第061語 星渡(ほしわたり)
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「あの、ローズライトさん! スローライフ実現のために、街中を案内してくれませんか!!」
「申し訳ないが、それはできない」
「そ、そうですか……」
「クホイは、案内できるほど精通していない。だが首都であれば、それも可能だ」
「首都……行けるなら行ってみたいですけど、遠いですよね? クホイまで来たのは村での状況を動かすためです。そんなに時間をかけられないと思います」
「心配ない。クホイは星渡ができる。首都なら一瞬で行ける」
「一瞬で??」
瞬間移動みたいなことかと疑問に思っていると、何事も経験だということで、星渡を体験することになった。
『月影』から大通りを歩いて十分ほど。大きな建物が見えてきた。
名前にかかっているのか、見た感じ大きな星形の建物のような気がする。上から見ないと正確な形はわからないけど、星を連想させるような角が見えた。
クホイの街は青い屋根が連なるような感じだけど、この星渡殿と呼ばれているらしい建物は真っ白な建材でできている。神殿のような厳かな雰囲気もあるし、気軽に入れるような親しみやすさも感じた。
星渡殿に向かう人達の服装が、ラフな感じだからかな。
「ここは、かつて星渡人という類い希なる魔法師が作ったとされている」
「星渡人?」
「異国の地よりやってきた、この世界にはない知識を持った賢人のことだ。聞いたことはないか」
「はい。全く」
「もし興味があるなら、首都にある国立魔法師養成学校へ行ってみると良い」
「でも……色々とお金がかかりますよね?」
「もちろん。だが、魔法師は貴族にばかりいるわけではない。平民にもいる。ごく少数ではあるが、全ての支払いを免除される奨学生制度を設けている」
「全ての支払いを……」
ゴクッと唾を飲む。
稼ぎがないわたしにとっては、またとない機会かもしれない。
村でスローライフを送るに当たって、知識はある方が良いに決まってる。星渡人も気になるけど、魔法の勉強ができるのは魅力的だ。
星渡殿に向かう人はたくさんいて、緩やかに進んではいるけど行列ができている。
その行列を進む間にローズライトさんから話を聞いていた。
時間がかかるかなと思ったけど、意外と早く列が進む。巨大な星渡殿の、入り口前の階段まで来た。
「おぉ……」
星渡殿の中に入った。そこは驚くほど天井が高く、ギリギリここが室内だとわかるぐらい。
入口で申告書を書き、その行き先によって星渡殿の中で列が分岐するんだって。
行き先は、首都、東と西と南の街。北はクホイだね。それと、東西とか南東とか、四方向。
巨大な建物は中も広くて、分岐した列がときどき視界に入る。わたし達が進んでいる列の足下には白い線が引かれていて、これが目印になっているみたい。
……なんか、見たことがあるような…?
星渡の順番が近づく。
六人まで乗れるらしいそれは、二人ずつ並んで座る椅子が設置されている。そして、なんというか平たい。そんなんで大丈夫なのかと不安になるほど、椅子以外の厚みがわかりづらい。
星渡という制度があると初めて知った。だから、六人乗りの乗り物だって初めて見る。それなのに、何でだろう。どこかで見たような気がしてならない。
「!」
平たい乗り物が、ふわりと浮いた。あれはどういう原理なんだろう。あれも魔法の力?
浮いた乗り物が、少しずつ前進していく。その先は、どでかい枠のような空間に歪んだ景色が見える場所。さしずめ、星渡門ってところかな。
星渡門に、乗り物が吸い込まれていく。そして、最後尾の人が見えなくなるかなというぐらいの所で、一瞬で消えた。
「さあ、私達の番だ」
技術にびっくりしていると、ローズライトさんから動くように促された。
半ば呆けたように足を動かし、乗り物に乗り込む。
席順は、先頭に廷吏と廷臣法官の人が一人ずつ。最後尾も同じ組み合わせだけど、前後で廷吏の人の位置が違う。重さの調整が必要なんだって。
そして、その流れでいくとわたしは当然、ローズライトさんの隣ということになる。
「安全ベルトをお着け下さい」
係の人から言われ、椅子と身体を固定するベルトを装着する。
え、浮いていたけど、安全対策ってこれだけ?
「アンネ殿は初めてだから、伝えておこう。星渡はその性質上、浮遊感がある。その感覚に弱く体調を崩す者もいる。もし首都に着く前に体調が悪いと感じたら、ベルトを両手で掴むと良い。手の平から、精神安定魔法を吸収できるから」
「……そんなことを聞いたら、不安しかないんですが」
「初めてだから戸惑うかもしれないが、慣れたら便利な移動手段だ」
ローズライトさん曰く、この施設は星渡人が作った。そのため、国営となり料金は全くかからないのだという。
色んな所に一瞬で行けちゃうのは便利だと思うけども。安全対策に不安がありすぎる。
しかも、体調不良になっても治してくれるわけじゃないんだよね。精神安定魔法。わたしの「すっきり」みたいなものかな。
「それでは浮かびます。ご注意下さい」
係の人が言うと、一瞬だけ間を置いてふわりと浮かんだ。自分の意思に反して浮かぶその感覚になれなくて、思わず身体が傾く。
バッと、ローズライトさんに腕を引かれた。
「すまない。とっさのことで、伺いを立てなかった」
「い、いえ……ありがとうございます」
「身体は正面に、視線は真っ直ぐ。ベルトがちぎれることはないはずだが、体勢が崩れたらどうなるかわからない」
「は、はい……気をつけます……」
わたしは、乗り物が動き出す前からベルトをしっかりと握る。やっぱり、「すっきり」みたいなものみたいで、気持ちが前向きになってきた。
わたしの準備が整ったと見たのか、係の人が見守る中乗り物がゆっくりと動いていく。
係の人は触っているように見えないけど、何か魔法的なことをしているのかな。
ローズライトさんからの教えの通り、あまり周囲をきょろきょろと見ないようにする。
わたし達六人を乗せた平たい乗り物が、ゆっくりと星渡門に吸い込まれていく。
後部座席がその門をくぐるかどうかというとき、シュンッと中に入った。
これは……!
異空間の中を、平たい乗り物が泳ぐように進んでいく。周囲には歪んだ時計のような模様がいくつもあって、その時計はどれも違う時間を示してる。
星渡をするのは初めてなのに、こんな感じの空間を見たことがあるような気がした。
「っ……」
「アンネ殿? どうした」
何で今。
そんな風に突っ込む余裕すらない。目を開けることもつらいような、強烈な頭痛に襲われた。
ベルトを両手で握りしめても、その痛みはなくらなない。握りすぎて、ベルト越しに爪が手の平に食いこむ。
「失礼する」
そう言ったように聞こえた。
ベルトを握りしめるわたしの左手に右手を重ねるように、ローズライトさんが手を伸ばしてくる。
「途中下車はできない。あともう少しだ。どうにか耐えてくれ」
心配されている。
それもそうか。たぶんわたしは今、ものすごく顔色が悪いと思うから。
わたしが傾いたら、六人全員の命が危険にさらされる。ましてや、ここは異空間。どうなっちゃうかわからない。
わたしはどうにか、この平たい乗り物が首都に到着するまで耐え抜いた。
首都の星渡門から出て、平たい乗り物が着地した瞬間。わたしは意識を失った。




