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第056語 レオンの考え

少し長めの文章量です。

ブックマーク登録をして、ゆったりと読める時間に読んでいただければ幸いです。


 早速行動に移そうと、わたしはローズライトさんと廷臣法官が二人、廷吏の二人の合計六人で村を出た。残りの部下の人達は、引き続き村に残って調査するみたい。


 ローズライトさんが乗ってきた馬は、村から一番近い街クホイのものらしい。村を出るついでに、返すことになった。

 先頭にわたしとローズライトさん、後ろに四人という並びでクホイを目指す。


 七歳のとき。わたしは自分の足で歩いて村に来たって聞いた。

 でも、村外のことは全く覚えていない。こうして歩いている今が、初見みたいなもの。


 わぁ……。


 村の外は、村の中よりも自然があふれていた。

 村の中からいつでも見える、リヴィエリ山。春になってもまだ、山頂は白く輝いている。でもその麓の斜面には、ぽつぽつと春の萌し。薄緑の新芽が、点々と見えていた。

 雪解け水が岩肌を伝い、小さな滝となって谷間に落ちる音が、遠くにいても聞こえてくるような気がする。


 村から出てすぐの道は、砂利が敷き詰められたような細い道だった。進んでいくと柔らかな土の道に変わり、羊飼いの人達やもこもこの羊達が遠目に見えてくる。

 羊って、塩獣だけだと思っていたけど、視界に移る羊は塩獣には見えない。穏やかな気性のように見え、そこだけ時間がゆっくりと流れているような気がする。


 緩やかな坂を下るように進んでいくと、リヴィエリ山の雪解け水が溶けた川に着いた。

 街道から少しそれた所へ行く。


「ここで休憩とする」


 ローズライトさんが言うや否や、部下の人達がそれぞれ準備を始める。火起こしだったり、座る場所だったり。

 何か手伝うことはあるかと聞こうとしたら、ローズライトさんから話しかけられた。


「アンネ殿には、先に伝えておく」


 そんな前置きの後に言われたのは、今回村を出た裏の目的。

 表は、事態を動かすため。ルベルにも伝えた通りだ。でも裏の目的は、ルベルの行動観察。

 ローズライトさんには、ルベルが操られている可能性も伝えてある。そのルベルを観察する中で、ルベルがどんなときに虚ろな目をするのか、どんな行動をするのかを把握したいのだと。


