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ALPHA BLACK

ep.6 午後1時07分

 

富士山麓・第四通信試験基地 地下施設 ZONE-B

 ホログラムに映し出された“過去のカーラ”。

 かつて彼女がNSA内で何を託され、そして何を封印されたのか――真実が開かれようとしていた。

 「Phase007の中核構造、それは……」

 映像がそこまで達した瞬間、解析用端末の警報が一斉に鳴り響いた。

 ジョシュア:「何だ、これ……軌道衛星が交差信号を捕捉!」

 カーラ:「上空に何か来てる――高速体、角度変動中……!」

 速水:「まさか……」

 ——外で待機していた監視ドローンが、突如映像をブラックアウトさせた。

 直後。

 ズドオォォン!!

 山肌が揺れ、地下の壁が軋む。

 制御室の天井からコンクリ片が崩れ、電源が一瞬ブラックアウト。

 「着弾だッ!ミサイル攻撃、北側斜面に直撃!!」

 ジョシュア:「これは……ステルス弾頭。通信波を遮断しつつ、精密誘導された爆撃だ。間違いなく、“Phase007”の実行者側の仕業だ!」


 崩れかけたトンネル内で、速水が怒鳴る。

 「全員退避!“コード001”の装置は持ち出せるだけ確保しろ!この場所はもう保たない!」

 カーラ:「映像のバックアップ、今! 少しでも残ってるなら!」

 火花が散る中、カーラが駆け寄り、必死に記録モジュールを引き抜く。

 ジョシュア:「もうひとつの爆撃波が来る!上空、第二波確認――!」


 午後1時14分

 第二撃着弾。

 富士山麓の森林の一部が抉られ、地下施設の入口は完全に崩壊した。

 だがその直前、カーラとジョシュア、速水らは脱出用通路からの避難に成功。

 コード001の断片データと、カーラの“影武者”存在を示すログの一部も、奇跡的に回収された。


 午後3時00分

 仮設作戦本部(静岡県内 非公開施設)

 「これはもう、情報戦じゃない」

 速水は呟いた。

 「敵は、“記憶”ごと現実を削りにきている。

 施設を狙った理由はただ一つ――“CARLAプログラム”の痕跡を、完全に消すためだ」

 木村:「でも、逆に言えば“そこにあった情報”は、本当に“核”だったってことだ」

 カーラは、震える手で破損データの断片を見つめていた。

 「私たちは、ほんの一瞬だけ……未来の中心に触れた。

 でもあれは、“何か”に見られてた。

 ……まだ終わってない。“本当の敵”は、姿を現してすらいない」

午後4時22分

 静岡・仮設作戦本部 指揮室。

 壁面モニターには、富士山麓上空の衛星軌道を3Dで再現した立体地図が表示されていた。

 NSAオペレーターが、ミサイルの飛来ルートを指でなぞる。

 「着弾時刻は13時07分。速度、角度、熱痕すべて一致してる。

 撃ったのは、高空超音速ステルスミサイル——間違いない」

 木村:「で、どこから来た?」

 ジョシュア:「……それが、“来ていない”ことになってる」


 カーラ:「どういう意味?」

 ジョシュアが顔をしかめ、キーボードを打ち込む。

 「3つの衛星で同時観測されたはずの飛翔体が、ログ上では一致しない。

 軌道1:誤差+0.12秒、軌道2:誤差-0.09秒、軌道3:記録そのものが消去済み」

 速水:「そんなバカな……衛星観測は軍用だぞ? 誰が消せる?」

 カーラの表情が冷たくなる。

 「“衛星そのもの”を操作した存在がいる。

 つまり、発射国を特定させないための“多層ミラー工作”」


 NSA本部との暗号通信ラインが一時中断し、わずか数分で再接続される。

 だが復旧後、ログの一部に異常が発見された。

 > 【SYSTEM NOTICE】NO ACCESS MEMORY SEGMENT_Δ-BETA

 > FLAG: “GODLESS” ACTIVE

 > REASON: HIGHER-TIER INTERVENTION

 ジョシュア:「……これは……NSA内部の防壁すら通さない“上位階層からの拒否”だ。

 国家単位では追えない発射元——それを証明してしまった」


 木村がぽつりと呟く。

 「つまり、“ミサイルを撃った国”は存在しない。

 でも、その手を引いた“誰か”は、世界の上にいる」

 カーラ:「それが“Phase007”の真の中枢……。

 私たちがまだ触れていない“最後のレイヤー”……“黒い実行者層(The Executors)”よ」


 情報は切断された。

 記録は消去された。

 だが、「撃たれた」という現実だけは残っている。

 そしてそれは、確かに警告だった。

 “これ以上近づくな”。

午後11時03分(日本時間)

 アメリカ・メリーランド州フォート・ミード

 NSA本部・中央管理棟“レベル0”

 「アラートコード:デルタ・スレッド発令」

 「全中枢プロトコルが応答遅延。回線隔離、失敗」

 「……なに? 本部中枢が“応答していない”?!」

 作戦室の照明が数回、明滅する。

 「全ログサーバに不明コードの挿入履歴を確認。

 コード名:ΩDust-Prime/Ex001。起源不明」


 NSA副局長・ドワイトが、サブモニターに駆け寄る。

 「通信解析班、今の信号はどこから?」

 「発信元、特定できません……ただし、信号は“すでに中にある”ものから発生しています。外部から入ってきたのではなく、内部で“目覚めた”としか思えません」

 その瞬間、中央ログバンクの全照明が赤に変わる。

 “UNAUTHORIZED RESET”

