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第047語 ヒーローは遅れてやって来る


 火属性の魔法師達の、詠唱が続く。

 巨大な火の玉から、いくつもの小さな火の玉が、今か今かと発射されるときを待っている。


「魔女に死を!!」

「っ……」


 誰かが叫んだ。同時に、小石が一つ投げつけられる。

 小石はわたしの頬をかすめた。


 ……痛い。


 痛みを実感すると、いよいよ公開処刑が始まるのだと思ってしまった。

 これから訪れる自分の死が、急に明確になってくる。


 ……嫌だ。いやだ! 死にたくない!!


 磔台に固定されるまで無抵抗だったのに、わたしは最後の最後で抵抗を始める。

 磔台の上で暴れると、牢屋に固定されていた部分が緩くなった。このまま藁から離れなければ、とさらに暴れる。

 磔台が牢屋から外れ、そのまま前向きに倒れた。その拍子に藁がずれ、額を打ちつける瞬間のクッションになってくれる。磔台の下敷きになったけど、わたしはまだ運に見離されていない。それに、まだ動ける。


「魔女を逃がすな!!」


 火の玉が放たれた。

 わたしはまだ、倒れた磔台に固定されたまま。


 あぁ……。わたしは、ここで死んじゃうのか。


 固定されていた場所から離れたとて、それが何になる。わたしは自由に動けず、牢屋の鍵も持っていない。

 燃やされた藁はどんどん広がり、磔台の下敷きになったままのわたしは素早く動けない。

 服に、引火した。


 もう終わりだ。わたしは自分の死を悟り、目を閉じる。

 せめて次は、もう少しまともな人生を歩みたい。

 そう、思ったとき。


 熱を持ち始めた足先に、水がかけられた。

 もしかしてルベルが来てくれたのかもしれない。

 期待をこめて目を開けた。どうにか身体の向きも変える。するとそこには、ローブを着た知らない男の人がいた。

 太陽と月に向かって伸びる道のような模様は、もしかしてヴァランタン国の国旗に描かれているやつなのかな。しっかりと国旗を見たことはないけど、あんな感じだった気がする。


 男の人は青い髪をしているけど、体格はルベルよりも細い。

 牢屋の中に飛ばされる小石を剣で弾くたびに癖毛の髪が揺れる。その様子が場を和ませないのは、癖毛の間から見える彼の眼光が鋭いからだろうか。

 圧倒するほどの、実力差。それが彼への視線を集める。


 誰かが躍起になっていると、周囲の人もそれに呼応するのか。それとも、ただ単に突然現れた魔法師を倒そうと思ったのか。

 広場に集まった村のみんなが、癖毛の人に向かって魔法を放っている。


 男の人は小石を剣でさばきつつ、わたしへ向けられる魔法の攻撃を全て無効化しているみたい。


 ……こんな魔法の使い方もできるんだ。


 火は水で消化。水は水で包んで、相手に倍返し。

 土は突風を起こして魔法師を吹き飛ばし、飛んできた小さな竜巻には逆回転の竜巻をぶつける。それはときどき相手に反射して、竜巻で巻きあげられる人もいた。


 ……すごい。一人で対応しているから絶対どこかに隙が生じると思うのに、その隙がわからない。


 突然現れた水属性の魔法師の技量に、目を奪われる。

 彼を観察していてわかった。驚くべきことに、これだけ常に動いている状態なのに、わたしに敵意を向けようとした人に水なり風なりを当てて注意を自分へ向けていると。

 一体、どれくらい魔法と向き合えば、こんなに自由自在に魔法を使えるようになるんだろう。


 キィンッと、一際大きな音が聞こえた。男の人が、小石を弾いたみたい。

 でも、次なる攻撃は始まらなかった。男の人は、たった一人で、広場に集まった全員からの攻撃を防いだ。

 男の人と対峙していたみんなは、魔力切れをしたのか、倒れていたり膝をついたりしている。


 このすごい人は、一体誰だろう。

 そう思っていたら、ルベルが牢屋に駆け寄ってきた。


「アンネ。レオンが来たから、もう安心だぞ」

「レオンさん……」


 牢屋の外から、ルベルが話しかけてくれた。思わず命の恩人の名前を呼んでしまった瞬間。今までわたしを守ってくれていたレオンさんが、バッと振り返ってわたしを睨む。


「あなたに名を呼ぶ許可は出していない。ローズライト、もしくは廷臣法官長と呼ぶこと」

「あ、はい」


 緑の瞳が綺麗だな、なんて思ってしまったのも束の間。間髪入れずに注意されて、わたしも短く返事をするしかなかった。







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