布団と鞄
朝起きたら布団と鞄が消えていた。
母が持って出て行ったのだろう。
いつも通りの朝。ただ母がいないだけ。
カロリーメイトを缶の烏龍茶で流し込む。
これもいつも通り。
学校へ行くがたいして誰とも会話しない。
誰と目が合うこともない。
下を向いているから。
これもいつも通り。
担任の先生が空き教室にそっと私を呼んだ。
「大丈夫?」
なにがだろう。あ、母のことか。
「何かあったらなんでも相談してね。」
申し訳ないなと思いながら頷いた。
別に何も変わらない。離婚が成立して母が出て行った。ただそれだけ。予定通り、なんの問題もなく物事が起こっただけ。
ただ私が知らなかっただけ。
腫れ物を触る扱いは嫌だけど、私のことを気にしてますよと言う言外メッセージとして、私の心を少しだけ浮き立たせた。
私の日常はいつも通り。
何も変わらない。
ただ布団と鞄が消えていただけ。