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日本の四季を異世界へ! ~オノマトペ魔法をもらってスローライフを送ろうとしたら、辺境の村が独立自治区として観光地化した件について~  作者: いとう縁凛
春の章

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第013語 スキルを知る③


「そうだ! これなら!!」


 昨晩考えながら寝たおかげか、夢の中でわたしが思い描いた魔法の使い方をしていた。

 バッと起きて夢から覚めたわたしは、早速それを試してみることにする。


「えぇと、何で試そうかな……。そうだ。昨日お土産のお肉をもらってた」


 食糧庫に行く。ゴサイバの葉は防腐効果があって、今の季節なら二晩くらいは傷まない。


「お肉と、もしかしたらできるかもしれないやつ!」


 風と火の魔法師が複数で作る、乾燥野菜。手間がかかる分高級で、各家に配られるのは精々二個か三個。

 乾燥野菜の種類はその時々によって様々だけど、今は幸運にもドライトマトがある。これをオノマトペ魔法で戻せれば。


 わたしはまた家の中を水浸しにしないように、ドライトマト一個を籠に入れて、家の裏手の練習場へ出た。

 置きっ放しにしていた小さな樽の上に籠を置き、ドライトマトに両手を向ける。


「【じゅるっ】!」


 両手から何かが出ているような感覚があった。でも、ドライトマトに変化がない。

 失敗しちゃったか、と諦めようとしたそのとき。

 ポンッと、急に新鮮なトマトに変化した。


「やった!」


 籠の中からトマトを取り出すと、ずしっと重みを感じた。

 これは、丸かじりしたらジューシーな果肉があふれるやつ!


 艶やかで張りのあるトマトを見て、思わず齧りつきそうになった。でも、わたしが今日したいのはそれじゃない。

 新鮮になったトマトを家に持ち帰り、鶏肉と調味料と一緒に鍋に入れた。


「【とろとろ】!」


 相変わらず鼻はむずむずするけど、わたしが詠唱すると、火さえついていなかった竈に火がついた。

 途中で何か変化があったときにすぐ対応できるように、わたしはお鍋と火をじっと見つめ続ける。


 やがて、ついていた火が勝手に消えた。

 中途半端な火の通り方になっていないか確認するため、鍋の蓋を開ける。


「っ!」


 トマト一個分とは思えないほどの水分が鍋にあふれていた。

 急いでフォークを持ってきて、鶏肉に刺す。

 フォークがすっと入り、少し動かすだけで身が解れた。これだけの柔らかさは、長時間火とにらめっこしていないとできないと思う。

 でも、今回かかった時間は、せいぜい十分程度。ものすごく時短になるし、何よりも美味しそう。


 お行儀が悪いけど、早速鍋から直接鶏肉を掬って食べてみる。


「ほ、ほろほろだぁ……」


 これは、料理に革命が起きた!

 今回試したのは『とろとろ』。火力の調整をしてくれて、良い感じになったら勝手に火が止まる。

 これを革命と言わずとして、何と言おうか!


 革命の第一歩を踏み出したとして、その勝利の味をじっくりと味わうため、鶏肉のトマト煮込みを鍋からお皿に移した。

 鶏肉のほろほろ加減から、スプーンに変更。トマトの水分ごと掬う。


「うまっ……。これは、もしかしてお店を出せるんじゃ……?」


 あまりの美味しさに、思わずそんなことを考える。

 実際のところ、商売とするなら色んな事を考えないといけないから現実的じゃない。

 でも、家に来てくれた人とか、たまに出すくらいなら問題ないんじゃなかろうか。


 鶏肉のトマト煮込みをぺろっと平らげた。オノマトペ魔法の成功も相まって、とても充実した気分になる。


「今回のは、『とろとろ』。これは、お肉の煮込み加減の言葉。料理系は、もしかしたらオノマトペ魔法と相性が抜群かもしれない」


 これは色々と試してみなければと、その後も様々な言葉を試した。




 丸二日。

 わたしの料理方法は、劇的に増加した。

【ぐつぐつ】で鍋を素早く煮立たせ、【ぐらぐら】で熱湯を沸かす。

【ことこと】では、見ていなくても弱火で焦げ付かないように静かに煮込むことに成功。

【ほくほく】は芋を良い感じの水分量で口当たりの良い火の通り方になった。

【こんがり】で美味しそうな焼き色をつけ、【ジュージュー】で食べ頃の焼き具合になる。

 材料がなくてできなかったけど、揚げ物とかパイとか、お菓子とかもできると思う。

 月女神ルーナント様が授けたとされる、スキルが書かれている本。あれのオノマトペ魔法の項目に、『術者次第で幾重にも化ける魔法である』って書かれていた。

 まさしく、その通りだと思う。


 できることが一気に増えて良かった。

 だけど悲しいかな、わたしがスキルの研究をしていた時間は塩獣が活発になっていたみたい。

 大量に作った料理を自分で消費するということになったけど、わたしは満足だ。

 わたしは、今度こそ村に貢献できるとワクワクした。




 毎日のように広場で宴会が開かれる日を待ち続け、ついに披露できるように。

 心配するルベルや他のみんなが笑顔になってもらいたくて、わたしは料理系のオノマトペを発表。


 そしてわたしは、野外の宴会に呼ばれたときの料理担当になれた。





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