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第053語 水の魔法師ばかりが被害者になる理由

少し長めの文章量です。

ブックマーク登録をして、ゆったりできる場所で読んでいただければ幸いです。


 ローズライトさんが戻ってくるのを待ち、スズラさんと別れて、ルベルの家へ戻った。

 ルベルが昼食を作ってくれるみたいで、その間にわたしは推測したことをローズライトさんに話す。


「新たな被害者かもしれない人がわかりました。スズラさんのお母さんも、水の魔法師です」

「アンネ殿から聞いた話だと、確かその方が三年前に亡くなられたんだったか」

「全部わたしの推測で、確証はないんですけど……」


 絆が深い人は死を認識する。それ以外の人は認識できない。とはいえ、絆が深い人から話を聞けば覚えている。

 その法則から考えると、次のようになると思う。

 恐らくカペリのお父さんは七年前に亡くなっている。

 六年前はリダロさんのお姉さん。

 五年前は村長さんの旦那さん。

 四年前はウィーバーさん。

 三年前がスズラさんとラタムさんのお母さん。


「後は、去年亡くなった人なんですけど……」

「それなら、該当するかもしれない人物を聞いた」


 ローズライトさん曰く、去年亡くなった水の魔法師は、ギールさんの奧さん。

 ギールさんのことを調べている過程でわかったことで、陶芸夫婦のオガックさんとカトコさんが覚えていたみたい。


 ……ギールさんからは、奧さんが亡くなった感じはしなかったけど。絆が、浅かったのかな。


 夫婦であれば、わたしやウィーバーさんみたいにそれなりに絆は深いはず。血縁者ほど詳細に覚えていなくても、奧さんが亡くなられたのなら覚えていると思うんだけど。


「ギールはどうやら、長年妻に養われていたらしい。なぜ別れないのかって何度も言ったと、カトコ殿が言っていた」

「養われて……」


 家族の中でどちらが稼いでいるかなんて、そんな話はどうでも良い。今は、養われていたという関係性が気になる。

 例えば愛がなく、お金だけの関係だった場合。絆の深さはどうなるんだろう。長年一緒にいれば、愛はなくても情は移る。でもギールさんがお金しか求めていなかったら、その情も薄いのかな。


「お子さんは?」

「いない。もしいたら保護をしようと思っていたから、きちんと確認した」

「さすが、抜かりないですね」


 ローズライトさんと話していると、ルベルが昼食を持ってきてくれた。

 野菜とお肉の煮込みスープ。スープの色が透明で、優しい味がしそう。


「ギールさんは働かないことで有名だったからな。もしかしたら、今回の騒動は納税が絡んでいるかもな」

「納税?」

「仮の話だ。死人に口なしだから真相はわからないかもしれないが、もし、村長が黒幕で今年分の税を納めなくても良いと言われたら? ギールさんの性格なら、喜んで手を貸すと思うぞ」

「さすがルベル。村のみんなのことをよく知ってるね」


 全て仮説だ。でも、ギールさんの奧さんが被害者だとすると、七年前から去年まで、全ての被害者は水の魔法師ということになる。

 では次に、どうして七年前かという話。


「……ねぇ、ルベル。ルベルってさ、村で起きていることは覚えているもの?」

「全部とは言いきれないし、魔法師学校に行っていたときのことはわからねえよ?」

「七年前にさ、何か特別なことってあった?」

「七年前? んー、どうだったかな……」


 ルベルも座り、腕を組んで考える。そして少ししてから、ポンと手を打った。


「あったぞ!」

「何があったの?」

「ほら、うちの村って五年に一度成人の儀があるだろ? だから祭司の人を見るのも五年に一度のはずだ。でも確か七年前に、この地区を新しく担当することになったって挨拶に来ていたぞ」

