第017語 スローライフと村長親子①
家を出るとまず目に入るのは、地域間の交流の場の、井戸。村に何カ所かある井戸は、村にとってはなくてはならない場所。
「ね、例えばさ、こういう普通の井戸を、ちょっとお洒落にするっていうのはどうだろう」
「例えば?」
「うーん……経年劣化で古く見える外側を綺麗にするとか、空間的な何かをするとか?」
「実行するなら、それなりの空間が必要になる。井戸を見世物の一つとして考えるなら、それこそ大々的に周辺の建物のことも考えないといけないんじゃないか」
「今生活している人がいるのに、それは難しいか……」
「ま、考える分には良いんじゃないか。村を良くするために、案はいくらあっても良い」
「そうだね」
わたし達は次に、野外の宴会が開かれたり臨時の行事が開かれたりする、広場に向かった。
ここの広場は、村の中心にある。道らしい道は特にないけど、なんとなくこの広場を中心として四区画に分かれてるんだよね。
「村を住みやすいようにするためには、ある程度道も必要かな?」
「それはそうだ。でも、もしするとしたら、道の作り方によっては誰かの住居を奪うかもしれない」
「んー……。なかなか難しい……」
理想の村作り、と考えたとき、ただの村人があれこれと考えるよりも村長さんと話した方が良いかもしれない。
そんな風に思っていると、広場から見て南東方向に村長さんを発見した。今まで村の中で村長さんを見た事なんてなかったのに、成人の儀が終わってから、本当によく見かける。
村長さんは、一人の水魔法師と話しているみたい。住んでいる区画が違うから名前はわからないけど、何度か見たことある。
わたしが一点を見つめていたことに気づいたルベルが、あの男性のことを教えてくれた。
「アンネ。ラタムがどうかしたのか」
「村のことを考えたときに、村長さんに話した方が円滑に進められるかなって思っただけ。ラタムさんって言うんだね、あの人」
「ラタムの妹さんが、村で薬草師をしてるぞ。ちょっとした怪我なら、彼女に言えば適した薬草をくれる」
「そうなんだ」
ずっと健康で、鍛えていないけど身体は頑丈で。わたしはお世話になったことないけど、ルベルは塩獣狩りに行くもんね。そのときに会っているのかも。
村という小さな集団。用事がなくても、交流はしていた方が良いかな。理想的な村を作っていく上で、仲間は多い方が良いと思うし。
「……アンネは、ラタムが気になるのか」
「え? 何で??」
「いや……」
ルベルは、やっぱり何か言いたそうな顔をした。でも言えなくて、みたいな。
もどかしそうな表情は、何だか最近になってよく見ている気がする。
「あっ、もしかして、わたしの交流の狭さを心配してくれてる? ルベルは村のみんなと知り合いみたいなもんだもんね。うん。わたしも、ルベルを見習うよ。村長さんに話してみようかなと思っていたし、今から……」
「ま、待った!」
「ぉん??」
ラタムさんと村長さんの所へ行こうとしたら、ルベルに手首を掴まれた。振り返ったらすぐに焦って放してくれたけど、やっぱりルベルの様子がおかしいな?
「そ、その、さ。そんなに急がなくても良いんじゃないか。アンネは人見知りだから、仲良くなるまで時間がかかるだろ。まずは同性からっていうのはどうだ」
「んー……まず、誤解がないように言っておくと、わたしは別に人見知りじゃないよ?」
「えっ……そ、そうなのか」
「そうそう。わたしを拾ってくれた村に恩返しがしたいけど、わたしができることがなかったから積極的になれなかっただけで。昔、親身になって世話をしてくれたルベルと仲が良かったから、ポアル達とも仲良くなったの」
ルベルが言うように、わたしが人見知りと思われていても仕方ないと思う。
自分の居場所がないと思って、積極的に交流をしてこなかったから。まぁ、顔を合わせれば挨拶をするし、話しかけてもらえたら話すんだけど。
ルベルと話していたら、いつの間にかラタムさんとスマザ村長がいなくなってる。
村長さんと話すのはまたの機会にしようと思っていたら、ポアルの家がある方にスマザさんが歩いていくのが見えた。




