第044語 幽閉
「アンネはここに入るんだな!」
スマザさんに腕を掴まれて投げ入れられたのは、村長宅の地下にある牢屋。一階のところは相変わらず扉が多く、異様な光景だった。
そのいくつもある扉の内、わたしが開けていなかった扉が地下に続いていた。
お前はこっちだと、ルベルは別の牢屋に入れられたみたい。
ここって……。
牢屋の壁が、煉瓦造りだった。
村長宅で煉瓦造りなのは、建物の四つ角部分。地下に降りて少し歩いたような気がするけど、ここはどれかの円柱型の塔の下みたい。
地下だからか、上の方に空気孔みたいな穴が開いてる。あそこから漏れている光は、地上の光かな。
一瞬、とても怖い想像をした。大雨でも降って水が流れてきたら大変だな、って。
一応、牢屋だから柵の間から水は出ていくと思う。それでも、不快な場所になるのは変わりない。
どうか雨が降らないようにと願っていると、どこからか声のような音が聞こえたような気がした。
「――なさ……それ……」
村長さんの声のような気がする。
牢屋の中を窺っても、当然村長さんはいない。
では、どこから?
円柱形の牢屋の壁に近づき、どこから声が聞こえているのか探る。
「……壁じゃないのかな」
言葉として認識できたのは、さっきだけ。ぼそぼそと何かを言っているような気がするけど、何を言っているのかわからない。
どこから聞こえているのかと円柱状の牢屋の中をうろついていると、中央から少し右よりの所へ行ったとき、甘い匂いがした。
「何だろう、この甘い匂いは……」
甘いだけじゃなくて、意識が朦朧とするような、重たい感じもある。
このままこの匂いを嗅いでいたらダメだと本能的に察して、匂いを感じた場所から一番遠い壁際に行く。
そこはちょうど藁が敷かれていて、牢屋内の寝場所だとわかる。湿気っていそうな藁に、【カラカラ】をかけた。
ふんわりした気がする藁を、触ってみる。
「うん。これなら問題無さそう」
「カラカラ」はたぶん、風属性の魔法。わたしが手を向けたとき、両手から風が出たような気がする。
ついでにと、円柱形の牢屋内に「カラカラ」をかけまくった。湿気たニオイがなくなった気がする。
そうなると、また甘い匂いが気になった。
「……どこから流れてきているんだろう、この匂い」
甘い匂いが落ちてきていると思われる、天井を見つめる。じーっと見つめすぎて目が疲れたとき、一瞬天井の一部が点滅した気がした。
点滅したと思われる場所を、より注意深く見つめる。
「……穴がある、かな?」
ぼそぼそとした、声のような音はもう聞こえない。村長さんのような声だったけど、もうこの上にはいないということかな。
この上に秘密の空間があるかもしれない。もしかしたら、そこにラタムさんがいるかもしれない。
そう思ったけど、わたしは今不自由の身。調査もできないし、どうしたものか。
牢屋の中というのは、時間の経過がわかりづらい。空気孔からの光りが陰ったから、そろそろ夕方になる頃かな。
贅沢は言わない。一日一回くらいの食事はほしいんだけども。
そんなことを思っていると、スマザさんがやってきた。鉄柵の間から、ポンとパンを投げられる。
「食事は一日一回なんだな」
言うだけ言うと、スマザさんは去って行った。
牢屋中に「カラカラ」をかけておいて良かった。地面を転がって汚いは汚いけど、軽く払えば土埃を落とせる。
「かたっ……」
一口噛んでみたら、まるでわたしの家にあったような丸パンみたいな固さだった。
「しっとり」をかけてみたら、良い感じの柔らかさになる。
オノマトペ魔法、便利なんだよね……。
不法侵入をしたことは確かだし、捕まってしまった以上脱獄は良くない。
とはいえ、このままここに居続けるつもりもない。
「食べ物が出せれば良いんだけど」
オノマトペ魔法は、すごく便利だ。でも、食べ物が出せるわけでも、お金が出せるわけでもない。というより、出せたとしても気が引ける。そこで出たものは、どこから来るものなのか。
丸パン一個を食べ終えたわたしは、「カラカラ」をかけた寝藁の上で寝た。




