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BBQ


 ルナと共に晶が家に帰ると、タイミングがいいことに凛太郎もちょうど帰って来たところだった。


「今日は探偵の仕事は終わったの?」

「そう。今日の依頼は超簡単。行方不明の飼い猫を探してくれって」


 猫を探す依頼。猫の習性を全く知らない晶は人間を探すよりも難しそう、と思った。

 だがこうして凛太郎が午前中で仕事を終えて来ている。

 凛太郎にとって猫探しは簡単なものなのだろう。

 ルナは凛太郎を見て揶揄うように口を開いた。


「まあ…凛ちゃんはネコ探し得意だもんね」

「ルナ、それ以上言ったらアンタをネコにするわよ」

「無理無理、僕、女の子大好きだもん」

「ワタシだって、アンタみたいなネコを飼うほど物好きじゃないのよ」


 二人が何の話をしているのかわからない晶は首を傾げつつも庭でバーベキューの準備に取り掛かった。

 晶がグリルをセットしている間、凛太郎は先ほどルナと晶が買ってきた肉と野菜を切っている。

 ルナはいつの間に作ったのかマイタイを片手にパラソルとキャンプ用の椅子を引っ張り出してきて優雅にくつろいでいる。

 制服かのようによく着ているアロハシャツとマイタイはルナによく似合っていた。

 まるでここがハワイのビーチかのように。

 誰かが働いている空間とはまるで思えない雰囲気。

 それくらい、ルナは他人が働いている中で手伝わずにのんびりすることに何の違和感もないらしい。

 

 その様子を横目に見て呆れた晶。

 だが、ルナに何を言おうと手伝うことはしないだろう。

 晶が死ぬ前にオフィスに連れて行った時、ルナは手伝うと言いながら晶の邪魔しかしなかった。

 今回も“手伝い”は期待できないだろう。


 晶は一人で淡々と準備を進めている。

 無言が気にならない二人はそのままの状況で数分過ごす。

 時折、凛太郎がキッチンから切り分けた食材を運びにくる際もルナ以外が会話をする。

 凛太郎もルナに何かを頼むのは諦めている様子だ。

 そんな中、声を上げたのは意外にもルナだった。


「ねえ、なんで僕のこと放置するの?」

「放置?」

「さっきから凛ちゃんとばっかり喋ってるけど、僕は?」


(僕は?何もしていないあなたに何の業務連絡をしろと?)

 晶は心の中で思っていることは口に出すまいと、角の立たない別の言い分を考える。


「これは私語っていうより業務連絡だからな〜」

「随分楽しそうな業務連絡だね」

「…ルナも業務連絡する?」

「そうやって僕に業務をさせようとしなくていいよ」


 自然にルナに手伝わせる晶の目論見は失敗に終わった。

 やはりルナに何かを頼むのは無理だったようだ。

 ルナは相変わらずマイタイを飲みながら凛太郎と晶が作業している様子を見物している。

 時折晶に話しかけながら。

 さながら現場監督かのように。


「あとどれくらい?」

「もう少しで炭に火がつくだろうから、グリルがあたたまり次第肉を網に乗せていけば、すぐ食べられるよ」

「ふーん……でさ、あの男、誰って言ったっけ?」


 唐突にくる質問。

 今まで作業のことや食材についてだった質問が突然どこかの人間の質問に変わった。

 あの男、とは誰のことを指しているのか、晶は分からなかった。


「あの男?誰のこと言ってる?」

「あの人だよ、スーツ着てた人」


 スーツを着ている男の人は晶の周りにはたくさんいる。

 同僚たちは基本的に皆スーツだ。

 頻繁に会うジェイクのことを言っているのだろうか?

 だがルナはジェイクとの面識はないはず。

 全くもって誰のことを指しているのか予想がつかない晶は尋ねる。


「どんなスーツを着てる人?私の周り、スーツの男だらけなんだけど」

「……男だらけ?」


 ルナが纏う空気が重くなった気がした。

 そして気にしているポイントが違う。


「いや、だから、ルナが言う“スーツを着てた男”って、どんなスーツを着てた人?」


 しばらく考え込んだルナ。

(そんなに考えることかな…)

 晶はルナの質問の意図が読めずに、目の前で燻っている炭を見つめていた。

 火が隣の炭に燃え移った時、ルナは口を開いた。


「男の格好なんていちいち覚えてるわけないじゃん。凛ちゃんじゃあるまいし…」


(先にスーツとか言い出したのはあなたでしょ?)