 “OMEGA EXECUTION PROTOCOL: PHASE007//LIVE”


 NSAの“最深階層”に格納されていた**超秘匿アーカイブ(コード:GODLESS)**へのアクセスが、何者かにより開かれた。

 ジョシュア(東京):「……まさか、本部がやられた?」

 カーラ:「違う。“やられた”んじゃない。中から鍵が開いたんだわ」


 NSA世界ネットワークの全中継点に、次の警告が流れ始める。

 > 【CODE001 起動フラグ確認】

 > 【ターゲット地域:GLOBAL】

 > 【リセット残存時間:T-146h】

 速水:「このままだと、“世界の構造”ごと再構成されるぞ……」

 木村:「しかも今度は、“見えない敵”と戦わなきゃならないってことか」


 静まり返った東京・作戦本部。

 カーラは、モニターを見つめながら呟いた。

 「NSAの中枢が落ちた今、次に“喰われる”のは……日本のどこか。

 “それ”が、すでに入り込んでる場所……」

 木村:「どこだ? 次に来るのは……?」

 カーラの指が、地図上の一点を指した。

 「……霞が関」

米東部時間 午後2時09分

 ワシントンD.C.上空・ポトマック川沿い

 空は快晴、風も穏やかだった。

 警戒態勢下にあったホワイトハウスから、大統領移送任務中のマリーンワン編隊が発進。3機構成、全機に電子戦防御システムを搭載。

 だがその瞬間、何の前触れもなく、通信に“空白”が走った。

 次の瞬間——

 「目標追尾ロスト!」

 「ステルス検知不能!弾道補正値…合わないッ!」

 機体識別番号 “M1-03” に、不可視の熱線が突き刺さった。

 ドガアアアアアアン——!!

 爆音と共に、マリーンワン1機が制御不能に陥る。

 その墜落映像は、地上の一部監視カメラと、ハッキングされたメディア回線により全世界へ“瞬時に”配信された。


 午後2時11分

 ペンタゴン緊急統合指令本部

 「大統領は無事だ。別機で安全ルートを飛行中。だが……これは、宣戦布告に等しい」

 NSA代理官:「いいえ。これは“国家からのものじゃない”。敵は国ではない。既に“システム”が敵そのものです」

 分析官:「着弾座標、弾道パターン、使用推進剤……製造元の痕跡ゼロ。“存在しない兵器”による攻撃です」


 東京・NSA臨時対策本部(同時刻)

 カーラ:「ついに始まったわ。“国”じゃない、“何か”が世界の構造そのものをリセットし始めた」

 ジョシュア:「これはフェーズ007の**“本当の開始信号”**か……。

 “CODE001”は、もう発動されたと見るべきだ」


 全世界が、静かに“終わりのカウントダウン”に入っていた。

 そしてその裏で、誰かが微笑んでいる。

 どこからでもなく、どこにでもいる存在。

 “それ”は国家ではない。組織ですらない。

 それは、構造そのものに潜む 意志 だった。

米東部時間 午後3時02分

場所:不明(バージニア州地下100m) Continuity Base "Prometheus"

 分厚い防爆扉が重く閉じられると同時に、施設内は自家発電モードに切り替わった。

 大統領を含む8名の閣僚、国家安全保障会議主要メンバー、軍最高幹部の一部が無言のまま会議卓につく。

 「コード確認。認証デバイス、フレーム一致」

 「副大統領、国防長官、CIA長官、生体認証一致」

 「大統領令補足項目:ALPHA BLACK発動、承認までT-30秒」

 無機質なAI音声が、淡々と進行を告げる。


 「…これは、我々が想定した最終プロトコルだ」

 大統領が低く呟いた。

 「通常の法秩序は、侵食済みの情報網ではもう防げない。

 我々自身を“外部システム”として、国家を保持するしかない」

 ALPHA BLACK——国家憲法を一時無効化し、あらゆる軍事・情報制御権限を“Continuity Council”へ一時移譲する非常措置。

カウントがゼロに達する。

 「ALPHA BLACK、発動」

 直後、世界中の米軍中枢基地、通信衛星、各国大使館に向けて、特別なエンコード信号が一斉に送信された。

 > 【MESSAGE: UMBRA-CONTINUITY ACTIVE】

 > 【CONSTITUTIONAL OVERRIDE: CLASSIFIED/CATEGORY-ZERO】

 > 【ALL FEDERAL SYSTEMS UNDER TEMPORARY MILITARY OVERRIDE】


 同時刻、NSA臨時対策本部(東京)

 ジョシュア:「やったか……ALPHA BLACKが動いた。

 もう、これは“国家非常態勢”を超えた。

 フェーズ007への手動対抗措置だ」

 速水:「つまり、アメリカ政府そのものが、今……“初期化耐性体制”に入ったってことか」

 カーラは静かに言う。

 「でも、問題はそこじゃない。“Phase007”の実行者たちは、国家の外から世界を書き換えている。

 ALPHA BLACKで守れるのは、“内部”だけよ」


 深い地下、静寂の中で警告音が響く。

 「Continuity Base内にて、制御されていないマイクロコード活動を検出」

 「発信源:UNKNOWN/識別コード:001.Σ(シグマ)」

 大統領が顔を上げた。

 「……まだ、“中にいる”のか」

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