「でも、村を出てしまっては観察も何もできないんじゃ……」

「村に残している部下達は、皆優秀だ。中でも副長官のケビンは伝令鳥の精度も高い」


 話していると、ローズライトさんが目線を上空へ向けた。

 ローズライトさんが見た方向を見る。晴れた青空に新緑の鳥がいた。その鳥はローズライトさんの肩に急降下し、そのまま肩に止まる。

 口がパクパクと動いているから、何かを伝えているのかもしれない。伝えたい人にしか聞こえないようになっているのかな。

 その新緑の鳥に向けて、ローズライトさんが何かを言う。すると言伝を受け取ったのか、新緑の鳥は、ぴよっと頭上に一房の毛を立てて飛んでいく。


「ケビンには細かすぎる報告はしないようにと伝えた。こうして、どこにいてもやり取りができる。クホイまでなら、一日もあれば報告が届く」

「すごい……魔法って、そんなこともできるんですね」

「魔法は、想像と理解と納得が重要だ」

「想像と理解はわかりますけど、納得?」

「いくら想像しても、想像した魔法師ができないかもしれないと思うと、魔法は失敗する」

「なるほど。この魔法は成功する。なぜならこれこれ、こういう理由があるからだってことですね」

「そういうことだ」


 魔法は、奥が深い。ただ単純に想像すれば良いってわけじゃないから、面白い。

 わたしは特に、無知はよくないスキルだ。納得して実行するために、やっぱり失っている記憶を思い出すことは重要な気がする。

 失っている記憶を、どうやったら思い出すのかはわからない。でも、これまでのように時の流れに身を置くんじゃなくて、積極的に思い出すようにしよう。


 わたしは改めて自分の方針を打ち出し、ローズライトさんやその部下の人達と一緒に休憩を終えた。


 川を越えるために、架けられていた木製の橋を渡る。そのまま道なりに進んでいくと、村面積の何倍もありそうな畑が見えてきた。

 まだ何も植えられていないみたいだけど、丁寧に耕された土が、未来の穀物の味を期待させる。遠くの方で、農夫と思われる人達が農具を持って休憩しているのが見えた。


 畑の中を通るような道をさらに進んでいくと、また橋が見えてくる。大きな石橋で、その先には街。

 青い屋根の家々が密集しているのが見えた。煙突から立ち上る煙が、夕方の暗くなり始めた春の空にたなびく。


「ここがクホイだ。もうすぐ日が落ちる。すぐに宿へ行くとしよう」


 連れてきた馬を馬屋に返し、宿へ向かう。

 進む石畳は、三方向に分かれていた。

 左は緩い坂道で、道沿いにある店の外でも盛り上がる酔っ払いの人達がいる。

 右は細い路地で、もう夜になるというのに洗濯物が干されたままだった。


 真ん中の道を、ローズライトさんが進む。置いてかれないように、その後に続く。この時間のこの道沿いの店は、多くの店が閉店するみたい。

 店頭に出していた商品をしまったり、机や椅子をしまったり。


 ほんのり、香ばしいパンの香りがした。思わず周囲を窺って、パン屋さんを発見。パンの看板が下がっているそのお店の中は、閉店作業で忙しそう。

 丸パン以外は食べたことないけど、他のパンってどんな感じなのかな。


 思わず足を止めて、パン屋さんを眺めてしまった。そうしたらローズライトさんの部下の一人が気づいてくれて、先に進んでいたローズライトさんを連れ戻してしまう。


「アンネ殿。食事は宿で取れば良い」

「そ、そうですよね。お宿へ急ぎましょう」


 移動しようとしたら、わたしのお腹が盛大にぶちかました。

 えぇ、えぇ。そうですとも。爆音を響かせたのは、わたしのお腹ですよ。

 音を聞いたときのローズライトさん達の反応を見て、思わず隠れる穴がないかと捜した。

 羞恥心で顔を上げられないでいると、ローズライトさんがその場を離れる。あの爆音は、わたし以上に一緒にいるローズライトさん達にも人目を集めてしまった。


 この場から移動せねば、と思うのに。

 羞恥で身体がカチコチになって、足が動かない。

 そんなわたしに、ふわりと優しい香りが届いた。


「パン屋の店主からいただいた。宿へ行くまでの腹の足しにすると良い」

「あ、ありがとうございます……。あ、あのですね、さっきの音は……」

「気にする必要はない。生理現象だ」


 さらっと言うと、ローズライトさんはまた石畳の道を歩き始める。

 食べながら歩くなんて、と思ったけど。後ろにローズライトさんの部下の人達はいるけど。

 街の人達は、歩き食いをするわたしになんて注目していなかった。爆音に驚いただけ。

 ほっと安心して、一口囓る。


 ……うまぁ。


 皮はパリパリ。中はふわっとしていて、ほんのり甘い。それなのに少し塩味もある。

 パンの表面を見たら、塩の粒みたいなのが見えた。良いじゃん、塩パン。最高じゃん。

 あっという間に食べ終えちゃった。塩パンがこれだけ美味しいなら、他のパンはどんな感じなんだろう。


 他のも食べてみたい。そう思ってから、わたしは重大なことに気がついた。

 普段、わたしは村から出ない。塩獣狩りで出荷した分の余ったお肉をもらったり、区画間交流で野菜をもらったり。

 来年からは納税もしなくちゃいけないから稼がないと。そう思っていたわたしに、手持ちはない。


 ……早急に、本当に早急に、外でお金を使えるようにしないと!!


 初めて食べた、丸パン以外のパン。

 また食べるために、わたしは決意した。







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