4 ハッピーエンド
「まあ、いいんじゃないか別に。こうなるだろうなとは思っていたし」
翌日、ゼインとエリシアは若き国王の目の前にいた。エリシアが前日に国王へゼインの専属護衛騎士の任を解くように願い出たことを撤回するためだ。若き国王は金色の髪の毛をサラリと揺らし、アクアマリン色の瞳を二人へ向ける。そんな国王に、エリシアはおずおずと控えめに尋ねた。
「あの、こうなるだろうなと思っていた、とは?」
「エリシア一筋のゼインが納得するはずないだろ。それにどう考えたって両想いの二人なんだからな。それをわからない老害貴族たちには困ったもんだよ」
やれやれとため息をついて若き国王は椅子の手すりに肘をかけ、足を組む。
「だが、これで鈍感なエリシアもゼインの重すぎる気持ちに気付いただろう。晴れてハッピーエンドだ。二人はいずれ結婚するといい。別に聖女と騎士が結婚できないしきたりなんてどこにもないだろう。あるなら俺がそれを覆してやる」
国王の言葉にゼインは目を輝かせ、エリシアは驚きつつも頬を赤らめる。
「俺がまだ若いせいであの老害貴族たちは好き放題しているが、もう少しだけ待っててくれ。あいつらを黙らせるだけの力と技量を手に入れてみせる。だから、ゼインは何があっても聖女エリシアを守れ。物理な攻撃だけじゃなく、精神的な攻撃からも、全てだ」
「はっ!」
*
「エリシア様、起きてください」
翌朝。ゼインがそっとベッドの側まで来て、声をかける。だが、いつものようにエリシアは全く起きる気配がなく、心地よさそうに寝息を立てていた。
ゼインはやれやれという顔をしてから、ベッドへ膝をのせると、ベッドがギシッと鈍い音を立てる。そのままエリシアの顔に自分の顔を近づけて小さく笑うと、エリシアの耳元へ近づく。
「エリシア、起きろ。起きないと襲うぞ」
エリシアの肩がビクッと揺れると、エリシアの両目が驚いたようにぱっちりと開かれた。アメジストのような瞳がゼインの顔を捕らえると、その瞳はさらに大きく開かれる。
「おはようございます、エリシア様」
そう言って、ゼインはエリシアの頬に小さくキスを落すと、体を離してベッドの側に綺麗に立つ。
「ゼ、ゼイン!?起きる直前、何か言った!?」
エリシアはキスされた頬を片手で抑えながら、顔を真っ赤にして尋ねるが、ゼインはにっこりと微笑んで言った。
「さあ?気のせいじゃないですか?ああ、しっかり目はさめたみたいですね。そんなことより」
そう言って、ゼインは急に真面目な顔になる。
(な、なに?どうしてそんな顔してるの)
「俺を護衛騎士から解任しようとした日、若い騎士がいましたけど……あの騎士はあの日の朝、俺のようにエリシア様を起こしにきたのですか?」
「え?あの騎士は朝はまだここには来ていなかったわ。朝起こしに来てくれたのは王城のメイドよ。さすがに初日からこんなダメな姿を見せるのはひどすぎるしかわいそうだもの」
エリシアがそう言うと、ゼインはまたにっこりと微笑んだ。
「それならよかった。あの騎士の両目を潰すことにならなくてよかったですよ」
「……ええ!?」
「そりゃそうでしょう。あなたのそんな無防備な姿を見れるのは、俺だけなんですから。俺以外に見る男がいれば、その男の両目は潰します」
(つ、潰すの!?いや、冗談よね、冗談。さすがにゼインだってそこまでは……いや、しそうだけど)
驚くエリシアの片手をそっと掴み、手の甲に小さくキスをするとゼインは妖艶に微笑んだ。
「俺の気持ちがこんなに重いとは思いませんでしたか?でも、これがあなたへの俺の気持ちです。ずっと隠さなければいけないと思っていましたが、もう隠さなくてもいいですよね。エリシア様も俺を思ってくれているし、何より俺たちはいずれ結婚するんですから」
そう言って、ゼインは嬉しそうにエリシアを見つめる。若草色の美しい瞳は、見つめ返せばトロリと溶けてしまいそうなほどの熱を持っていた。
「俺からはもう逃げられませんよ。俺を手放そうなんて二度と思わせません。覚悟していてくださいね」
そう言って、ゼインはまた妖艶に微笑んだ。
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