お嬢様と勉強会〜リリエッテサイド〜1
「なんであなただけが愛されるのよ!」ガシャン
壁に当たったティーカップが音を立てて割れる。
「なんで、なんであなたなのよ!魔法が使えるから?性格が可愛らしいから?!」
私が持てないもの全てを持っているリリエッテが憎い…。
泣きながら怒っていう彼女の頬を水滴がつたう。あえてティーカップを私が当たらない位置に投げ、苦しげに顔をゆがめる同い年の少女を恨む気には、どうしてもなれなかった。
私の名はリリエッテ•フィーラ、フィーラ男爵家の末娘で、リキャリニス家のお嬢様レイティーンの専属メイドだ。将来王立魔法学園に共に入学して永く仕えていけるように、彼女と同い年で、身分は低くとも貴族である私は幼い頃から親と離され、この家で育てられた。最初は子供らしく、親の愛を得て幸せそうに微笑むお嬢様に嫉妬したが、次第に割り切れていった。自分でいうのはなんだが私は少し達観していると思う。それは皮肉を込めた悪い意味で、だ。それも幼い頃の境遇によるものなのだろう。でも、いつもニコニコして無邪気なふりして、こんな身分の低い私でも愛されるように、自分を偽って、偽って、偽って生きてきた。
それが一変した4歳の魔力検査。あぁ幸せになれてよかったね、そう思うだろうが、今までの世界が灰色だったならば、今度の世界は暗黒だ。光もない。光がないから影もない。私にそもそも生きる意味があるかもわからない。周りには意地悪そうな顔で私の利用価値のみを図っているような大人。そんなことを思ってない人は近寄ってもくれない。そして一番この検査で変化が大きかったのは、きっと幸せな世界からダークな世界を初めて知ったお嬢様。
「待って、お父様。ウソ!お母様まで行ってしまうの?私がオチコボレだから!?ねぇごめんなさい!なんでもするわ!なんだって今までの何百倍も頑張る!だからお願い!私を置いていかないでっ!」泣き叫ぶ彼女…。
「もう、限界…」そう呟く私は皆が知っている、魔法の才能があるのに驕り高ぶらず、お嬢様にいじめられて可哀想と言われれば、「私は十分幸せよ!お嬢様もきっとお辛いの」と心にもないことを慈悲深そうに優しく話す私とは似ても似つかない、表情の抜け落ちたような顔をしていたことだろう。
お嬢様は、これまでもさまざまなことを頑張っていたが、あの、両親に捨てられて離れに移動させられ、本館に会いに行くことも許されなくなった日からは机にかじりつき、テーブルマナーをすぐに覚え、完璧な令嬢へと見る見るうちに成長した。魔法の実技以外、は。この世界では魔法を重視する。それはもう何よりも。そして魔法というのは一部筆記的なものもあるが、たいていは実技をさす。彼女は、いうなればルーのないカレーみたいなものだった。次第に私にあたるようになっていき、影では「欠陥令嬢」、や「周りに厳しすぎる高慢な公爵令嬢」と囁かれるようになっていった。
「4歳に任せるのはさすがに早いわ。」
「でも他に手が空いている人なんて…」
「でも」
「それもそうね…」
自分を売り込めるチャンス。この離れには私以外に4歳のメイドなんていない。
「どうされました?」
「まぁリリちゃん!あのね…」
そこから相談されたのは、夜にお嬢様の様子を見に行き、異常がないか見ると言うのみの簡単な仕事。今までやっていた離れのメイド長が腰を痛め、しばらく書類仕事等の動かなくても良い仕事に専念するらしい。…最近ストレスでどうせろくに寝れていない。
「私、やります!」
ランプを手に、お嬢様を起こさないようそっと部屋へ入る。自分にも他人にも厳しい、同情の気持ちは湧くけど大っきらいなレイティーン。
「寝顔にインクで落書きでもしてやろうかしら。」絶対にそんなことを言うと思われていない私の呟きに我ながら可笑しくなる。豪奢な天蓋をあける。と…?
レイティーン転生前のリリエッテサイドですね!さすがにこのまま本編には戻りませんので安心してください!




