第004語 オノマトペ魔法
祭司様から、馬車に乗るように言われた。
馬車に乗り、祭司様の正面に座る。すると馬車はどこかへ向けて動き始めた。
「アンネ。あなたのスキルは、ヴァランタン国の成人の儀において初めてのスキルです。連綿と続けられてきた、スキル授与。ルーナント様が授けたとされるこの本に記されているスキルは、もう五百年近く変わりません。それが、変わったのです。ああ、何と言うことでしょう。私は歴史的瞬間に立ち会ったのですね」
祭司様は大分興奮されているみたい。
どんよりとした曇り空で晴れた空って言っちゃうような人だけど、もしかして祭司様はまだ経験が浅いのかな? 見た目は三十代ぐらいに見えるけど、いつから勤めているんだろう。
「えぇと、祭司様。それでわたしのスキル、おのまとぺ魔法って、どんなものですか」
「そうでしたね。お伝えしましょう」
祭司様は分厚い本の最後の辺りのページを開く。
そこに書かれていることを、指でなぞりながら教えてくれる。
「オノマトペ魔法とは、オノマトペを使った魔法である」
「ん、んん? それはそうですよね? もっと他に情報はないんですか」
「ありますよ。オノマトペについて書かれています。オノマトペとは、擬音語、擬声語、擬態語を包括的に言う語とありますね」
「ぎおん……ぎせい……ぎたい……語、というからには言葉だと思うんですけど、具体的な例は何か書かれていないんでしょうか」
わたしの疑問に対して、祭司様は分厚い本を見やすいように向きを変えてくれた。
祭事に関わる重要な内容を一般人が見ても良いのかなと思いつつ、視線を分厚い本へ落とす。
「……尚、この魔法は術者次第で幾重にも化ける魔法である。属性とか、何ができるかとかも書いていないんですね……」
「ええ、そのようです。新発見のスキルなので、これから……というより、あなたの行動が全て記録されていくのでしょう」
「記録されていく……。わたしが祭司様に報告をしなくても良いということでしょうか」
「はい、そうです」
祭司様は言う。モモルモア大陸を管轄しているソゾン様とルーナント様は、全ての子供達の成長を見守っている。
従って、個々のスキルも祭司様や書記など人の手を介さずとも、ルーナント様が授けたとされる本に自動的に記載されていくらしい。
「まさに、神の御業ですね」
「えぇ、本当に。ところでわたし達はどこへ向かっているのでしょうか」
「本日は村長宅へ泊まることになっています。世紀の新発見を報告しますので、あなたも一緒に行きましょう」
「あ、はい」
キラキラとした目で言われてしまっては、断るに断れない。
村で暮らしていて、驚くほど村長さんを見ない。税金が徴収されているから、いるのはわかっているけども。
村長さんって、どんな人だろう。会ったことがないから、性別すら知らない。
「この村はヴァランタン国内でも最北端にありますから、そこまで期待はしていなかったのですよ。ですが、まさか、私が勤めた儀式で新発見のスキルが現れるとは!」
何か今、さらっと失礼なことを言われたような気がする。聞き間違いかな。
「辺境の村にしてはお布施も通常通りです。大きな建物や商業なども見受けられませんが、どうやって暮らしているのでしょう?」
「……それは、リヴィエリ山から塩獣が来ますから」
「ああ! 良いですよね、塩獣の肉。味をつけなくても塩味があって。こういう地方へ行くときに重宝してますよ」
気のせいじゃなかった。
この祭司様。邪気のない笑顔を浮かべながら、村のことをバカにしてる。
あれかな。お布施って、賄賂かな。
……こんな祭司様と一緒に村長さんに会わないといけないのかぁ。憂鬱だな。