 という言葉が口元まで出かかったのをなんとか飲み込んだ晶は盛大なため息をついた。

 普段ため息をつくことがない晶。

 丁度次の食材を運んできた凛太郎がその一部始終を目撃した。


「ちょっとちょっと〜何で通夜みたいな空気になってんの?」

「「…………」」

 

 黙り込む二人。

 何かがあったのは明らか。

 察しのいい凛太郎はすぐに気がついた。


「まーたルナが晶を困らせてるんでしょ?」

「…別に僕は何も」

「……」


 一人だけ黙り込む晶。

 凛太郎は晶をじっと見つめ、それからルナを見つめた。

 凛太郎は首を軽く横に振った。


「凛ちゃんじゃ僕の心は読めないよ」

「……そのようね。どうせ、晶が丹糸先生とデートしたことに腹を立ててるんでしょ?」


 笑顔のまま凛太郎の言葉に固まるルナ。

 ルナからは禍々しい圧を感じたと思った瞬間、晶は息苦しさを感じた。

 凛太郎はルナの圧を気にすることもなく切ってきた野菜をグリルに並べて焼き始めている。


 ルナは片手に持っていたマイタイをテーブルに置いて、グリルを隔てた凛太郎の向かい側に立つ。

 横に置いてあったトングを持って無言で肉を並べていく。

 そしてルナは小声で凛太郎に話す。


「邪魔するなら凛ちゃんでも容赦しないよ」

「…あら、ワタシがいつ邪魔したって?アナタが意気地なしなだけデショ?神様のくせに」

「僕は部を弁えろと言ってるんだけど?」

「あら、それこそアナタが部を弁えなさい?神様なんだから、人間を巻き込むんじゃない」

「…………」


 晶はようやく楽に呼吸ができるようになった。

 いつの間にか凛太郎とルナがすぐそばのグリルで二人仲良く食材を焼いているように見えた晶。

 二人がどんな会話をしているのか気になったが、先ほどルナから感じた息苦しいほどの圧が気になり近くへ寄れない。

 何かを話しているようだが声が聞こえない。

 まるで、二人の空間だけ別世界にあるかのように。


 不思議そうに二人を見つめる晶の視線に先に気づいたのは凛太郎だった。


「あらやだ!これじゃワタシがアンタと秘密の関係みたいじゃない」


 そう言って凛太郎は掌どうしを合わせて1拍鳴らした。

 その瞬間、二人の空間が弾けたかのように晶がいる空間と一つになる。

 何が起こったのかわからない晶。

 だが、感覚的には今明らかに空間が揺れたのがわかった。

 晶は二人を見るが、いつもと何ら変わりはない。

(気のせいかな?私だけ文字通り蚊帳の外だった気が…)


 思わず凛太郎に手を伸ばす晶。

 晶の手が凛太郎の腕に触れる。

 そこでやっと実感した。

(ちゃんと、ここにいる)


 腕を触られた凛太郎は晶が何をしているのかわからなかった。

(まさか、さっきワタシとルナがやっていたことを見ていた訳ではないでしょうね…人間だもの、意識があったはずないワ。ましてや……)


 晶に聞かれてしまった、という一抹の不安がよぎった凛太郎。

 だが、今まで人間に聞かれたことはない。

 それどころか人間があの瞬間動けたはずがない。

 凛太郎は晶にカマをかける。


「晶、アンタはどう思う?」

「…………何が?」

「んもう、晶ったら。お腹減って心ここに在らずね〜」


 何事もなかったかのように取り繕った凛太郎。

 まるでわからない、という顔をする晶。

 つまり、二人の会話は聞かれていない。

 安堵した凛太郎は軽くため息を漏らした。


 いつも通りの凛太郎に安堵した晶。

 ルナの方を確認すると、黙々と肉を焼いていた。

 何枚か焼き上がった肉をお皿に持って晶に差し出すルナ。


「はい、僕が焼いてあげたお肉。食べるでしょ?」


 ルナはいつもの女性が黄色い歓声をあげそうな甘い笑顔を晶に向ける。

 ルナが正常であることを確認した晶はお皿を受け取って先ほどまでルナが座っていた椅子に腰掛けた。

 そこからグリルの周りでやイヤイ騒いでいる二人を眺める。

 いつものようにルナが凛太郎を揶揄って、凛太郎がキレる。

 ルナが二人の生活に登場してからはよく見る光景だ。

(さっきの二人の嫌な雰囲気は、私の気のせいだったのかな…?)

 

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