第051語 注意しすぎることはない
約3000字です。
ゆったりと読める時間に読んでいただければ幸いです。
わたしの家の前まで行き、ローズライトさんに裏へ回ってもらうように伝えた。
わたしは家の中から入る。竈が壊滅しているから、木杯に「パシャン」で水を入れた。それをローズライトさんに持っていく。
「いや。提供されるものは全て断っている」
「そうですか」
裏に回ったとはいえ、ローズライトさんからは絶対に問題が起きないような距離を取られる。徹底しているな、と思った。
ローズライトさんと相対する人物が魔法師だったら問題ない距離だけど、詠唱をしている最中にあの剣さばきで人生が終わりそう。
思わず、裁かれた自分を想像して身震いした。
ローズライトさんは、わたしが見せたかったものにすぐに気づいたみたい。前に頭の中の情報を整理するために地面に書いた、村の問題についてのやつ。それに目を向けている。
「ここに書いたことは、あくまでもわたしの予測です。証拠は、まだ何もありません」
「……この通りであれば、今この時も被害者が出るかもしれないということになる。井戸涸れ事件の犯人を村長の家に連行したが、このラタムという人物はいなかったように思う」
「わたしも、一度見ただけです。でも、冤罪が晴れる前に入れられた地下牢で、村長さんみたいな声の人が何かしているのを聞きました」
「なるほど、村長が……」
「あ、いえ、確定というわけではなくてですね」
伝えておきながら、ローズライトさんが村長さんのことを疑い始めて、焦った。
確実な証拠はない。それこそ、冤罪かもしれない。だから慌てて訂正した。
「ラタム殿は、自分の意思を封じられているのだろうか」
「あ、それについて。これもわたしの予測なんですけど……」
わたしは、ルベルや村の人達がときどき虚ろな目をすることを伝えた。ただ、大人数を操るには村長さんの身体は細いと。
「……ルベルから聞いた。この村は、産まれてくる者が全員魔法師で、子供の頃から身体を鍛えていると」
「そうですね。わたしは、七歳の頃ここへ来たので、純粋な村人じゃないですけど」
「これを、他に見た人は?」
「あ、えっと……たぶん、いないと思います。ここは村の端なので。内容は、ルベルにだけは話しました」
考えこんでいるようなローズライトさんが、村の中では異質な身体が細いわたしを見た。だから勝手にわたしの事情を伝えたけど、ローズライトさんは気にしていない。
ローズライトさんはわたしの返答を聞くと、何かを唱えて地面に書いていた内容を全て水で消した。
「何するんですか!」
「あなたは危機管理能力が低い」
「な、なんで急にそんなこと言われないといけないんですか」
「ここに書かれていたことがもし事実であれば、当事者やその関係者に見られたら命を狙われる」
「それならたぶん、すでに」
軽い調子で言ったわたしを見て、ローズライトさんは怪訝そうな顔をする。
「……まさかとは、思うが」
「あ、あれは……明確にそうかは、わからないので」
「狙われたのはいつの話だ。その後の襲撃は」
「え、えぇと……」
ローズライトさんは、廷臣法官長。ただでさえ迫力があるのに、凄まれると伝える内容に負い目がなくても目をそらしてしまう。
嘘も、偽りも、隠し事ですらできないような気持ちになった。
わたしは、過去に水の魔法師に襲われたときのことを伝える。ラタムさんの妹さんのところへ行ったことも。
「……その流れだと、ラタム殿の情報を聞こうとしたことが引き金になったように思える」
「あ、それなんですけど……」
後出しのように、ローズライトさんに伝える。かつて村開発の推進者だった、六年前の被害者のことを。
そもそもは、村の開発をしようとしていることが引き金ではないかと。
「……他は? もう私に伝える情報はないか」
「まだ、あります。えぇと、わたしに冤罪がかけられた理由の推測なんですけど……」
ルベルと村長宅を調査していたときのこと。怪しげなローブを着た人物を発見し、そのローブについていた模様についてルベルと共有するために地面に描いた。
その後、怪しげな人物と村長さんが何やらやり取りをしていたことも目撃したと。
わたしとルベルが、二人で不法侵入していたことは、これでローズライトさんにもばれてしまったと思う。
どんな罰が下されるのか、ローズライトさんの反応を見る。
「住居侵入罪、もしくは建造物侵入罪は、三年以下の懲役または罰金が科せられる」
「罰金……い、いくらぐらいでしょう?」
「但し、初犯の場合は、刑が軽くなることもある」
「初犯です!! 誓って、他に犯罪はしていません!!」
勢い良く言い過ぎてしまった。
だけどローズライトさんは微動だにせず、真剣な眼差しをわたしに向けてくる。
「それから、襲撃はされていないか」
「はい。その一度だけです」
「そうか……。しかし、村の問題が解決しない限り、また狙われる可能性があるな」
ふむ、と何かを考えているローズライトさんは、名案を思いついたように手を叩いた。
「恐らく、また命を狙われるだろう。ルベルが傍にいれば問題ないと思うが、彼も操られる可能性がある。村が抱えた問題を解決するまでは、私があなたの護衛を務めよう」
「えっ!? い、いえ……ローズライトさんも忙しいと思いますし」
「問題ない。こうして関わったんだ。解決するまでは村に滞在する」
「いやー……そ、それなら、部下の方に護衛をしてもらう方が」
「それは駄目だ」
ローズライトさんは、至極真面目な顔をして、何てことはないというような様子で言う。
「アンネ殿は見目麗しい。部下達を信用しているが、間違いがあってはお互いに良くない結果になる」
「は……? えぇ??」
「どうした。私は何かおかしなことを言ったか」
「あ、えっと……?」
真顔で言われた言葉が、信じられない。というより、ローズライトさんが言ったと信じられないんだ。
堅物なローズライトさんの発言という、確かに聞いたのに脳内で処理できていない。
「え、えっと、聞き間違いですよね? さっき、ローズライトさんが、わたしを……」
「ああ、そのことか。別に、事実だろう? アンネ殿の容姿が優れているのは」
「んんっ??」
何度聞いても、脳内で処理できない。というか、処理することを頭が拒否している。
「私は嘘を好まない。事実を述べたまでだ」
「そ、それは……ありがとう、ございます??」
「なぜそこで疑問を持つ」
ローズライトさんは、心底不思議そうな顔をしている。その様子からも、褒め言葉という意味ではないのかもしれない。
本当に、見たままの事実として言ってくれたのかもしれない。
もしかしたら、外での宴会時にわたしはお肉を食べるだけで良いなんて言われていたのは、何となく見られているような感じがしたのは、そういうことだったのかもしれない。
……まぁ、モテモテになったところで、わたしには関係ないかな。
わたしは、スローライフを送りたい。そのために、村の問題を解決する。
頭の中を無理やり切り替えて、ローズライトさんからの提案を受けることにした。




