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ある政治家の演説、日本復興

作者: 爛夢瀧

 ある政治家の演説は、とても政治家のものとは思えない言葉から始まった。


「皆さん、私には人を殺す覚悟があります」


「救国の覚悟」、と保守系の論壇から評されたこの演説の最初の言葉は、確かに聴衆の心に何かを打ちつけるものであった。


「もし、私が思い描く通りに政治を行った場合、比喩ではなく本当に首をくくる人が出てきます」


 一切の音が消えたかのような、会場を見まわして、政治家は続けた。


「日本には生活保護などのライフラインがあるじゃないかと思われるかもしれません。でも人の心は複雑なものであると私は知っています。だから、私が政治を行ったら、人は死ぬでしょう」


「でも、もし、それを避けたら、このまま日本人は消滅し、日本はなくなります。だから私は人を殺して、日本を生かしたいと思います」


「私は、確信しています。国の力とは、国民の行う活動そのものです。だから私は、この国が存続していけるように国民が活動できるようにしていきたい」


「しかし今ここに大きな大きな障害があります。それは「お金」という何か実体があるもののように見える幻想です」


「今、この国の政治家は、国民は……いやこの国だけではないかもしれません。その「お金」という幻想に取り憑かれています」


「皆さん、本当はお金に実体なんてないのです。ただ人が活動しているだけなのです。考えてみてください。お金って紙切れや金属、今はそれすらないただのデータだったりします」


「だから、今この瞬間、「円」というお金を無くしてしまったって、何かそれに代わる、例えば「両」という概念に置き換えたってかわないわけです。もっといえば、置き換えなかったとしても、人々は混乱をしつつも何らかの活動を続けます。つまりただの概念なのです」


「だから、別の惑星の無人島に、1憶2000万人全員が、円をもたずに移住したら、お金なく活動し、そのうちまた便利なその概念を作るだけなのです」


「みんなで道路を作りましょう、でも道路を作るのが得意じゃない人がいるから、得意な人にやってもらいましょう。その変わり道路を作った人は、他の何か、例えば服を作るのが得意な人に服を作ってもらうための引き換え券を渡しましょう」


「それを汎用化したものが「お金」なのです。そのようにした方が……得意な人が得意なことをした方が、社会がうまくいく、ただそれだけなのです」


「だから、お金は、人の活動がうまくいくために補助するもの以外のものではないのです」


「「みんなの意志でみんなのためにこの活動をしていこう。そのためにお金という概念を使おう」これが、本質です。だからお金を刷ることは、人が皆で何かをしようという意思の表明です」


「でも、皆さん当たり前に疑問に思うでしょう。お金を刷り続けたらお金が溢れてしまうじゃないかと」


「その通りです。ですがこれは調整されます。まずは、自動的にお金の価値が下がることです。お金の価値はお金の量が増えることでインフレし少しずつ下がります。これは、過去の活動の対価として得たお金よりも現在の活動の対価で得たお金の方が価値がありますよ、ということでもあります。そして、補助的な役割として税金という形で回収し調整していきます」


「皆さん、今だって、政府はひた隠しに、まるでお金は今この世の中に出回っているもので全てであるかのように扱っていますが、そんなことはないのです」


「だって、紙のお札なんて燃えればすぐなくなるようなものなのに、なくならないじゃないですか。昔の1円と今の1円の価値は全く違うじゃないですか。国民にわからないようにごまかしながらお金を刷ってそれを何食わぬ顔をして使っているのが政府です」


「だから私が行う政治は、お金ありきではありません。「皆の役にたつ活動、ただそれだけ」です。皆で何をしていくか、それだけを決めるのです」


「今の日本の病の根本原因はこれです。政府が、お金ありきで考えて国民の良質な活動を阻害しているのです」


「この幻想が解ければ、あとは簡単です。皆の役にたつ活動とそれに繋がるものを行い、そうでないものを行わないようにする。これだけです。何の役にたっているかわからない活動を後押しし、または放置することは、国の力を削ぐことに他なりません」


「昔、バブルってありました。実体がないものと言われました。全くそのとおりです。だからその調整をしないといけなかったのにその調整をしなかった結果あのようなことになったのです。あのバブルは全く持って皆の役にたつ活動ではなかったのです」


「逆に、昔、ちゃんとインフラを整備しました。その結果日本は発展しました。あれは、必要な、皆の役にたつ活動でした。少し前まで作っていたいらない箱ものとはわけが違います」


「だから、私は、やるものとやらないものをしっかりわけます。今一番必要なものは、少子化対策に関連する全てのものです。これは、お金をたくさん刷ってでも必ずやります。衣食住に関わるものも、しっかりやります」


「そして、法律は作っても、予算はほとんど使わなくするものもあります。例えば、SDGs、LGBT、男女共同参画関連等は、予算を最小化します。ここは、国民の皆さん自身で、考えて一定の結論を出すことが必要です。こういった問題に政府が寄与するのは、お金ではありません。皆さんで真剣に考えて何かを決めたら、そこで必要なら法律を作るだけです。今の若い方には良識があります。男だから、女だから、そんな偏狭な価値観は若い方ほどないことを私は知っています」


「そして、またお金を出さず、法律も作らないものもあります。政府の諮問機関として権威をかさにきて、国民の活動に真に寄与していると思われないような団体にはお金を出しません。また法律のお墨付きも与えません。日本は自由な国です。勝手にやってもらって構いません」


「多くのNPO団体への補助金もたくさん削ります。本当に必要な部分は、本来、役所自身で行わなければならない部分が多いからです。賛同のできる活動については、政府からのお金ではなく、広く国民や企業などから寄付を募る等して活動してほしいと思います。それが、真の社会貢献に繋がると私は考えます。賛同を得るのは、政府ではありません。国民です」


「だから、こういった活動をしていて、またはこういった活動のおかげで生きてきた方達の中で立ち行かなくなる方も出てくるでしょう。私は、その人達を殺すことになります。それでも、このままなら間違いなく滅びゆく日本を私は存続させたいのです」


「私は、日本が、再度復興することを信じています。だって、本当は皆が自分のできることをやって協力すれば、うまくいって当たり前じゃないですか。ただ、あるのは人間の活動だけなのです。それを阻害している政治を変えたい。ただそれだけなのです」


 この演説の数か月後、政府与党は、雲散霧消し、その後、日本国民は、自分達で国を救っていくことになるのである。


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