王太子ぃ!
公爵邸の離宮に姿を現したその人は、みまごうことなき前世の推し、王太子クラッセル・スティリヤであった。だが、正直にいうと私が好きなのはヒロインに会ってからの激甘な彼で、小さい頃の自分が完璧ゆえに周りを見下している性格は正直言って好きではなかった。
「公爵令嬢が使用人とお茶するだなんて、君は本当に優しいんだね」
私にはわかる!
“使用人などととお茶して身分制度が一ミリもわかっていないようだな。こいつ、本当にバカなんじゃないか“こっちが本音だ!
「ご機嫌よう、王太子殿下。本日はご訪問の予定伺っておりませんでしたが、なんのご用で?」
“事前に訪問書出さずに尋ねてくるとか、いくら王太子といえど常識なさすぎ“そう伝えてみる。
「なっ。これは失礼。誕生日会に私も混ぜていただけないかと」
「本当の理由はそれ、と。で、建前はなんですか」あえてちょっと冷たく当たる
「はあ。初対面からなかなかに手強いね。建前としては、王太子の前でこの間公爵令嬢が倒れたので、お見舞いに来たのですよ、御令嬢。それと、婚約しに来ました」
「ふえ!?何それ?受け入れたら私が死ぬやつやん!断罪街道まっしぐらやん!」
「落ち着いて、レイティーン素が出てる。」
「こほんウホンっ。これは失礼しました」
「さっきのが素だとか、言ってることよくわかんないけど面白すぎやぎやしないか。容姿も整ってるし頭もいいという噂。ますます婚約を…」
「ああ、ダメダメ。婚約したくないです!」
「そんなはっきり言わないでよ…」
「じゃあ、こうしませんか?殿下、私と勝負しましょう」
「勝負…?」
「はい、負けた方は勝った方の言うことを聞く、このルールで」
「それ、僕がさまざまな勝負事で一度も負けたことが無い『完璧王子』と言う噂をご存知で言ってる?」
「はい、もちろん」知らない訳ないじゃないか、前世死ぬほどプレイしたのだから
「それじゃあ、手加減はいらないね」ニヤリと腹黒く笑うのが見えた。せいぜい虫けら、楽しんでやろう、そんなところだろうか。
「お言葉を返すようですが、私も手加減なしでいいですか」
「ほお、いいけど、何するんだい」
「身体能力勝負で」
「「「「身体能力!?」」」」
「それじゃあ、御令嬢があまりに不利では?走り、握力、蹴りだなんて」
「そうよレイティーン。さすがに」
「お嬢様に何かあっては筆頭メイド長としてリリにも処分を下さなければいけなくもなりますよ」
「やめてください、お嬢様。負けるに決まっているじゃないですか」
「みんなありがとう、でもいいのよ。ただ今日は病み上がりだから、また三ヶ月後に尋ねていただけますか」
「そうやって時間稼ぎしなくても、取り消してやるのに…」
「…」
「わかった。三ヶ月後にまたくる」
「お嬢様、どうしてあんな無謀な賭けを持ち込んだのですか?」
「無謀でもないのよ。チートを使えば」
「ち、チート…。お嬢様の話、本当だったのですね。」
「逆に嘘だと?」
「いいえ、でもまさか本当だとは」
「それを嘘だと思っていたって言うのでは?」
「あ、そうですね!嘘つきだと思っていました」
そんなアホらしい会話を繰り返して公爵邸別棟に戻る。今日も早く寝よう。
「おはよ〜」
「おはようございます、お嬢様!今日からチート機能が使えるようになる日ですよ!!」
「はっ、そうだったわ」
もぐもぐもぐもぐ
「ひょっと量ほほくない?」
もぐもぐもぐもぐ
「お嬢様に栄養つけて欲しくて!」
もぐもぐもぐごっくん
「レイティーン、朝からパン、一キロとかどんな体してるの…?」不思議なことにレイティーンはいくら食べても太らないのだ!私が転生して一番嬉しいことだった。
「さあ、せっかくだから魔法の訓練をしましょう。ジェリーを呼んできて。外に出るから」
「いいですか?今日からはリリとお嬢様で魔法の実技を行います。最もお嬢様におかれましては…」
「いいのよ。私もやるだけやるから。王太子との勝負二ヶ月後だし。」
「は、はい。では、私は風属性の魔導士なので風魔法を見せますね。
『我、七柱の神の一柱、風の女神に助力を請う。我にたぎる力を豊潤な水へと変化させ、我が望みを叶えたまえ。』」
一気に周りが潤った感じがする。ふとみるとジェリーの真上に大きな水球が。レイティーンが軽く上げていた手を動かすと次々とそれが分裂していった。細かい水滴に分かれたその水が、レイティーンたちを避けて優しく降り注ぐ。
「綺麗…」思わず感嘆のため息が漏れた。
「このくらいなら誰でもできますよ」
「あれは嘘だよ。ジェリーは実は中級の使い手だからできる技で、結構難しいんだよ。しかも人を避ける雨なんて尚更」カラメロがこっそり私たちに教えてくれる。
「お二人もやってみて。カラメロはもう使えるものね。光は『癒しと創生』、闇は『破壊と隠蔽』、火は『燃え盛る炎』、土は『豊かなる大地の恵み』、風は『涼やかなる神風』、水が『豊潤な水』」
「お嬢様、まずは私から行かせてください!『我、七柱の神の一柱、光の女神に助力を請う。我にたぎる力を癒しと創生へと変化させ、我が望みを叶えたまえ。』」リリも光属性だったんだなあ。
「な、何も起こらない!?」
「嘘でしょ!適正はちゃんとあったのにっ!なんでっ!」
「リリ落ち着いて」
「あっ。レイティーン様と同じ状況になれるようにと言う神様の計らいですね!ありがたいです!!」
「っここまでくるともはや怖い」
「ん?どうかされました?」
「いいえ、なんでもないわ。もしかしたらあなたは治癒が強いのではないかしら?私がこの土地を傷つけた後に癒してみて」
「はっ、はい。」
「ジェリー、もう戻っていいわよ。」
「しかし、そういうわけには…」
「雇い主命令です。戻りなさい」
「はい」ちょっと悪いことしちゃったけど仕方ないよね。これから御詠唱を試すんだから
「じゃあ、いくわよ。」なんとなく、土地を傷つけるなら火だろうか
「『fire』」
まともに立っていられないほどの轟音が響いて、地面が揺れる。砂埃から目を庇うように咄嗟に腕を顔の前でクロスした後、爆風で私は吹き飛ばされていた。ゆっくり目を開けると…?
「あら。森の一部がすっきりしたわね…」森が三分の一無くなっていた。




