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日本の四季を異世界へ! ~オノマトペ魔法をもらってスローライフを送ろうとしたら、辺境の村が独立自治区として観光地化した件について~  作者: いとう縁凛
春の章

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第011語 スキルを知る①


 空腹で倒れた一件から、わたしは学んだ。

 魔法を使うときは食事もちゃんとしようと。


 わたしが今、自覚できているオノマトペは【パシャン】、【びっしゃびしゃ】、【しゃきしゃき】。

 このオノマトペの属性は、水だと思う。もっと種類を増やせたら、わたしもようやく村に貢献できるかもしれない。


 そう思って、何も予定が入っていないわたしは魔法の練習をすることにした。

 そして、また夢中になってもすぐに食べられるように、鍋の中にシチューを作っておく。小鍋よりかは大きいから、わたし一人分くらいの食事なら充分賄えると思う。


 食事の支度が済み、わたしは家の裏手へ回った。


 他の人達の活動時間とはいえ、もし魔法を制御できなかったときに迷惑をかけたくないから。

 その点裏手は、誰かが来る要素がない。わたしの家は村の中でも端の端にあるし、その先にあるのは広野。

 誰か来れば、絶対に視界に移る。

 よって、今日からここをわたしの魔法練習場とした。ここなら道具なんかを色々準備できるし、お腹空いてきたらすぐに戻れるし。


「まずは、出せるとわかっている水からだよねぇ」


 水がないと生活できない。

 洗顔、食器洗い、掃除、料理。水は様々な場所で使えるから、井戸との往復をしないで良いならそれに越したことはない。


「新しく何かを開拓するというよりかは、覚えたやつの応用を試してみようかな」


 練習場に来たものの、わたしはすぐに家に戻る。そして空の小さな桶を裏返し、その上に果実を入れた籠を載せた。


「野菜が『しゃきしゃき』で新鮮な歯ごたえになるなら、果実だって新鮮にできるはず。……しゃきしゃきも、物によっては間違っていないと思うけど。何か、違うんだよね」


 籠から取り出したのは、もらってから時間が経ってしまったリンゴ。薄目で見たら問題なく見えるけど、きちんと見るとちょっとシワがあるような気がする。


「美味しいリンゴって、どんな感じだったかな……」


 多く買いすぎたと言って、ルベルが持ってきてくれたリンゴ。

 新鮮なリンゴは艶やかで、鼻を寄せれば少し甘い香りがした。両手の平ぐらいの大きさのリンゴに齧りついたとき、実が大きすぎて口を動かせなくなったっけ。


「あ、いや。そういうことじゃなくて。あの後。口に含めたときの音。リンゴの中の甘い蜜が口いっぱいに広がって……そうだ! 【しゃりしゃり】!」


 声に出したからか、手に持っていたリンゴが少し重くなった気がする。水分量が増えたのかな?

 これは、成功したんじゃない?


 艶やかになったリンゴに、ゆっくりと囓りつく。


「っ!!」


 カシュッと、歯を入れた瞬間に果汁があふれ出た。口の中でしゃりしゃりと音を立て、鼻から甘い香りが抜けていく。

 成功だ。


「ふふっ……新鮮なリンゴ、うまー」


 口いっぱいにリンゴを頬張りながら、思う。

 野菜や果実を新鮮にできる力があれば、少しは村に貢献できるかもしれないと。

 ただ問題は、わたしと違って村の人達は食糧をしなびた状態まで放置しないってこと。


「うーん……これはこれとして、他に何ができるかな」


 野菜や果実。『物』に水分を与えることはできた。

 では、人間には?


「人と水分といえば、まだ乾燥する季節だよね。お肌の調子に、髪も水分が必要だよね」


 実験をするため、わたしは自分の手をものすごく近くで観察した。

 指先とか、小指側から人差し指の方に伸びる線の下とか。その他、手には結構なシワの数があった。

 その一部が、白い線として現れてる。これは、乾燥しているということでは。


「手とか身体に施すのと、顔に魔法をかけるのと、たぶん違う言葉だと思うんだよね。まずは手にやってみて、コツを掴んだら顔にもやってみようかな」


 手を潤す。最適な言葉は何だろう。

 手を見つめる。擦り合わせてみると、乾燥しているような音がした。

 この手を、潤す音は。


「【しっとり】?」


 声に出してみて、瞬く(あいだ)に何かが変わったような気がした。

 手を擦り合わせてみたら、さっきまでしていた乾いた音はしなくなってる。それどころか、手と手がくっつき合うように、ものすごく保湿されているんじゃない?


「あ、違う。保湿じゃない。加湿だ」


 一度得た水分を保つというよりかは、手の表面が常にしっとりしている感じ。

 今回は手で実験してみたけど、『しゃきしゃき』や『しゃりしゃり』みたいに、物に対してもできるかもしれない。

 それこそ、部屋が乾燥しているときに加湿したいときとか。


「おぉ。良いじゃん、良いじゃん! 水魔法、良いじゃん!」


 加湿ができるようになった。これで冬の乾燥にも負けない。


 その後も色々と試して、髪の水分調整をするのは【つやつや】。

 肌の水分調整をするのは【すべすべ】で、【ぷっくり】は唇の水分を調整できるとわかった。


 村には女性もたくさんいる。これだけ美容に関わることであれば、村に貢献できるんじゃないかな。

 女性に限らず男性だって、乾燥しているよりも潤っている方が良いよね。


 水魔法はまだまだ色々できそうだけど、これでわたしにも村での居場所ができたぞ。







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