第003語 成人の儀
ヴァランタン国では、十六歳の年に成人の儀が行われる。この儀式は、夫婦神様に感謝の気持ちを伝えてから始まっていく。
太陽神ソゾン様は、誕生時に四属性の内のどれかを与えてくれる。
月女神ルーナント様は、ソゾン様から与えられた属性を手助けするようなスキルを個別で与えてくれるんだって。
村の外からやってきた祭司様が、祭壇の上に置いた分厚い本を読みながら教えてくれた。あの祭壇も馬車の中にあったもので、折りたたみ式らしい。
これまた祭司様が持ってきた水晶に手を置くと、パッと光ってどんなスキルが与えられたのかわかるんだって。
世の中にあるスキルは概ね決まっていて、似たような内容になることが多いみたい。それで祭司様が持っている分厚い本にそのスキルが載っている。スキルの発表をするときに、そのページまで勝手に捲られていくんだって。
村の外に出たことないけど、外にはすごく便利な道具があるもんだ。
成人の儀で使われる手の平大の水晶は、祭司様達の間ではルーナント様の慈母涙と呼ばれているらしい。ソゾン様が与えた器を彩るように、ルーナント様がスキルを与える。そして生涯、器を壊さないように育て上げる、ということみたい。
「偉大なる太陽神ソゾン様。闇の全てを照らすルーナント様。早春の晴れた良き日に、あなた様方の子供が成人を迎えました。これから社会に出る子供への恵みとして、スキルを賜りますようお願いいたします」
成人の犠だから、あれだけ自由に時間を潰していたみんなも膝をついて手を組んでいる。
みんな、ちゃんと参加していて偉いね?
いや、気にならない? どんよりと曇っている空が。また雨降るかなぁ。
一人一人、祭司様に呼ばれて祭壇の前まで行く。村人名簿は広場へ来る前に村長さんにもらったみたい。五年に一度の儀式だから、年齢が高い順から呼ばれていく。
そして、幼なじみの一人ルベルが呼ばれた。
ルベルが水晶に触れると、ピカッと光る。パッと、じゃなくて、ピカッと。他の人よりも光り方強かった気がする。
祭司様が自動で捲られていく分厚い本に目を向けた。
「おめでとう、ルベル。あなたのスキルは、【水魔法・極】。あなたが思うままに魔法を使えるでしょう」
「さっすがルベル!」
「やっぱルベルは格が違うな!」
先にスキル判定を受けていた面々に囲まれるルベル。誇らしげに胸を張っている。
「まあな! 三年間勉強したことが無駄じゃなかったみたいだ」
「しっかし、お前もなかなか奇特だよな。わざわざ勉強をしに外へ出たなんて」
ルベル達がまだ盛り上がっている中、儀式は進む。
ルベルと同じ年のポアルが呼ばれ、一つ下のディリィやカペリの代が呼ばれ、ついにわたしと同じ年の十六歳の代がスキルを与えられる時間になった。
必ず与えられるというスキル……わたしは、一体何がもらえるんだろう。
世の理は決まっている。四属性しか魔法がないと。
地属性は茶色。水属性は青色。風は緑だし、火は赤。どの色とも違う。
わたしは、どれも使えない。黒髪黒目で、他の誰とも同じじゃない。
ルベルに魔力の流れを見てもらったときに魔力はあったから、魔法師ではあると思う。この村は魔法師が住む村。わたしは、一体どんな魔法師なのか。
不安に思っていると、ついに、わたしの番になった。
「アンネ。こちらへ」
「はい」
不安で無意識の内に組んでしまっていた両手を解き、祭司様のもとへ行く。
わたしは最後だったみたいで、儀式が終えた人達はこの場からほとんど去っている。残っているのは、幼なじみ達。
そちらを見ると、それぞれが満足げな顔をして見送ってくれていた。
ルベル以外は聞き逃しちゃったけど、みんな良いスキルだったのかな。
「では、ここへ手を」
「はい」
祭壇の上の小さなクッションに置かれていた水晶に、恐る恐る手を伸ばす。
ほんのりと温かい気がするのは、わたしが緊張しているからかな。冷えた指先に人肌のような温かみがありがたい。
「こ、これは……」
祭司様が目を見張る。それもそうだと思う。パッと光ったり、ピカッと強く光らない。
わたしが手を置いた後は、プツップツッと不規則に点滅するように光った。
よっぽど、変なスキルなんだろうか。
そもそも、わたしが持つ属性って何なんだろう。
自動で捲られていく分厚い本から、祭司様の目が離れない。
パラパラ、パラパラ。パラパラ、パラパラ。
分厚い本のページはどんどん捲られていって、ついに背表紙の辺りまで捲られた。
「アンネ。あなたのスキルは、どうやら新発見のもののようです」
「わたしのスキルは……?」
「あなたのスキルは、【オノマトペ魔法】と表示されました」
「おの……斧ですか? わたしは斧の使い手??」
「いいえ、違います。これは……」
祭司様がわたしのスキルについて話してくれそうだったとき、ついに雨が降り出した。
幸いにもわたしが最後だったから、そのまま成人の儀は終了になる。
その場に残っていたわたしや幼なじみ達がその場を片づけ、土台に布を被せた。そして祭司様を馬車へ誘導。
他のみんなはその場で解散ってなったけど、わたしだけ祭司様に呼ばれる。




