第014語 春の狩猟祭
※物語上の演出であり、二十歳以下に飲酒を推奨するものではありません。お酒は二十歳になってから。
村の中での立ち位置を確立できたわたしは、春の狩猟祭でも料理係を任された。
春の、とついている通り、村では年に四回ほぼ全ての村人が集まるお祭りが開かれる。
お祭り、と言っても、日常的に開かれている野外宴会の、豪華版。お酒も解禁される日。しかもそのお酒の一部を、今回は村長さんが負担しているみたい。
わたしは任された大役をこなしつつ、今年に限って姿を見せた村長さんとその一人息子が気になっていた。
「……あれが、村長か」
「そう。一緒にいるのは息子さんだと思うけど、初めて見るね?」
ほぼ全ての村人。この中に、これまで村長さんとその息子さんは入っていなかった。
当日に体調不良で欠席する人はこれまでもいたけど、村長親子だけは頑なに参加していなかったんだ。
それが、なぜか今年になって初めて姿を見せた。
村長さんは相変わらず鋭角な眼鏡をかけているけど、息子さんは四十代中頃ぐらい? 猫背でばさばさの茶髪で、中年太りって感じ。
村長さんに何か言われているみたいだけど、広場に集まる女性達を見てはぎらついた目を向けている。
わたしも、ルベルと一緒にいなかったらその視線を向けられていたかもしれない。
「……まあ、なんというか」
「んー……まぁ、村長さんが良いなら良いんじゃない?」
お互いに、はっきりとは口にしない。でも、お互いに思っているとわかる。
村長さんの息子さんの、体型的な問題を。
……村長さんの息子さんって、長いな。村長さんの息子だし、スマザさんで良いか。
「……。ア、アンネは、上手くスキルを使えるようになったよな」
「そ、そうだね。でも、まだまだオノマトペ魔法には可能性があると思ってる」
「なあ、アンネ。前にも聞いたけど、本当に村の外へ出なくて良いのか」
「良いの。わたし、この村が好きだもん。自然が近くて、村のみんなが家族みたいな関係性。理想的なスローライフじゃない?」
「すろーらいふ? なんだ、それは」
何、と聞かれると、わたしも首を傾げる。自然と出てきた言葉で、それが何を示しているのかわからない。
「アンネの記憶、戻ると良いな」
「わたしはどっちでも良いよ。今でも充分幸せだし」
村のみんなは、一つの属性に特化している。ルベルは水魔法師として元々技術力高かったし、スキルを得て最強になっているけど、他のみんなだって負けていない。
わたしは色々なことを少しずつできる感じの、器用貧乏って感じ。
わたしは、見た目からしてみんなと違う。黒髪黒目なんて、他のどこにもいない。
「アンネ! シチューが切れた。追加頼む!」
「りょーかい! ちょっと待ってて」
わたしは鍋に材料を入れて、『ことこと』を発動する。あとは、火が消えるまで待つばかり。
村で住む人達がほとんど集まっている広場は、色どり豊かだ。青、赤、緑に茶色。
そことは混ざれない、わたしの黒。
わたしだけ、この世界の異物な気がする。料理係ってことで、ようやく居ても良い理由を得たのに、ここではないどこかへの渇望が消えない。
「……おれさ、夢があるんだ」
「夢?」
わたしが暗い顔をしていたからか、ルベルが未来の話を始めた。
「おれさ、三年間村の外に出ただろ? その時にさ、改めて思ったんだ」
「何を?」
「やっぱりおれは、この村が好きだなって。だから、村のみんなが笑顔になれるようにしたいって」
「素敵な夢だね。ルベルなら叶えられそう」
やけに真っ直ぐな視線を向けられたけど、ルベルは元々そういう人だ。年は二つしか離れていないけど、『みんなのお母さん』みたいな。
わたしは幼なじみだと考えているけど、そう思わせてくれたのもルベルが親身になって世話を焼いてくれたからだと思う。
まだ何か言いたそうだったけど、いつも肉弾戦をしているイクスに呼ばれて今日のじゃれ合いの場へ行った。
ルベルが現場に到着し、今日の試合が発表されたみたい。今日は、お酒を飲みながら腕相撲をするのかな?
料理を多く消費する若い男性陣が遊びを始めたから、料理係のわたしの仕事は終了して良いかもしれない。
ルベル以外の幼なじみ達と過ごそうと思って捜すと、スマザさんにポアルが絡まれているのが見えた。




