第018語 スローライフと村長親子②
昨日の一件があったから、わたしはポアルの身を案じて場所を移動する。ルベルには、走りながらスマザさんを見かけたことを伝えた。
ルベルと一緒に走っていると、体力の差を感じる。普段鍛えているルベルは走力もあって、わたしは遅れ気味。ルベルに調子を合わせてもらいながら、ポアルの家に向かった。
「あの豚……」
「ルベル。仮にも村長さんの息子にそれは言っちゃダメだよ」
スマザさんは、侵入を防ぐおばさんをなぎ倒して中に入っていった。
わたしはすぐに駆け寄る。
「おばさん、大丈夫?」
「あぁ……アンネちゃんに、ルベル君ね。二人にお願いするのは気が引けるけど、ポアルを助けてあげてくれないかしら」
「もちろんです! おばさんは、部屋で休んでいて。万が一にもスマザさんが来ないように、扉の前に重たい物を置いて隠れてて」
「アンネ。すぐに行こう」
ルベルと一緒に、ポアルの元へ行く。
三人家族のポアルの家で、彼女の部屋は一番奥にある。おじさんは今、商人として出かけているからいない。
わたしとルベルで、ポアルを守らなきゃ!
進んでいくと、物が置かれていて広くはない廊下で、スマザさんが挟まってた。
「スマザさん。そこで何をしているんですか」
「ああ、お前か。良いところに来たんだな。ぼくちんが通れるように、これをどかすんだな」
「嫌です」
「はあ!? お前、何を偉そうに……」
身動きが取れないスマザさんが顔だけ振り返ったとき、ルベルがわたしとスマザさんの間に入った。
「あんた、人に文句を言う前にその体型をどうにかすれば?」
「なっ……!! お、お前、偉そうでむかつくんだな! ママンに言って、死刑にしてやるんだな!!」
「おー、おー。顔を真っ赤にして。あんたはあれか? 秋の毒茸、ベニテングタケか?」
「あ……? べにてん……」
「知らねーの? あんたみたいにでっぷりした真っ赤な茸だよ。白いけどイボもついてるから、あんたとそっくりだ」
「なっ……、お前……」
ちょっと挑発しすぎじゃないかと、ルベルの袖を引く。
するとルベルが、ポアルから自分へ関心を移すためだと教えてくれた。
わたし達の内緒話なんて聞こえないほど、スマザさんは顔を真っ赤にしている。
「し、死刑! 死刑にしてやるんだな!! ママンに言うよりも先に、ぼくちんがお前を死刑にしてやるんだな!!」
ぐりんっと勢いをつけたスマザさんが振り返った瞬間、絶妙なタイミングでルベルが足を出した。
ルベルはさっと避けてわたしも助けてもらったけど、スマザさんはドゥルドゥルってちょっと廊下を転がる。そして、ドベッて盛大な音を立てて、たぶん顎をぶつけたと思う。
そして、しばしの沈黙。
むっくりと、スマザさんが膝に手をついて立ち上がって振り返る。
「……お前。絶対に許さないんだな。お前を死刑にしてやるから、ぼくちんについてくるんだな」
「ベニテングタケに、何ができるって?」
ケタケタと笑いながら、ルベルが移動しようとする。慌てて手を掴んだ。
「ルベル……」
「心配すんな。おれを誰だと思ってるんだ」
「確かに、ルベルは強いけど」
「任せとけって。アンネは、ポアルの所に行ってやってくれ」
「わ、わかった」
ルベルのことは心配だったけど、言われた通りポアルの所へ行く。
一番奥の部屋まで行って扉をノックすると、怯えているとわかるような物音がした。
「ポアル? わたし。アンネ。ルベルがスマザさんを連れて行ってくれたよ」
声をかけると、恐る恐るといった様子でポアルが扉を開けてくれた。
「良かった。ポアル、大丈夫だった?」
「二人が助けてくれたから……ありがとう」
「スマザさん、どうしてポアルに熱心なのかわかる?」
「わからないわ。昨日だって突然、あいつの女にしてやるって言われただけだし」
ポアルは、少し目元が鋭い。
恋愛は、身近な異性に近しい相手を選ぶってどこかで聞いたことがある。村長さんは、あの特徴的な眼鏡もあって目元が鋭く見えるかもしれない。その関連で、ポアルが狙われたのかも。
「ポアル、動ける? ルベルがスマザさんと戦うかもしれないんだ。心配だから、様子を見たい」
「わかったわ。わたくしも行く。ルベルにもお礼を言わないといけないもの」
まだ少し震えているポアルの手を引き、二人で外に出た。




