第059語 小市民の朝食?
ローズライトさんと、廷臣法官のお二人と、廷吏のお二人とパン屋さんへ向かう。
今日は昨日と違ってローブを頭から被っているローズライトさん。昼間だと顔を見られるのは何か不都合なことがあるのかな?
昨日塩パンを渡してくれたパン屋さんは、朝から盛況みたい。店内外で食べられるスペースは全てお客さんで埋まってる。
廷臣法官の一人に買ってくるように小袋を渡したローズライトさんは、廷吏のお二人に身体を向けるようにして立っていた。
外で食べている女性のお客さんが、ちらちらとこちらを見ているような気がする。
廷吏の二人は、さぞかし目立つと思う。筋骨隆々の体格だから。
でも、それだけじゃない。というより、むしろ理由は違う。
みんな、ローズライトさんを見ているんだ。
ローブに隠されているけど、角度によっては見えるかもしれない。
切れ長の緑の瞳は力強い意思を持ち、すっと通った鼻筋も、絶妙なバランスの位置にある唇も。
整った顔と、ローブに隠された肉体。時折聞こえるであろう、低いけど聞き取りやすい声。
わたしも観賞側だったら、お近づきになりたいと思うかもしれない。
そんなことを考えていたら、ローズライトさんが眉間にシワを寄せた。まずい。じろじろと見すぎたかも。
素直に謝罪しようと思っていたら、買い出しにいった廷臣法官の人が戻ってきた。
合流するや否や、ローズライトさんはパン屋さんの前から離れる。一体何事かと思いつつ、駆け足で追いかけた。
そのままなぜか『月影』に戻り、受付で話をした後に宿内を移動する。そして、机と椅子が並べられた部屋へ行った。
これは、もしかしなくても本来行こうとしていた個室なのでは?
「すまない、ここでパンを食べよう」
「あ、はい。それは良いんですが……」
なぜパン屋さんの前で不機嫌そうな顔をしたのか、聞こうとしたらわたしのお腹が大暴れしそうだった。拳をお腹にねじ込み音を抑えていると、ローズライトさんがふっと笑う。
「生理現象だ。気にするなと伝えたが、アンネ殿は気になるらしい」
「そ、それは……その、音がすごいことになっていると自覚しているので」
「アンネ殿の夕食は、昨日のパンだけだ。身体にも悪い。買ってきたパンを好きなだけ食べると良い」
「い、いえ、でも……」
ローズライトさんだって、他の方々だって、まだまだ食べ盛りの年齢のはず。そんな中、わたしが食べる量を決めるというのは、ちょっと、いや、かなり気が引ける。
またお腹が爆音を出そうとしたから、誤魔化すために大きく息を吸う。でも逆に、出来たてのパンの香りも吸ってしまった。早くよこせと身体が訴えている。
「……ありがとうございます。いただきます」
ぺこりと頭を下げて、机に置かれたパンに手を伸ばす。
ローズライトさんは、どれだけお金を渡したんだろう。もしかしたらあのパン屋さんで売っているパンを全種類制覇したのかもしれない。
正方形の二辺が開いているような紙の個別包装がされているパン達は、どれもこれも美味しそうだ。
塩パン。これはもう、すでに美味しいとわかっている。
豆パン。小粒の豆が表面にたくさん見えている。手の平くらいの大きさで、食べやすそう。
あんパン。豆パンの豆を潰しているのかな。粒あんかな、こしあんかな。
その他色々、野菜を挟んだサンドイッチもある。分厚いお肉が挟んであるのもあって、これは塩獣のお肉かな。それなら、ちょっと塩味がある感じ?
野菜を練り込んだようなパンもあるし、バターの香りがするのもある。
どれもこれも美味しそうで、目移りしちゃう。
悩んでいる間にパンの鮮度が落ちてしまいそうで、わたしはとりあえずサンドイッチに手を伸ばした。
うまぁ……。
シャキシャキの葉物、ジュルッと果肉あふれるトマト。昨日の塩パンとは違う生地のような気がする、香ばしいパン。
こりゃ、朝から人気のはずだよ。お店を閉める間際の塩パンですら美味しかったんだから、朝から買えばさらに美味しいのも頷ける。
サンドイッチをぺろりと平らげて、次は豆パンに手を伸ばした。
小粒だけど豆の数が多いからか、ほくっとした食感で美味しい。でも、朝から行列ができるパン屋さんの品物としては物足りない気がする。
そう来たか!
食べ進めていくと、豆パンは華麗なる進化を遂げた。
なんと、中に隠し味が!
濃厚なチーズとナッツ、それにちょっとだけピリッとするスパイスで味付けられているお肉が入っていた。
なんてこと。これは周りのパンが淡泊な分、主役級の具材がグッと引き立つ。
サンドイッチと豆パンを食べて、気持ち的にもかなり充実した。
でも最後にと、昨日も食べた塩パンに手を伸ばす。今日も皮はぱりぱり、中はふわふわ。甘みと塩味のバランスが良い!
「……ごちそうさまでした」
パンと手を合わせて終了すると、ローズライトさんが不思議そうに首を傾げた。




