第045語 信じるか否か
投獄されてから三日経ったように思う。
空気孔から見える光の状態を見ての判断だから、もしかしたら間違っているかもしれない。
少なくても、三回は天井の小さな穴から村長さんの声らしき何かが聞こえた。甘い匂いはまだしていると思うけど、よくわからない。匂いに慣れちゃったかも。
寝藁の上で大人しくしていたら、上から声が降ってきた。
「アンネ! アンネ! 聞こえるか」
「……ルベル?」
「良かった! アンネ、無事か。脱力感みたいなものはないか」
「特にないけど……ルベル、どうして外から?」
「井戸復活のきっかけを作ったのはアンネだけど、その後の結果が派手だったせいで、おれがその立役者にされたみたいだ。牢屋に入れられて次の日に解放された」
「えっ……そうなんだ」
地下の構造はよくわからない。でも、ルベルが解放される瞬間、特に誰の声も聞こえなかった気がする。
何で一人だけ解放なんだとか、食事を増やせとか、もっと声が聞こえてもおかしくはないと思うんだけど。
もし、地下牢の場所が煉瓦造りの円柱型の塔の下だけなら。聞こえない可能性もある、かな?
「アンネ! どうやら村長が、アンネを広場で公開処刑をしようとしているみたいだ。それ用の牢屋を特注しているらしい。どうにかそれまでに助け出す方法を探すから、どうか生き延びてくれ!」
タタッと、走り去っていく音が聞こえた。
もうルベルは、煉瓦造りの塔から離れてしまったと思う。
ルベルはわたしと一緒に行動していた。だから一緒に捕まって、でも先に解放されている。
外の様子もわからないし、助けてもらえるならありがたい話なんだけど。
……大丈夫、かな。
前回、わたしが単独で村長宅へ入ったとき。わたしを助けるために一晩戦ってくれた。
その後のルベルは、ときどき虚ろな目になる。
虚ろな目は、誰かが村人のみんなを操っているときの目だ。何度も虚ろな目をするルベルも、操られているんじゃないのかな。
解放された理由は納得できるとしても、特注の牢屋の話は? 村長さんから聞いた? それともスマザさんから?
どのみち、そこまで内部の情報を得られるものなんだろうか。
ルベルを信じたい。でも、ルベルは無理をする傾向がある。その結果、ルベル自身に危険が及ぶかもしれない。
……思い出すんだ。ルベルは虚ろな目のとき、どんな状態だった?
わたしがスマザさんの世話係として入った、半日。その翌日、ふらふらのルベルがわたしの部屋に来た。
そして、一時間寝て。わたしも寝ちゃって、起きたらルベルが虚ろな目をしていた。これが、一回目。
あとは、井戸涸れ事件のとき。わたしが話している中、なんで何も言ってくれないのって見たとき。
村長宅の前で、沙汰を待っているときも。涸れた井戸の前で強く話しかけて、ようやく正気を取り戻した。
……ルベルは、他の人達と違う、かな?
他の人達は、わたしを攻撃しようとしていた。そんな中、ルベルはわたしを魔法で守ってくれていた。
盗人疑惑をかけられたときも、ディリィやカペリを守っている。
あの場所にポアルがいたら、ポアルだって守っていると思う。
村の人達と、ルベルの違い。
それは、幼なじみを守っているということ。決して、わたしに攻撃を仕掛けてはいないということ。
……あれは、攻撃、ではないと思うんだよね。
ルベルに両腕を掴まれた、あれ。初めて見るようなルベルで怖かったけど、明確に攻撃されたわけじゃない。
あれはあれで様子がおかしかった。あれほど顔を近づけることなんてないから、びっくりしたのもある。
もしかしたらあれも、ルベルが戦った一晩が関係しているかもしれない。
村の人達と、ルベル。
どちらにも共通しているのは、虚ろな目以外は自分の意思で動いているように見えること。
そう考えたとき、前に一度だけ見た、ラタムさんを思い出した。
ラタムさんの目は特に気にしていなかったけど、もしかしたらルベルと同じような状態だったんじゃないかって。
天井の小さな穴から聞こえた、村長さんっぽい声。甘い匂いといつもセットだ。
もし、ラタムさんが村長さんに何か暗示のようなものを仕掛けられているとしたら。
ルベルも、あの晩に何かされているかもしれない。
村のみんなも、何かされているかもしれない。
「……いや、さすがに、現実的じゃない」
ギールさんが騒動の火付け役ではあると思う。でも、大人数を操れるような魔力はないと思った。
それは、村長さんだって同じ。わたしよりかは鍛えていると思うけど、それにしたって村の中では細めの体型だと思う。でも、年齢的なことを考えるとそれぐらいの細さになるのかな。
服の下にどれほどの筋力があるかわからないけど、見た目的には、普通の人。
だから、村長さんも大人数を操れないと思う。
考えれば考えるほど、わからなくなってきた。
実際に虚ろな目をしている人達を見ているし、絶対に何かはあるんだと思う。でも、それがルベルを怪しまない理由にはならない。
公開処刑をしようとしているとか、特注の牢屋を作っているだとか。そういったことは他のみんなも知っているのかな。
もし知っているなら、ルベルは大丈夫だと思うけど。
……そういえば、どうしてリダロさんは普通だったんだろう。
広場でルベルがディリィとカペリを守っているとき、リダロさんが呼びに来てくれた。あのとき、リダロさんは操られている感じはしなかったと思う。
操られていたと思われるのは、中高年以上の人達。元々村の開発を反対していて、わたしとは敵対する立ち位置だった。
リダロさんは協力できないと告げられたけど、賛成派。元々わたしに対する気持ちがどんなだったかで、操られるかそうでないかが決まるのかな。
「……よし。ここは、幼なじみを信じよう」
あれこれ考えた。
ルベルが、どこまで自分の意思で動いているかわからない。
でも、ルベルはずっとわたしを害していない。守ってくれていたから、その行動を信じることにした。
信じると決めたのなら、次はルベルのことが心配になる。
前のように、ルベルの身に危険が迫らなければ良いんだけど。