「挨拶ってことは、わたし達の儀式を執り行ってくれた人?」

「そう。わざわざ来るなんて珍しいと思ったんだよ。儀式のときに来ればいいし、何だったら祭司が誰だって気にしないし」

「確かに」


 七年前。わざわざ挨拶に来た祭司様。そして推測の通りなら、七年前から水の魔法師が亡くなることが気になるようになった。

 いや、ダメだ。この流れでそのまま考えたら、祭司様が何かしているという考えになっちゃう。

 一度、祭司様が挨拶に来たことと被害者のことを切り離して考えよう。


 推測の通りならば、七年前から水の魔法師が被害に遭っている。いや、そもそも推測できるのが七年前までってだけで、もっと前から被害者は出ているかもしれない。

 水の魔法師、というのが鍵になると思うんだ。何で、水の魔法師なんだろう。


「アンネ。考えるのは良いが、温かい内に食べてくれ」

「あ、そうだよね。いただきます」


 ルベルに促され、スプーンで人参を掬う。ほどよい柔らかさで、ほんのりと甘みも感じる。一緒に口にいれたスープも、味が薄いわけじゃないのにさっぱりした気分になれた。


「美味しいよ、ルベル」

「そ、そうか。ありがとな」

「ルベル、また料理の腕を上げたんじゃないか」

「まあ? あの時よりも上達したんじゃねーの?」


 わたしが褒めるよりも、何だかローズライトさんに褒められる方が嬉しそう。

 この様子だと、魔法師学校に行っていたときにルームメイトだったのかも。それでルベルが料理を作って、ローズライトさんが食べてみたいな。


 微笑ましい男同士の友情を想像して、何だかわたしも嬉しくなった。ルベルは学生生活が充実していたんだね。良いことだ。


 その後スープを全て食べ終えて、疑問に思っていたことをまた話し出す。


「ローズライトさん。なぜ水の魔法師ばかりが狙われたのかわかりますか」

「わからない。ただ、水の魔法師でなければいけない理由があるはずだ」


 わたしのために一晩戦ってくれたルベルを見る。

 あの一晩のことはきっと、ルベルにとって精神的な負担になっていると思う。だから無理に思い出させたくないし、早く忘れてほしいとも思う。

 でも、とも思ってしまうんだ。

 あの晩のことを、ルベルがどれだけ覚えているか。そのことで、今後の調査速度が格段に変わると思うから。


 ルベルの性格なら、あの日のことを話してくれるはずだ。でも、そうじゃない。

 それはきっと、ルベルの心がルベルを守ろうとしているんだ。それぐらい、過酷な一晩だった。

 そんなつらい状況だったのなら、思い出してとも言えない。


「アンネ殿の仮説によれば、昔から水の魔法師が求められている。水は、荒々しく暴れる時もあれば、穏やかに人々の生活を支えている時もある。そのことから、水は昔から守護の要と言われている」

「守護の要……もしかして、そこに何か解決の糸口が?」

「それはわからない。ただ、ここは辺境の村。国境だ。ここに村がある意味は、何かあるはず」


 ローズライトさんの言葉で、祭司様の言葉を思い出す。


――ここはヴァランタン国の最北端の辺境の地です。防衛も兼ねているのでは――


「この村で産まれる人がみんな魔法師なのは、辺境の地を防衛するため、とか」

「なるほどな。確かに、村の中で一番多いのは水の魔法師だ。防衛ってことなら、理に適っているかもしれないな」

「単純に、水の魔法師が産まれやすいだけなのかもしれない。水は生活の要。欠かせない存在だから、必然的に数も多くなる」

「だとして、辺境の村且つ、水の魔法師ばかりがいなくなる理由だよ」


 ローズライトさんの言葉を受け、ルベルが発言し、この場にいる三人全員が考える。でも、三人とも首を傾げた。

 水の魔法師の死。死に関する記憶のこと。村長さんとローブの人のやり取り。甘い匂い。

 どれか一つでも仮説の状態から変化すれば、それをきっかけに色んなことが判明しそうなのに。

 どれも、仮説の域を出ない。


「あー、くそっ。この問題が解決しないと、アンネがスローライフもできねえってのに」

「すろーらいふ?」


 沈黙を破ったルベルの声に、ローズライトさんが反応した。





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