朝、目覚めると、私は傘になっていた
ハーベーさまよりいただいたタイトルで書きました
朝、目覚めると、私は傘になっていた
透明なビニール傘には
コンビニのプライスタグがまだついていた
420円
それが私の値段だった
見えるものは同じだが
人間だった時とは見えかたが違った
透明なビニールは凸凹の舗道を映し
仰げば落ちてくる雨に心を強くした
私はただ、守るもの
雨や、風や、空から落ちて来るあらゆるものから
私を差す人間を守るもの
強くあらねばならない
そして
私を守るものは、誰もいなかった
風に負ければ、殺される
華奢な私は、すぐに死ぬ
死ねば、あっさり捨てられて
会社裏のバッカンの中で
ビニールは破れ
骨は錆び
ほんのわずかの白いプラスチック部分だけとなり
誰からも忘れられて、ほんとうに死ぬだろう
誰を守るでもなく、ただ雨に濡れて
もう、勝つ必要もなく、風にさらされて
私は私が誰であるのかも忘れたまま
ただ、傘の記憶をアメーバの中に
野晒しにされるままに
カサ……
カサカサカサ……
傘!
あったぁー!
私を見つけて笑顔の少女に
私は透明な腕を伸ばした
雨空にむかって




