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日本の四季を異世界へ! ~オノマトペ魔法をもらってスローライフを送ろうとしたら、辺境の村が独立自治区として観光地化した件について~  作者: いとう縁凛
春の章

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第031語 ルベルを介抱


「ルベル!!」


 玄関先で倒れてしまったルベルに駆け寄る。

 全ての気力を奪われてしまったような顔色で、すぐにでも治療が必要だった。


「待ってて! すぐにおばさんを呼んでくる!!」

「……駄目、だ。母さんには、知られたく、ない」


 確かに、村長宅であったことをおばさんに知られてしまうのは良くないかもしれない。

 おばさんにとってルベルは自慢の息子で、高額だとされる国立の魔法学校にも行かせた。四十歳を過ぎても尚現役で、毎日ではないにしても塩獣狩りに参加している。

 そんなルベルとおばさんは実に仲が良く、ルベルが被害にあったとすれば、黙っていない。


「じゃぁどうしよう? ラタムさんの妹さんに来てもらう?」

「……いや。少し、休めば大丈、夫」

「なら、わたしのベッドを使って! 肩貸すよ。立てる?」


 ぐったりとしているルベルの腕をわたしの肩に回し、ルベルにも歩いてもらって寝室へ運ぶ。中途半端に退かしていた腰の高さの棚が邪魔だった。

 ふんっと気合を入れて扉を押し、ルベルをベッドに寝かせる。


「何か欲しいものはある?」

「何も……回復、するまで。傍にいて、ほしい……」

「わかった。ルベルはゆっくり休んで」


 誰が見ても体調が悪いとわかる、今の姿。嫌悪感という自分勝手な感情から、ルベルを置いてきてしまった罪悪感が大きくなる。

 でも、もしあの時間に戻れたとしても、嫌悪感の正体を知らないと、わたしはまた同じ事を繰り返してしまうかもしれない。

 わたしは、ルベルがなるべく早く回復できるように努力を始める。


 まずは、横になってもまだ顔色が悪いルベルにはしっかりと休んでもらおう。


「【すやすや】!」


 ルベルにオノマトペ魔法を使うと、すーっと眠りに入った。

 相変わらず鼻がむずむずしているけど、これで一時間は眠れるはず。

 ついでに、その一時間を気持ちよく眠れるようにする。


「そよそよ!」


 眠りに入って尚眉間にシワを寄せていたルベルは、これでようやく表情が和らいだ。心地良い風が吹くようにしたのは、成功したみたい。

 これで、一時間はルベルもちゃんと休めるはず。本当はもっと寝かせてあげたいけど、今のわたしでは一時間しか効果が保たない。

 鼻のムズムズ感がなくなったら、もっと長く効果を保てるんだろうか。


「うっ……」


 ルベルがうなされていた。一晩、大変な目に遭ったんだ。今回のことで、ルベルの心に傷がつかないと良いんだけど。


 ……って、ルベルを見捨てたわたしに、心配する資格はないよね。


 あれだけあった嫌悪感が、今は全くないのが不思議。罪悪感からなのか、介抱が必要なルベルを見ているからかは、わからない。

 まるで昨晩の出来事がなかったかのように、嫌悪感が湧かない。


「すー……すー……」


 ルベルからは気持ちよく寝ているような寝息が聞こえた。

 効果時間は一時間だけど、その一時間は濃密な時間になると思う。目覚めたら、全体的にすっきりできていると信じたい。


 一時間。ルベルが寝ている間に、今後のことを考えなければ。




 一時間後。うっかり、わたしも船を漕いでしまって。

 ハッとなって意識を覚醒させると、ルベルが虚ろな目をして天井を見つめていた。


「ルベル! 起きた……?」


 話しかけると、ルベルはゆっくりとわたしの方へ虚ろな視線を向ける。そして一度ゆっくりと目を閉じたかと思うと、次に目を開けたときには本来の活き活きとした目に戻っていた。


「良かった。アンネ、あいつから解放されたんだな」

「ルベル。どうして自分の身を売るようなことをしたの」

「あー……そうか。格好つけたつもりだったけど、アンネにはばれてんのか」


 体を起こしたルベルは、気まずそうに頭をかく。


「ごめんね、ルベル。あのときわたしが止めていれば、ルベルが被害に遭うことはなかったのに」

「被害というか……そこは、アンネを助けるために格好つけたことにさせてくれ」

「あ、うん……。ルベル。心の方は、大丈夫? わたしに何かできることはある?」

「いや……特には。というか、アンネ。男相手にそんな質問はするな。おれじゃなかったら、何をされていたかわからないぞ」

「そんなの、別に誰でも言うわけじゃないし。ルベルは、村の中で一番仲が良いと思っているから、言った」

「ぅぐっ……」


 急に喉が詰まったような声を出したルベル。心なしか、顔が赤い気がする。


「大変! もしかしたら精神的な疲労から熱が出てきたのかも! ルベル、起きたばかりだけどまた寝て! そよそよな風出すから! いや、身体が熱いなら、違う言葉の方が良いかな」

「だ、大丈夫。問題ない。これは、別に体調不良からくる火照りじゃない」

「そうなの? そうじゃなければなんで?」

「いや……これは、その……」


 ルベルが左右に視線を彷徨わせている。

 その視線をわたしで止め、何か言おうとしたとき。練習場がある方から音がした。







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