第055語 一つの提案
少し長めの文章量です。
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朝になってみても、記憶を取り戻したわけじゃない。なぜ頼られるのが嫌なのか、答えは出なかった。
頭痛は治まっている。今はそれで良しとした。
部屋を出る。するとすぐに、香ばしい香りがしてきた。
ジュージューと焼かれる音が、空腹のお腹を刺激する。盛大な鳴き声を上げる気配を察知し、ぐぐぐっとお腹を押さえた。
ルベルはもう聞かれちゃっているから気にしなくて良いと思うけど、今はローズライトさんもいる。出会ったばかりの人にあの音を聞かれるのは恥ずかしい。
「おう、アンネ。体調はどうだ?」
「ありがとう。もう大丈夫。美味しそうな香りだね」
「もうすぐ全部作り終わるから、座って待っててくれ」
「わかった。作ってくれてありがとう」
竈の前で腕を振るうルベル。横から見ていたら、上手いこと丸めた卵をひっくり返している感じだった。
もしかしてオムレツ? お肉もあるみたいだし、豪華な朝食だな。
ルベルに朝食を任せ、わたしは昨日と同じ場所に座る。
斜向かいには、机に突っ伏しているローズライトさん。微動だにしないけど、もしかしてまだ寝てる? 朝が苦手なのかな。
ローズライトさんを何となく観察していたら、ルベルが朝食を持ってきてくれた。
予想通り、オムレツとお肉。透き通ったスープも、丸パンもある。
「悪いな。スープは昨日のを温め直した」
「全然問題ないよ! 美味しかったし!!」
わたしの前と、ルベルが座る位置に朝食が置かれる。でも、ローズライトさんの所には何もない。
「レオンは、朝は食べないんだ。起きたらホットミルクを出すから、アンネは気にしないで食え」
「わ、わかった。いただきます」
フォークとナイフを使って、オムレツから食べる。ナイフを入れると、中から半熟の卵がとろっと出てきた。ふわっと、良い香りもする。
オムレツを口に入れた。だいぶお腹が空いていたみたい。食べ始めたとき、頬が痺れてた。
「ルベル! 美味しい!」
「そうかそうか。たんと食え」
ルベルが嬉しそうに笑う。
こんなに美味しい料理が作れるなんて、やっぱりルベルは「お母さん」だなって思った。
……本人が嫌がっているから、口には出さないけど。
朝から豪華な食事で食べ進めていると、ようやくローズライトさんがのっそりと身体を起こした。
ルベルが、ホットミルクを作りに席を立つ。
「おはようございます、ローズライトさん」
「あ、ああ……。アンネ殿、体調は問題ないみたいだな」
「はい。一晩寝て、整いました」
「体調不良の時、手を貸せずすまなかった」
「いいえ。気にかけてくれてありがとうございます」
昨日考えた通りだ。ローズライトさんは職業上厳しい人だけど、根本的には優しい人。
そして、朝が苦手。昼間の様子だけしか知らなかったら、ずっと苦手意識があったかもしれない。でも今は、そんなこともあったなぁという感じ。
ルベルからホットミルクを受け取ったローズライトさんは、早速飲み始めた。両手で持っていることを見ると、まだ完全に覚醒はしていないのかな?
ローズライトさんを見てほっこりしながら、わたしも朝食を取り終えた。ルベルが、食器を片づけてくれる。
その後、ローズライトさんから一つ提案された。
「昨日言っていたスローライフ。具体的にはどんなことを考えているんだ」
「どんなって……」
「村の開発はどこまでするのか。事業は? 塩獣狩りだけが中心事業だと、スローライフも難しいんじゃないのか」
「そ、そこまで具体的には考えてないです。ただ、みんなが仲良く笑顔で幸せな生活ができればって」
「具体的に考えれば考えるほど、何が必要かがわかる。そこで提案なんだが、一度村の外へ出てみたらどうだろうか」
ローズライトさんと話していると、ルベルが手に泡をつけた状態で戻ってきた。
「レオン! その話は無しだって、昨日言っただろ!」
「ルベル。この提案は何も、アンネ殿の夢のためだけじゃない。今、村内の問題はどれも仮説ばかりだ。部下に調べさせているが、進展はない。それならいっそ、廷臣法官長である私が村の外へ出れば事態は動くんじゃないか?」
「そんなの、わからないだろ」
「そう。わからないんだ。動くかもしれないし、動かないかもしれない。だから、あえて行動するんだ」
ルベルが反対する意味がわからない。ローズライトさんが言うとおり、彼が外へ出たら何か変わるかもしれないのに。
「ねぇ、ルベル。どうしてそんなに反対なの?」
「何でって、それは……」
ルベルが、わたしをじっと見る。首を傾げてみると、カッと顔を赤くした。
「……おれが、一緒に行けないからだよ」
「それが問題?」
「今、村の中は何が起こるかわからない状態だ。そんな状態でおれが外に出たら、誰がカペリ達を守るんだ」
「ん? でも、わたしが処刑されそうだったとき、外に出たんだよね?」
「そ、それはっ! 冤罪なのに、アンネが死ぬかもしれなかったから!」
顔を赤くしながら言ったルベルは、急に身体の向きを変えて洗い物へ戻った。
たぶん、ルベルの中では幼なじみはみんな同列なんだ。それで、命を落とすかもしれないわたしを優先した。
でも今は処刑がなくなり、わたしは生きている。ローズライトさんが護衛として近くにいてくれるから、ひとまずは命の保証がされている状態。
だから、次に危険な目に遭うかもしれない幼なじみ達を守る。うん。実に「お母さん」らしい発想だ。
洗い物を終えたルベルが、戻ってきた。
「……おれが外に行けないから、アンネとレオンが二人きりになるだろ」
「んん?? どういうこと?」
「だからっ……」
「ちょっと良いか」
顔を赤くして力むルベルの言葉を、ローズライトさんが遮った。
「ルベルが何を心配しているのかわからないが、アンネ殿と私が二人きりになるということはないぞ。私だって、淑女と二人きりになることは極力避けている。何人か部下を連れて行く」
「とは言ってもだな」
「ふむ。まだ納得しないか」
ローズライトさんは考えこみ、何かを思いついたように顔を上げた。
「そうか、ルベル。わかったぞ。魔法師学校の寮で言っていたことだな? 心配するな。私は別に」
「ちょーーっと待ったあああ!!!!」
ローズライトさんが何かを言おうとしたその内容を、ルベルが察知したみたい。物凄い勢いでローズライトさんの口を手で塞いだ。
「おいレオン!! そのことは口外しないっていう約束だろうが!!」
ルベルに口を塞がれながら、ローズライトさんは頷きながらもごもごと言っている。息が当たってくすぐったかったのか、ルベルがローズライトさんの口を解放した。
その後、わたしと目が合う。
「アンネ殿。すまない。男同士の約束を破るわけにはいかない」
「は、はぁ……」
ルベルが何を隠しているのか、確かに気になるところではある。でも、あのルベルがあんなに必死になって止めたんだ。わたしが聞いちゃいけないことなんだよね。
「とりあえず、わたしはローズライトさん達と村の外に出てみるよ。ルベルは、みんなを守ってあげて」
「うう……うう……、アンネが、そう言うなら」
まだ、ルベルは納得していない感じ。
それでも、とりあえずの行動指針が決まった。
七本/日、開始です。
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