにはいきません」
「また倒れる方が迷惑だ」
「そ、それは……」
ぐうの音も出ない。
わたしはそのまま、ローズライトさんの家に泊まらせてもらうことにした。




