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1 寝起き攻防戦

「エリシア様、そろそろ起きてください」


 黒髪に長身の一人の騎士が、そっとベッドの脇に立ちベッドの中へ声をかける。ベッドの中からは小さくうめき声が聞こえたかと思うと、ごろん、と寝返りが打たれる。

 そこには、美しい銀色の髪がシーツにキラキラと輝きながら波打ち、白い手足を伸ばしながら可愛らしい寝顔ですーすーと寝息を立てる一人の聖女がいた。


 リネンからはみ出た白い手足はスラリとして美しく、艶めかしい。どう見ても寝相がいいとは言えない状況だが、聖女エリシアの寝姿を見ながら騎士ゼインの若草色の瞳はゆらりと揺れ、ゴクリと喉を鳴らす。そして、そっとベッドに膝をのせるとエリシアの顔の両側に手をつき、そっとエリシアの耳元に顔を近づける。


「……エリシア様。そろそろ起きないと、色々とまずいことになりますよ」


 静かに、低く良い声がエリシアの耳元へ流れ込む。ぴくっとエリシアの肩が揺れて、ゆっくりとエリシアの瞳が開かれる。そして、両目を大きく見開いた。エリシアのアメジスト色の両目には、色気が駄々洩れで妖艶に微笑んでいるゼインが映っている。


「おはようございます。エリシア様」

「……おおおおおおはようござい、ます……」


(びびびびびびびっくりしたああああ!)


 突然耳元になにか良い声が聞こえて目を覚ますと、至近距離にゼインがいるのだからエリシアは驚き、心臓がバクバクと音をたてて鳴り響いている。心臓が今にも口から飛び出てしまうのでは!?と思えるほどだ。


「ようやく起きてくださった。このまま起きないならどうしたものかと考えていましたよ」


 ゆっくりとエリシアから体を離すと、ゼインはポーカーフェイスに戻ってベッドの脇に姿勢よく立つ。


「ど、どうしたものかって?な、なにをどうするつもりだったの?」

「さあ?……知りたいですか?」


 エリシアが恐る恐る聞くと、ゼインは口の端を上げながら少しずつエリシアに顔を近づける。そして、鼻先が触れ合いそうなほどの距離まで近づいて、止まった。


「ま、またそうやって!ゼインはすぐからかおうとするんだから!」


 聖女エリシアの専属護衛騎士であるゼインは、最近やたらとエリシアをからかってくる。エリシアが聖女になってからすぐにゼインが専属護衛騎士となったので長い付き合いだ。過保護だな、と思うことは昔からあったけれど、今までは騎士として適切な距離を保ってくれていたし、エリシアにとってもそれが正しいものだと思っていた。


 だが、ここ最近はやたらと距離感が近すぎる。まるでエリシアをからかって楽しんでいるのではないかと思えるほどだ。エリシアが慌てて顔をそらすと、ゼインは少し残念そうな顔で体を離した。


「別にからかってなんかいませんよ、俺はいつだって本気です」


(本気って……からかってくるたびにいつもそう言ってくるけれど、一体どういうつもりなの?)


 真意がわからないゼインに、エリシアはいつも困ってしまう。


「エリシア様、そろそろ身支度を整えないと、会議に遅れてしまいますよ。朝食だってまだでしょう」

「えっ、あっ!そうよね!すぐに支度します」


 エリシアが慌ててベッドから降りクローゼットを開くと、ゼインはやれやれと言った様子でエリシアの背後に回る。そんなゼインを、エリシアは不審に思って振り返った。


「……ゼイン、着替えるから部屋から出てくれる?」

「着替えも手伝いますよ。一人だと時間がかかるでしょう」


 しれっとそう言って、ゼインはエリシアの寝間着に手を伸ばそうとした。


(ど、どうしてそうなるの!?)


「二人の方が時間がかかります!そもそもゼインがいたら着替えられない!」


 エリシアが顔を真っ赤にしてそう抗議すると、ゼインはふん、とつまらなそうな顔をしてから手を引っ込め、仕方ないといわんばかりの顔をしながら部屋を出る。


(一体、ゼインはどうしちゃったの!?今までこんなことなかったのに……!)


 エリシアにとって、実はゼインは頼れるしっかり者の護衛騎士というだけではなく、ほんのりと淡い恋心のような、憧れの気持ちもある存在だ。だが、聖女だからそのような気持ちを持っていてはいけないと、自分の気持ちを完全に封印してずっと正しい聖女としてゼインにも接して来た。


 それなのに、今やゼインの方からそれを崩すようなことばかりしてくる。そのたびに、エリシアの心は大きく波打ち、揺らいでしまうのだ。


(私、このままじゃゼインに対しての気持ちが抑えられなくなってしまう……!)





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