完璧王子VSチート令嬢
「ご機嫌よう、王太子殿下」
「ご機嫌麗しゅう、レイティーン嬢」
…おわかりだろうか?
今日は待ちに待った決戦の時。ここで勝てば婚約はなかったことになり、私はただただスローライフを満喫できるっ!
「っ!本当にその格好で良いのですか、レイティーン嬢」
「?はい。中見えないようにタイツ履いてますし、インパンも着用済みです」
「では、走り、握力、蹴りの順に測定させていただきますね」
リリが責任を持って測ってくれる。 数値計はないので、ルールはリリが工夫してくれたそう。
「最初は走り。この50メートル走で測ります。」
「ご機嫌よう、王太子殿下」
そう作り物っぽい笑顔で言う彼女の服装をさっと確認する。僕はいつものラフ目の白い皇族用スーツなのでだが…。
え?ドレス!?ヒール結構あるし腰回りのフリル重くない!?濃紺のプリーツスカートのドレスで、6センチくらいのヒールを履いている。幼児が6センチなのだから、結構ヒールがきつい。
「っ!本当にその格好で良いのですか、レイティーン嬢」
「?はい。中見えないようにタイツ履いてますし、インパンも着用済みです」
そういう意味じゃなぁい…!
まあ、本人がいいらしいのでそれ以上はつっこみません。
「いちについて〜よ〜い、どん!」
きっちりクラウチングスタートを作り、地面を蹴る。
ガチガチのマッチョではないが足には筋肉がしっかりついている。ドレスの女に負けるわけ…
「はっや!?」
適当に突っ立っていただけだったのに、軽やかな足取りでもう彼女はゴール地点へ。
「…」
「へへん!」
いや、もう何から言っていいかわからない…。
「お嬢様、本当にすごいです!さぁてお次は握力!」
この従者こんな感じだったか…?なんだこの狂信者のようなランランとした目!使い魔の猫はなんか爪の手入れしてて興味なさげだしっ!
「握力は、りんごをつぶしてつぶした数で測らせていただきます!制限時間は一分!両手つかってもかまいません!よーい、始め!」
普通に考えたらりんごを潰すなんて勿体なくて仕方ないが、公爵家だもんな…。市井を勉強している僕はそんなことを思うって…、まって!?制限時間一分!?一つでも潰せたほうが勝ちか…。
両手で包むようにりんごを握り、全身の力を込めてうなる。
ぐちゃ
お!少し周りが潰れてきたぞ!このまま…ふんっ!
「一分たちました!」
丁度か…。さぁてレイティーンは潰せたのか…な!?
レイティーンの周りには惨たらしい赤い血飛沫が…んじゃなくて、潰れたリンゴがいくつも転がっていた。
「…へ?」
「あっけに取られてるねぇ。レイティーンは一個三秒のペースで、片手づつ持ちながら潰してたんだよ。
つまり、三秒で二個。一分で四十個。」
意味わかんない数のリンゴが用意されていると思ったら、そういうことだったのかぁ!!
う、うん。僕はもう驚かない。最後の蹴りだけは完璧にこなしてみせる。
「殿下、これで私の勝ち決定でございますね!勝負あり、と言うことでよろしいですか?」
ふふん!という自慢げな声が聞こえてきそうなルンルンなテンションだ。
「まあ、私はとても慈悲深い令嬢ですので、もし殿下がお望みならば最後の蹴りだけで勝負をつけても
いいですよ⭐︎」
自分が負ける想定はないのだろう。今まで僕にこんな失礼な口を聞いてくる奴はいなかった。
「ああ、もうひと勝負だ!」
「最後の蹴りは、ここにある岩によりダメージを加えられた方の勝ち。光魔法で複製しているので、どちらも同じ強度です。」
「光魔法…?」
「ここにいるお嬢様の使い魔であるカラメロが使い手ですので。強度の差に疑問がおありでしたら、お好きな方を選んでいただいて結構です。」
「うん…」
軽く叩いた感じはどちらも同じだ。これで2つわかったことがある。カラメロは天才だ!そしてこの岩ものすんごく硬い!
「では、制限時間は三分です。用意、始め!」
横の対戦相手が気にならないよう、二人は離れの端と端で勝負している。
「はあっ!ふうっ!!」
完璧王子の意地見せてやる。
「たああっ!っつう!!」
思いっきりキックしたら、岩が硬すぎて全部力が僕に跳ね返ってきた。いたああい!!折れたかも…。
僕は今年6歳。これまでにここまで痛かったためしはない…。
「ああ、もう蹴れないよね。勝負ありだね。レイティーンの方見に行こうか」
「ああ」
王族の僕にたいしてあえてのタメ口!こんな屈辱受けたことない。
…楽しい、とか、案外居心地いいな、とか、感じてしまうのは、きっと気のせいだ。
作り笑いなんてこの不遜な猫にしてやる気もないのに、上がってきてしまう口角も、きっと。
「あ!殿下!ギブアップですか?」
「く、悔しいけど…」
「やった!婚約回避だ!」
周りに砕け散った鋭い岩塊の上で、飛び跳ねている。
…もう、この令嬢を人だと思うのはやめよう、うん。
でも、そっか。婚約できないから、僕はこの子ともう王族と公爵令嬢としてしか会う機会がなくて、だから必要以上に話したりもできなくて、彼女の横にはしれっと別の奴が収まって、王族だから公爵家の婚姻には出席義務があって、僕は身分的につりあう隣国の姫とか他の高位貴族と政略結婚させられて、嘘の愛を育んで、彼女の結婚式にそのパートナーをつれて並んで、作り笑いで拍手するのか。なんか、嫌だ。何がいやとかうまく説明できないししたいとも思わないけど、そんな未来嫌だ。
「レイティーン・ド・リキャリニス公爵令嬢。」
「はい?」
「貴殿との婚約を…」




