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日本の四季を異世界へ! ~オノマトペ魔法をもらってスローライフを送ろうとしたら、辺境の村が独立自治区として観光地化した件について~  作者: いとう縁凛
春の章

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第010語 身体を鍛える理由


 ジュージューとお肉が焼ける音。

 トントントンと包丁とまな板がぶつかる、小気味良い野菜を切る音。

 それらの音と香ばしい匂いがあるだけで、自重しなくなった腹の虫は盛大な歌声を上げる。一度聞かれてしまったし、わたしもその歌声を放置した。


「ほい。簡単で悪いけど」

「うぅん! すっごい豪華じゃん!!」


 木製の平皿に乗せて出されたのは、分厚く切られたお肉と野菜を、時間が経って少しかたくなっちゃった丸パンを半分に切って挟んだサンドイッチ。それも、二つ。


「いただきます!」

「おお。食え食え」


 がぶっと豪快に一口目をいく。

 素材の状態から元々ついている、塩味のあるジューシーなお肉。まだシャキシャキだった野菜。肉汁が少し固くなっていた丸パンに染みこんで、食べやすくなってる。


「美味しい!」

「そ、そうか? それなら良かった」


 ルベルが、照れ隠しするように視線をそらして鼻をかく。

 ささっと食事を用意してくれる、良い幼なじみを持ったと感謝しながらサンドイッチを食べ終えた。


「で? 何でアンネは水浸しで倒れていたんだ」

「そう!! わたし、水魔法師になったの!!」

「? どういうことだ」


 ごちそうさまとお礼を言って、ルベルの手を取り外へ出る。ルベルはちょっと焦っていたような気がするけど、わたしは早く自分の魔法を披露したくて仕方なかった。


「見てて!」

「お、おう……」

「パシャン! パシャン! パシャン!パシャン! ついでに、びっしゃびしゃ!」


 わたしは両手を地面に向けて、次々と水魔法を発動した。いや、正確に行くとオノマトペ魔法だね。


「すごいな。こんなに連続で出せるなんて……アンネ、魔力切れを起こしてないか」

「魔力切れ?」

「ああ、その様子だと大丈夫そうだな」

「魔力って切れるんだ?」

「ああ……まあ、前に魔力の流れを見た時、アンネの魔力量はすごかったからな。アンネの魔力は切れないかもな」

「魔力切れって、どうなるの?」

「人によりけりだが、大体は高熱を出して数日寝込む」

「へぇ」


 良い機会だからと、ルベルが話したそうだったから再び家に戻った。

 そして聞く。みんなが身体を鍛えている理由を。


「……膨大な魔力を扱うために、器になる身体を大きくするんだね」

「そう。子供の頃から鍛えて、魔力切れが起こる度に鍛え直して。成長する過程で自分がどれくらいの魔法を使えるのかを学ぶんだ」

「あれ、でもそうするとおかしくない? カペリも細くて小っちゃいよね?」

「ああ、カペリは村の外で産まれたからかもしれないな。おばさんが嫁いで村から出たけど、旦那さんが行方不明で。生活するのが大変で、七年前に戻ってきただろ?」

「そうだったっけ? 七年前ってことは、もう……?」

「どうだろうな。……まだ、記憶は戻らないのか」

「そうだねぇ。まぁ、それは別に戻らなくても良いんじゃない? もうこの村で過ごした時間の方が長いし」


 カペリのお父さんについて、ルベルは言及を避けた。今ここにカペリはいないけど、噂でも死んでいるかもしれないなんて聞かせたくないんだと思う。


 わたしは、七歳までの記憶がない。気がついたら、この村にいた。

 さすがに突然人間が湧くわけはないから、どこかで産まれて七歳になるまで育ったんだろうけど。

 ウィーバーさんから聞かされた話によれば、わたしは七歳の頃村にやって来たらしい。自分の足で。

 それなら何かしらのことを覚えていると思うんだけど、この村に来るまでのことは何も覚えていなかった。


「……なあ、アンネ。今からでも遅くない。身体を鍛えた方が良い」

「えぇー……。んー……」

「確かに、今まで何もなかった。でもこれからは、何かあるかもしれないだろ? 新発見のスキルが授けられたし」

「んー……それはそうだけど……」


 これまで何度も、ルベルからは身体を鍛えるように言われてきた。明確な返事をしないできたけど、やっぱり気が進まない。


「誰もが知っているようなスキルなら、おれもこんなにしつこく言わねえよ。でも、アンネのスキルは誰も知らないんだろ? 何があるかわからないじゃねえか」

「んー……それは、そうかもだけど」


 鍛えると宣言しないわたしに業を煮やしたのか、ルベルは右上に目線を向けたり左右に動かしたりしている。


「あー……そう、そうだ。アンネは知らなかったと思うが、魔力に耐えられなくなったら、身体が爆発するんだ」

「爆発? それは怖いね」

「そ、そうだろ! だからアンネも……」

「でも、それって嘘だよね?」

「あっ、いや……」


 こんなにすぐばれるとは思わなかったのか、ルベルは大きな身体を縮こませて目を泳がせている。


「ルベル。嘘を言うならもっと堂々としないと。目線が泳ぎまくりだし、何より右上を見たでしょ? 作り話だってばれちゃうよ」

「なんで右上を見ると話を作っているってばれるんだ?」

「んん? どうしてだっけ? 何か、知ってた」

「もしかしたら、アンネが思い出せない記憶に関わっているのかもな」

「どうだろ。まぁ、そういうわけだから、わたしに嘘は通用しないよ?」

「降参だ」


 ルベルが両手を上げて負けを認める。

 その後すぐに真剣な顔をして、わたしをじっと見つめてきた。


「おれがアンネを心配しているということだけは、わかってほしい」

「うん。ありがと」


「魔法が使えて嬉しいのはわかるが食事を抜くなよ」と言葉を残して、ルベルは帰っていった。







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