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日本の四季を異世界へ! ~オノマトペ魔法をもらってスローライフを送ろうとしたら、辺境の村が独立自治区として観光地化した件について~  作者: いとう縁凛
春の章

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第015語 村長の息子


 スマザさんが、ポアルの腕を掴んでいる。一緒にいたはずの村長さんの姿は見えない。

 ポアルの近くにはディリィとカペリもいたけど、二人とも気質が優しいからあんな揉め事の仲裁は難しいかも。


 わたしは駆け足でポアル達の所へ行く。


「ぼくちんが自ら、お前を選んだんだ。光栄に思うんだな」


 聞こえてきた発言に、耳を疑う。自分の呼び方もそうだけど、ものすごく上から目線な気がする。

 駆ける速度を上げて、ポアルの腕を掴むスマザさんとの間に立った。

 スマザさんは、わたしよりも背が低い。見下ろすような形になってしまった。


「アンネ……」


 背に庇ったポアルは、涙声だ。それもそうだと思う。

 ポアルはわたしよりも二つ年上の十八歳だけど、スマザさんは四十代に見える。二十歳以上も離れている男の人が相手じゃ、ポアルも怖いよね。

 スマザさんは、村長さんと親子だ。失礼にならないように、慎重に対応しないといけない。


「スマザさん。ポアルが怖がっています。どんな話をしていたかわかりませんが、ひとまず手を離してもらえませんか」

「断るんだな。なぜぼくちんがお前の指示を聞かないといけないんだな」

「スマザさんは村長さんの息子ですよね? 将来は跡を継ぐかもしれない。村人からの支持はあった方が良いと思います」

「なるほどなんだな。お前の言い分も、一理あるんだな」


 わたしの言葉に納得してくれたスマザさんは、ポアルの腕を放した。

 手首を擦っているポアルをディリィ達に預けて、スマザさんと話そうと踵を返す。すると、思いの外スマザさんが近くにいてびっくりした。


「お前、ひょろひょろしているのに度胸があるんだな。ぼくちんに名前を教える栄誉を与えてやるんだな」

「……。わたしは、アンネです」

「そうか、アンネ。ぼくちんはお前を気に入ったんだな。特別に、ぼくちんの世話係に任命してやるんだな」

「えっと、お断りします」


 わたしは反射的に断っていた。

 確かに村の中で居場所を捜していたけど、その場所はスマザさんの隣じゃない。


「お前、ぼくちんが誰だかわかっているんだな? ぼくちんはママンの息子、ポンタン・スマザなんだな! ぼくちんが任命したんだから、お前に拒否権はないんだな!!」


 スマザさんはぷりぷりと怒り、まるで子供のように地団駄を踏む。

 怒り方が親子でそっくりだ。


「わたしは、村長さんから良く思われていません。従って、スマザさんの近くにはいられないでしょう」

「なら、ママンが傍にいることを認めたら、アンネはぼくちんの物になるんだな!?」

「……。いえ、わたしは物ではないので」

「うるさいんだな! ぼくちんに反論するなんて、生意気なんだな!!」


 ブゥンッと、スマザさんが重たそうな体を動かしてわたしに手を上げて迫ってきた。その遅さは、特に身体を鍛えてないわたしでも余裕で避けられる速度。

 当然、わたしはスマザさんからの攻撃を避ける。でもそうすると、スマザさんは攻撃の勢いをぶつける場所がなるなるということ。

 振り上げたスマザさんの拳は空を切り、その勢いのままドデンと大きな音を立てて転んだ。


 スマザさんは地面に転がったまま、動かない。

 まさか、こんなことで意識を? と思いつつ、目撃者が多くいると思われる狩猟祭での痴態を考えたら動けなくなるのもわかる。

 さすがに手を貸して立ち上がらせるべきかと、逡巡していると。


「……お前、絶対に許さないんだな。ママンに言いつけてやるんだな」


 膝に手をつきながら一人で立ち上がったスマザさんは、わたしを睨みつけながら広場を去っていった。

 思わず立ち去っていった方角を見ていると、ポアル達が近くに来る。


「アンネ……ありがとう」

「うぅん。友達が困っていたら助けるよ。ディリィとカペリも怖かったよね。でも二人がいたから、たぶん、スマザさんも暴れ回らなかったんだと思うよ」

「アンネちゃん、ごめんね。ぼく、男なのに何もできなかったよ」

「気にすることないよ。人には向き不向きがあるし」


 ポアルとカペリと話していると、ディリィが顔を青くしていた。

 ディリィは村で一、二を争う体格の良さだけど、心は誰よりも可愛らしい女の子だ。さっきわたしが殴られそうになったのを見て、怖くなったんだと思う。

 わたしは、ディリィの両手を優しく掴む。


「ディリィ。わたしは大丈夫だよ。心配かけてごめんね」

「うん……。アーちゃんにケガがなくて良かった……」

「そうだ、ポアル。スマザさんに掴まれていた所、痛めてない?」

「ちょっと痛い。というか、痛くなってきたわ」

「怖かったよね。もう大丈夫だから」


 わたしはポアルを抱きしめる。するとポアルはよっぽど怖かったみたいで、わたしに抱きつく腕が震えていた。

 ポアルが落ち着くまで背中を擦り、ディリィ達と一緒にポアルの家まで送る。おばさんに事情を話してポアルを託し、広場に戻る。

 でも楽しい雰囲気には戻れなくて、そのまま解散することになった。







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